今後の国際情勢に大きな影響を与えるトルコの動向
エルドアン時代のトルコが上手なのは、中国やロシアからの技術供与を受けて弾道ミサイルの開発に乗り出し、同時にNATO加盟国の地位を上手に利用して、アメリカやフランスからも地対空ミサイルシステムのノウハウを受けて自国の防衛能力を拡大・強化するのみならず、同時に技術を国産化して武器の輸出国というステータスも築いて、表では外交による調停・仲介に乗り出しつつ、並行して“戦いを続けるための兵器”を交戦国に提供しています。
欧米諸国がウクライナ支援を思いとどまるときにも、トルコは水面下でウクライナの対ロ継戦能力を下支えすべく武器を売り続け、同時にウクライナに無人ドローン技術の提供まで行って儲け口を維持していますし、ナゴルノカラバフ紛争の際には、同じトルコ系の国であるアゼルバイジャンを全面的に支え、アルメニアを完膚なまでに叩く材料を与えながら、見返りとしてちゃっかりアゼルバイジャンのエネルギー権益を得て、戦争が至る所で起きる中、しっかりと利益を獲得することに成功しています。
現在、トルコでは多層型防空システムであるスチール・ドーム構想が急ピッチで進められていますが、これは直接的な仮想敵国はイスラエルですが、防衛システムのみならず、しっかりと攻撃能力も高めており、イスラエルとの交戦という最悪のシナリオにも備えています。
そのような中、12日間戦争でイランの防空能力がイスラエルに砕かれたことを逆手に取り、反イスラエルの立場で協力して、イランの軍事力を高めることに尽力するのではないかとの読みがあります。
その背景には、対イスラエルで前面に立つことなく、イランを前面に押し出しつつ、イランの防空能力に加え、弾道ミサイルによる攻撃力を高めることで、間接的にトルコの防衛力強化に結びつけようという狙いが透けて見えてきます。
ここでカギとなるのが、イランと水面下で協力することで、反イスラエルの立場を鮮明にするという外交姿勢を示すと同時に、中国そしてロシアとの技術協力の強化が進み、地域におけるトルコの影響力が高まるというシナリオの存在です。
NATOの一員でありつつ、ロシアや中国ともポジティブな関係が存在し、技術・経済的なパートナーシップが成り立っています。
かつてのように軍事面での協力体制もありますし、ロシアによるウクライナ侵攻の際には、トルコは制裁に加わることなく、ロシアとも分け隔てなく付き合うことを選んだため、現在の複雑な国際情勢下でも特殊な立ち位置を保つ要因になっています。
ハンガリーと共にNATO内で行き過ぎた反ロシア政策にストップをかけ、トルコのEU入りを実質的に諦めた結果、EU諸国が頭を悩ます難民を巡る措置をカードに、対EUでの交渉力、および反トルコ政策に対する抑止力を確立していると言えます。
イスラエルに対する厳しい態度は例外と言えますが、ほぼ全方位外交を展開して、混乱が極まる国際情勢におけるハブ的な立ち位置を得ているように見えます。
じわじわと回復しているトルコ経済、伸び続ける軍事力と軍需産業の影響力、ロシア・中国組と、アラブ全体、そしてNATOの枠組みを通じた緊張感を保ちつつも有効な関係を維持する欧米社会とのつながり、そしてスタン系の国々をはじめとする中央アジアにおける影響力の拡大を兼ね備える中、トルコの動向が今後の国際情勢に対して大きな影響を与える可能性が高まります。
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