「今は政権をとりたくない」という野党の本音
このような事態に、あえて「石破降ろし」を仕掛けて火中の栗を拾おうとする自民党の実力者がいるかどうか。高市早苗氏が新総理になって、多数を占める野党とうまくやっていけるだろうか。安倍元首相の後継者を自任する高市氏は、立憲、共産、社民はもちろん、維新や国民民主とも距離がある。
小泉進次郎氏はどうか。改革派イメージはあるものの、実務経験が乏しく、党内基盤が脆弱。調整力にも疑問符がつく。古い政府備蓄米を安く売るパフォーマンスで“進次郎劇場”を盛り上げたとはいえ、一時的なものだった。
それなら、むしろ今の政権がマシ。退陣するほうが無責任。というのが石破首相の身勝手な考え方ではないだろうか。
衆院で少数与党になった昨年の衆院選後、石破政権は独自政策を突きつける各野党との個別の駆け引きをこなし、予算案も通し、内閣不信任決議案を出されることもなく、難しい局面を乗り切ってきた。
石破首相は維新の前原共同代表とツーカーの仲だし、立憲の野田代表とも財務省寄りの姿勢で波長が合う。森山幹事長は立憲の安住・衆院予算委員長ら野党幹部と良好な人間関係を築いている。石破首相を支えているのは、そんな“自負心”に違いない。
石破首相の“シナリオ”通り、日米の関税交渉は23日、合意に達した。トランプ大統領が「25%」としていた相互関税、自動車関税ともに「15%」という内容だ。莫大な対米投資を前提としているが、当然、石破首相は成果を強調する。
「関税より投資と、ことし2月のホワイトハウスでの首脳会談で私がトランプ大統領に提案して以来、一貫してアメリカに対して主張し、働きかけを強力に続けてきた結果だ。守るべきものは守った上で日米両国の国益に一致する形での合意を目指してきた。トランプ大統領との間でまさにそのような合意が実現することになった」
もちろんトランプ氏が勝手に数字をつりあげた「25%」に比べると、低くはなった。関係者はひとまずほっとしただろう。しかし、もともと日本車に対する関税は2.5%だったのだから、喜んではいられない。
これを経済界やメディアはどう評価するのかが、石破首相の最大関心事だ。内閣支持率を好転させ、「続投」の拠り所としたいからだ。しかし、強気一辺倒でもない。「交渉の成果を踏まえ進退をどう考えるか」と記者に問われると、石破首相はこう答えた。
「赤澤大臣が帰国し、詳細な報告を受ける。実行にあたっては、アメリカ政府の中で、必要な措置を取っていくことになる。そのあたりも含め、よく精査をしていきたいと考えている」
「精査をする」とはどういうことなのか。合意内容を精査するのは当然だが、合意に対する今後の世論の動向もみて、進退を考えたいという意味が含まれているのではないか。となると、「続投」といってもかなり短期になる可能性もあるわけだ。
そもそも、国民に「ノー」を突きつけられた政権がこれからも長く命脈を保ちうるとは思えない。衆参両院とも与党が「少数」というのは、政権崩壊寸前と言ってもいい状況だ。
1993年の総選挙後、瞬間的に自民党が両院で「少数」となったが、小沢一郎氏の画策で非自民の細川連立政権が成立し、政権交代した。だが今回は、野党側にまとまる気配がない。だからこそ、石破首相は21日に党の臨時役員会を開いて了承を求めただけで、たやすく居座りを決め込むことができた。
野党は野党で、今は政権をとりたくないのが本音ではないか。自民党から連立入りを持ちかけられても、支持者の反発を覚悟で自公の泥船に乗るとは思えない。むしろ野党としては、責任を自公に押しつけたまま、少数与党のもとでの政策実現をはかり、自公のさらなる弱体化につなげていく方が得策だ。
この記事の著者・新 恭さんを応援しよう









