塾産業と経産省の陰謀としか思えぬ公立高校の大学受験対策ヤル気ゼロ。「教育格差」の犠牲になる子どもたちと衰退が止まらない地方の大問題

 

広陵高校の問題でも証明されたインチキな封建主義の残存

3つ目はコミュニケーションです。近年は、各企業の現場には多様な人材が集まっています。参政党の嫌いな外国人だけではありません。日本人の中でも、まともな職場はほぼ男女同数になり、転職組もあり、年齢と職位は一致しなくなっています。実力主義は当たり前で、管理のできない管理職、専門性のない専門職はどんどん淘汰されています。

そのような中で、年齢や職歴だけで、あるいは男性だというだけで自動的に権力が付与されるということは、一般社会ではありません。むしろ、人間同士は職位や年齢にかかわらず対等であり、管理職の役目は威張ることではなく、部下のモチベを最大化して、チームのモラルを上げて、生産性を上げることにシフトしています。

このように時代が変化しているのに、例えば高校の部活や大学の運動部では、今でも江戸時代のような「学年が上だと自動的に権力が付与される」という奇怪な封建主義が残っています。広陵高校の問題は、いじめの被害者が転校させられたということだけでなく、明らかにこの種のインチキな封建主義が残っているということなのです。

そのような全体のパフォーマンスを壊す封建的リーダーシップを叩き壊すのではなく、むしろ擁護しているのではないか、広陵高校の問題は決してこの1校の問題ではありません。多くの高校の体育会で、あるいは吹奏楽部もそうですが、いわゆる体育会気質というのは、21世紀の現代においては害悪でしかないのです。

コミュニケーションということでは、このような上下のヒエラルキーだけではありません。ネットやSNSが後押しする格好で、小学高学年から高校生まで、コミュニケーションの様式が変わっています。それは、濃密で頻繁なコミュニケーション、そして濃い場の空気の存在による「グループの内閉」であり、「他者の疎外」ということです。

仲間内の隠語や非言語コミュニケーションがどんどん肥大化して、転校生が溶け込めない空気を作ったり、異端を阻害して孤立に追いやるという傾向です。この問題は、一進一退の厳しい状況にあり、何よりもいじめや不登校の元凶となっているのですが、文科省は全く動きません。「あだ名は止めましょう」的な「お達し」は出るのですが、仲間内の濃密なコミュニケーションを「開かせる」という発想はゼロです。

その結果、日本の学校というのは健全な社会性を学び、身につける場ではなく、閉鎖的な仲間内の「濃厚な場の空気」と、自動的な上下ヒエラルキーによる「統制が暴力化する牢獄」という、人間性に反する経験をする場になっているのです。

その結果として、仮に被害者にならなくても、加害者や傍観者になって無力感に落ち込む人間を大量に作っています。近年では「介入しなくていい」などという人間性の敗北主義まで横行しています。

こうしたカルチャー全体が、日本社会に病理をもたらし、個々人の自己の尊厳を壊し、自発的なモチベーションや、人間関係や社会を健全で生産性のある空間にできない、異常な社会を作っているのです。これも35年の低迷の結果というよりも、原因と言えるでしょう。

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