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AIでも宇宙開発でもない?世界の頭脳と富が集まるシリコンバレーで話題をさらう「死ぬな教」教祖の“サプリ100錠”生活という異常な日常

にわかに降って湧いた元サントリーHD会長・新浪剛史氏の「大麻サプリ騒動」が話題をさらっている日本。一方アメリカでは、1日100錠以上のサプリを飲み続ける起業家が大きな注目を集めていることをご存知でしょうか。今回のメルマガ『小林よしのりライジング』では、漫画家・小林よしのりさん主宰の「ゴー宣道場」参加者としても知られる作家の泉美木蘭さんが、そんな起業家が起こした「新宗教」を詳しく紹介。その上で、このムーブメントが抱える大きな問題を指摘しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:泉美木蘭のトンデモ見聞録・第372回「“サプリ100錠”教祖の『死ぬな教』」

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やってる本人大マジメ。“サプリ100錠”教祖の「死ぬな教」

米国シリコンバレーで話題沸騰。突如現れた「新興宗教」

米国サンフランシスコの一角、シリコンバレーには、Amazon、Apple、Google(YouTube)、Facebook、Netflix、Zoom、Adobeなどネットを使っている人なら一度は触れたことのあるサービスを開発した巨大IT企業がひしめいている。

検索、買い物、SNS、スマホ、動画配信からリモート会議まで、私たちの生活を牛耳る企業群だが、ここには巨額の投資マネーが流れ込み、とてつもない富を手にした超大金持ちもいる。

そのシリコンバレーで最近の話題をさらっているのは、人工知能でも宇宙開発でもなく、なんと「死なないこと」。

「Don’t Die(死ぬな)」をスローガンに掲げる新宗教「死ぬな教」が立ち上がったのだ。

教祖は、ブライアン・ジョンソンという47歳の起業家。2007年に創業した決済システム会社を、数年で大成長させて1,124億円で売却、財を成した億万長者だ。

そのジョンソンが、新たな挑戦として「人間の寿命」に投資すると宣言。

AIやバイオテクノロジーなどの最先端技術を総動員して、自分自身を「死なない身体」にするための超激しいアンチエイジングに取り組み、その様子をつぶさに発信しはじめた。これに共鳴するアメリカ人が続々集まって、カルト宗教化しているというのだ。

写真左が39歳の時、右がアンチエイジングを開始して数年経った47歳のジョンソンだ。

image by: Tribeca Disruptive Innovation, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(左) ,  Instagram(bryanjohnson_)(右)

んー…。以前の顔のほうが親しみやすい。アンチエイジング後のほうは、欧米人の47歳にしては若く見える気はするが、肌が異様になめらかで、不健康に青白く、なんだかAIで生成した画像のようである。

体脂肪率6%、ベンチプレス100kg、心臓の年齢は37歳、皮膚は28歳、肺活量と腸の年齢は18歳、「アンチエイジングをはじめてから生物学的年齢を5.1歳若返らせた」という。

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かかる金額は年間3億円。ブライアン・ジョンソンの「死なない」生き方

ジョンソンは、年間3億円以上をアンチエイジングに投じているらしい。 その日常を紹介しよう。

何より重要なのは「睡眠」だという。物音で睡眠を妨害されないよう特殊な音波を流した寝室で、夜は必ず20時半に就寝、8時間34分の睡眠をとって朝5時に起床。アラームを使うと脳に悪影響があるとかで、自然に目覚めるらしい。

起床すると、まず日光浴と同じ効果が得られる、紫外線カットの特殊な光を3分間浴び、3錠のサプリメントを飲む。

次に、育毛を促進させる312個のLEDが仕込まれたキャップを6分間かぶり、遺伝子情報から導き出した液体を頭皮に塗布。

そして、副交感神経を優位にさせる電極を耳につける。

5時25分、クロレラ粉末やアミノ酸などを水で溶かしたドリンクで、54錠のサプリメントを飲む。

5時30分、自宅ジムで35種類の激しいトレーニングを1時間。

6時45分、プロテインと11錠のサプリメントを飲む。

その後は、30分おきに5分間の運動をしながら仕事。

9時00分、ボウル一杯の野菜や豆を、足を前後に開脚ストレッチさせた状態で食べる。

食後は、電気筋トレマシンを腹部に当てて、30分で2万回の腹筋運動。

身体の治癒力を高める赤外線マシンで、12分間赤外線を照射し、聴力回復ヘッドフォンを装着。

11時00分、昼食としてボウル一杯の野菜と、謎のペースト状のものを開脚した状態で食べて、34錠のサプリメントを飲み、この日の食事は終了。翌朝まで何も食べない。

摂取している食糧、サプリメントは、月間750万円かけて成分調査が行われており、少しでも有害成分が含まれるものは排除しているという。

午後は、血液採取、全身超音波検査、マイクロカメラの入ったカプセルを水で飲み込んで腸内撮影を行い(1回500万円)、陰茎への衝撃波療法、胸腺若返り術、肺の老化細胞除去療法、幹細胞注射、血漿注射などを受ける。

夜には5種類の歯磨きグッズで口腔ケアを行い、ミトコンドリアを若返らせるジェルを塗布、必ず20時半に就寝。そして8時間34分眠ったら、自然に5時に目覚めてまた同じ日課をくり返す──。

1日100錠以上のサプリメントを飲み、必死に「死なない」ための日課をこなすこの生き方、なにが楽しいのか私にはまったく理解できないが、アメリカ人の中にはジョンソンに共感する人々や嫉妬する人々は多いらしく、本人は大真面目で、メディアの取材にこう語っている。

「Don’t Dieは、民主主義や資本主義、キリスト教、イスラム教などと並ぶ人類全体のイデオロギーになります。身体こそ神なのです」

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AIに知性は任せ人間の形をしたプラスチックみたいなモノに?

