「トランプに屈して80兆円を献上した売国奴」のレッテルは絶対に貼られたくない。石破茂が“首相続投”にこだわる真の理由

 

明らかに米商務長官の説明と食い違う国内メディアの報道

以上の発言でわかるように、米側の言う“投資”とは、日本企業がアメリカで事業を行うということではない。アメリカ政府が指定するプロジェクトに、日本の政府系金融機関などから出資や融資の形で資金を提供するというものだ。

ところが、政府からどのような説明を受けているのか、日本のメディアの中に、明らかにラトニック商務長官の説明と食い違う報道があった。たとえば、ANNニュース。

政府系金融機関による出資や融資、低金利の融資保証などを通じて投資を促すもので、実際に担うのは、民間企業です。

これだとまさにラトニック氏が否定する「日本の企業がアメリカに工場を建てる」という類の話になってしまう。

トランプ政権によるアメリカ国内向けのアピールと、日本政府の説明をもとにしたメディアの報道が入り乱れるなか、26日のNHK「サタデーウオッチ9」で、ようやく交渉担当の赤沢亮正・経済再生相が詳細に語った。

出資、融資、融資保証、合わせて5,500億ドルまで日本の政府系金融機関が枠をつくるということ。融資は貸した金が利息を付けて返ってくるし、融資保証には保証料が入ってくる。

利益配分が問題になるのは出資だが、5,500億ドルの1~2%にすぎない。その利益を日米で折半にしようと提案したが、米側90%で押し切られた。しかし、それで失うのはせいぜい数百億円。関税が15%に下がり、10兆円の損失を回避したことが大きい。

やはり日本側は「銀行家」の役割を担うらしい。だが、赤澤氏の言い分は、あまりに楽天的だ。気まぐれなトランプ大統領が、安全保障上必要だとかなんとか言って事業を指定してくるのである。たとえその収益性に疑問があっても、日本側に意見を差し挟む権限はない。もし、そのプロジェクトが失敗したら、どうなるのか。

財務省OBである国民民主党の玉木雄一郎代表もその点を懸念し、石破首相から説明を受けた後、記者団にこう語った。

国際協力銀行が出資、融資するとしても、財投債を発行するとしても、もし資金が焦げついたら、日本国民の税金で埋めることになる。マックス80兆円が国民負担。こういう合意を結んで、しかも文書がない。トランプが気に入らなければ25%に戻るかもしれない。これは、ちょっとひどい。

たしかに、今回の合意は、あまりにも一方的な“対米従属”である。しかも、そのプロジェクトが成功するという保証は全くない。

もしかしたら、共同文書を作成しなかったのは、日米がそれぞれの国民に向け、政権に都合のいい“成果”だけをぶち上げることができるようにする目的があるからではないか。だとすれば、ラトニック長官と日本政府の説明内容の食い違いも、最初から想定内の話だ。

石破首相としては、少なくともこの関税交渉に世間の注目が集まっている間は、合意の内容を曖昧にしておきたいのかもしれない。常識的には、共同文書を作成して合意内容を確認するべきだが、それについて、赤澤大臣は「早く関税を15%に引き下げる大統領令を出してもらうのが大切で、共同文書に時間をかけられない」ときっぱり否定している。しっかり詰めた合意内容なら、共同文書の作成にそれほど時間を必要としないはずだ。

つまりは、今さら双方に認識の違いがないよう合意の細部を確認し合っても、トランプ大統領に混ぜ返されて、藪蛇になるだけ、ということではないだろうか。

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