塾産業と経産省の陰謀としか思えぬ公立高校の大学受験対策ヤル気ゼロ。「教育格差」の犠牲になる子どもたちと衰退が止まらない地方の大問題

 

「出題範囲の上限が易しすぎる」という受験制度の弱点

2番めは「天井の押さえつけ」です。変化の早い時代になり、最先端の技術はどんどん先へ進む時代です。ですが、日本の場合は受験制度があるために、中学は中学の、高校は高校のレベルを超えた高度な学習の機会は、完全に個人の努力に任されています。近年では、科学オリンピック参加とか、大学への飛び級なども見られるようになりましたが、これは極めて限定的なトップレベルの話です。

それ以外の普通の学生の場合は、何よりも受験に受からないと先へ進めません。ですから、本当はもっと高度なことをやりたくでも、高校の期間は受験に専念するということになります。つまり期待される学力の内容が「頭から抑えられている」ということなのです。

最も弊害の大きいのが、大学受験ですが、無視できないのは大都市圏を中心に大流行している中学受験です。せっかく前思春期の安定期間に差し掛かっている子どもたち、しかも曲がりなりにもモチベーションがある子達に、インチキな背伸びをさせた国語読解や、未熟な理解を元に時事問題の知識を詰め込ませるなど、教育的には言語道断だと思います。

良くないのは理数系で、4年生から6年生までの3年間、塾などでかなりの時間と熱量を入れて、ベースの基礎力のある子達に訓練をするのなら、せめて周期表とか平方根、二次方程式ぐらいまで引っ張らないとムダです。

自然観察に毛のはえた理科とか、つるかめ算的なインチキな「なぞなぞ数学」で、そのくせ難問奇問で脳の筋トレというのは、全くのムダです。まして、近年は各中学が自己流で英語の試験までするのですから、迷走もいいところです。

要するに、大都市圏では、一種のエリート教育が塾に丸投げで、しかも、進路指導も含めて公立小学校の教員は中受にはノータッチ、塾のクオリティは文科省的にはノータッチ、という無政府状態です。そのうえで、首都圏など大都市圏では、「公立中学の崩壊を半世紀以上放置」しているのです。

そこまでやって、それでも自由競争の結果として保護者に選択された塾が、まあまあのエリート教育をしているのならいいのですが、とにかく学習内容には「天井からの抑え」があって、周期表も二次方程式も教えられないというインチキな内容に、壮大なエネルギーを投入。こういうことを半世紀以上続けていれば、国家が衰退するのも当たり前ということです。

受験体制の何が悪いのかというと、それは子どもに勉強を無理強いしているとか、過酷な競争を強いているからではありません。そうではなくて、受験の出題範囲の上限が、大学入試も中受も易しすぎるのです。

もっと言えば、地頭(じあたま)の良い学生を選抜して入社させ、あとはOJTで鍛えれば国際競争力がつくという時代はとっくに終わっています。大学の段階で、個々の人材に競争力をつけないと、全体では負けるのです。ですから、このような「内容が頭打ち」になるような受験制度は止めなくてはなりません。

実は、その意味では各大学は生き残りをかけて、推薦枠や帰国枠などを拡大して、インチキな一般入試ではない、本物のモチベーションや可能性のある学生を奪い合っています。

にもかかわらず、就職試験では一般入試でないと「地頭の証明がない」などと困っているのですから、日本企業のバカさ加減にもいい加減にしろと言いたくなります。いずれにしても、受験制度の弱点は「易しすぎる内容」にあるのです。

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