文部科学省により、小学6年と中学3年を対象に実施されている全国学力テスト。先日発表された結果は学力・学習意欲とも前回を下回るものとなり、問題視する声が各所から上がっています。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では健康社会学者の河合薫さんが、「深刻にうけとめるべき」との見解に理解を示しつつ、その真因を考察。さらに「大人社会」こそが解決すべき問題を提起しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:子供の学力低下と低学歴社会ニッポン
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
大人の側はどうなのか。子供の学力低下と低学歴社会ニッポン
小中学生の「学力低下」が話題になっています。
文科省の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)で、小学6年生の国語と算数、中学3年生の国語、数学、英語のうち数学以外のスコアが低下。
子供の学習する意欲の低下も顕著で、平日に1時間以上勉強する児童生徒の割合は小6で37.1%、中3で58.9%で、前回21年度調査から各々7.8ポイント、9.2ポイント下がっていました。
また、家庭の経済力による格差の広がり、スマホやテレビゲームをする時間の増加、「学校生活が楽しければ良い成績をとることにこだわらない」と考える保護者の割合も5割超で、17年度の調査を8ポイントほど上回ったこともわかりました。
大手メディアでは学力が低下している現状を「深刻にうけとめるべき」との見解を示していますし、私もそう思います。
しかし、はたして大人の学力はどうなのか?
大人の学習時間は?
大人の経済的・社会的格差は?
大人世界は「がんばったら報われる社会」なのでしょうか?
いつの時代も「子供世界は大人世界の縮図」です。子供たちの学力低下の真因は、大人社会の学力のあり方に問題がある。そう思えてなりません。
日本の博士号取得者の数は他の先進国を大きく下回り、しかも減少傾向にあることはご承知のとおりです。
欧米では博士市場は広がっていて、大学や企業の研究開発だけではなく幅広い分野で活躍しています。しかし、日本では「博士」を生かす社会構造になっていないのです。
昨年、経団連が行った調査で、2022年度に理系の博士人材の採用がゼロだった企業は、23.7%。今後5年程度先の採用方針についても、「増やしていく」と回答した企業は新卒、経験者いずれも2割を切っていました。
2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典博士は、「大学で博士号を取得する学生が減っていて、日本の科学技術力が低下する要因になっている。研究のすそ野を広げるためにも博士課程に進む人が多くなることが大切」と訴えていましたが、博士市場は改善されるどころか悪化しつづけています。
【関連】止まらない日本の低学歴化。博士号取得者が採用されぬ我が国の行く末
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成功法則が通用しない現代にこそ必要な「知の体力」
高度成長期には企業に勤めながら博士号を取得する企業博士が多くいましたが最近は滅多にいなくなりました。
博士号は「足の裏についた米粒」のようなものですが、博士号取得を目指す過程で身に付く「知の体力」こそが、博士の真の価値です。
「勉強する→考える→問題提起する→実証する→解決する」というループを回し続けるうちに、問題を見つける力、言葉にする力、協働する力、創造する力、具体的に動く力などが、レンガを積み上げるように身につきます。
知の体力は、成功法則が通用しない現代こそ必要な力です。
ところがその力を企業は評価しません。
自分が積み上げてきたことをきちんと評価されている「先輩のたのもしい背中」があるからこそ、そのあとに次の世代も続く努力をするのに、その「背中」がないのです。
子供の学力低下を憂うのもいいですが、大人社会の解決すべき問題にも真剣に向き合う。その誠実さが求められているように思います。
みなさんのご意見、お聞かせください。
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