ジョンソンは、「Don’t Die Summit(ドントダイ・サミット)」というシンポジウムをサンフランシスコ、マイアミ、ニューヨークなどアメリカ主要都市で開催し、4,000人規模の参加者を集めている。

そこでは老化研究ベンチャーやバイオ企業、ノーベル賞受賞者らが登壇し、「死を遅らせる」「若返る」「不老不死を実現する」といった最新研究やビジネスについて議論が交わされる。

熱気ある最先端医療の発表会にも見えるが、映像では、集まったアメリカ人たちが、「DON’T DIE」とプリントされたTシャツを着て円陣を組み、「私たちは正しい」と言い合ったり、満面の笑みで「どんとだーい!」と絶叫したりする場面もあり、さながらカルト宗教のようでもあった。

シンポジウムやメディアのインタビューで、ジョンソンはくり返しこう語っている。

「AIの進歩によって、“人間とは何か”を再構築する必要が出てきました。仕事はどうなるのか?アイデンティティは保たれるのか?誰を信用すればいいのか?これらの疑問に対して、私は“DON’T DIE”を提唱します」

「知性が超越的な領域に達すると、存在だけが価値となります。存在こそが目的となるのです。私たちは、“身体こそが神だ”という考えを広めています。毎週の集まりでは、マントラを唱え、自分の身体に謝罪する時間を設けています」

「“DON’T DIE”は、人類全体の宗教だと思います。誰もが行える、分散型の宗教です。今後1~2年で最も影響力のある世界的イデオロギーになる必要があります」

存在だけが価値、存在だけが目的で、そのために死なない身体を手に入れるということは、人間として意識を持つことをやめて、変化することを拒絶する、即自存在になるということだ。

私には、こう言っているようにも聞こえる。

「AIに知性は任せて、みんなで人間の形をしたプラスチックみたいなモノになろう!」

実際、それを目指しているんだろう。ジョンソンは、毎日摂取する食物やサプリメントの内容、検査やトレーニングの種類を、すべて専用のAIに決めてもらい、AIの処理手順と一体化して生きているそうだ。

自分で考えて、自分で決めて生きることが、よほど嫌なのだろうか。

image by: Katriece Ray , CC0 1.0, via Wikimedia Commons

シリコンバレーの億万長者の間では、「若返り」「不老不死」への興味関心は半端ではないようで、ジョンソンの日々の様子は映像化され、Netflixで『DON’T DIE “永遠に生きる”を極めし男』というタイトルで日本向けにも公開されている。

映像では、ジョンソンがモルモン教の家庭に生まれ育ったことが明かされていた。モルモン教は、キリスト教系の新興宗教で、「神に近づく」信仰と厳しい戒律を重んじる宗教だ。

仕事で大成功したジョンソンは、教義と現実社会との乖離に悩み、鬱になって、モルモン教を脱会。教会の決まりで離婚させられたという。

そこから立ち直る過程でたどり着いたのが、「自分の心を信じるのではなく、身体に従って生きること」だった。つまり、モルモン教の神を捨てた代わりに、自分の身体を神に置き換えなければ、生きられなかった人なのだ。

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始まったカネに糸目をつけない「死なない」ための爆走

そこまでなら、気の毒な人だな、一神教の世界ってそうなるんだなという話で終わるところだが、ジョンソンには、巨万の富とシリコンバレーのテクノロジーがあった。

以降、カネに糸目をつけず、「死なない」ために爆走しはじめるのだが、やがて「若い血を輸血する」という禁断の治療にまで手を出す。若返りのために、18歳の息子から血漿を輸血するという「治療」を行っているのだ。

ある実験では、年老いて心臓の肥大したマウスと、若いマウスとを外科手術で結合させ、それぞれの静脈と動脈をつないだまま4週間置いたところ、年老いたマウスの心臓が正常な大きさに戻り、認知機能や代謝、骨密度の改善も見られたという。

この研究は、認知症やパーキンソン病に効果があるのではないかと推測されているそうだが、米政府機関からは「血漿で若返るという結果ではない」「人体に対してはリスクがある」と警告が出ている。

だが、ジョンソンは「死なない」ためなら躊躇しない。

息子から1リットルの血液を抜き、機械で血漿を分離して、自身に注入。

げげっと思うが、息子以外にも、他人の若いドナーから何度も血漿を受けているので慣れているらしい。

ただ、ジョンソンの場合、「ドナーになってくれるなら、どなたでも結構です」というわけではない。候補者を事前に調査して、「理想的な体格指数(BMI)」を持ち、健康的な生活を送り、病気にかかっていないことを確認してから選ぶのだという。

なんというか、浅ましさが極まっていて、嫌悪感でいっぱいになる。

「死なない」ことに魂を売った、吸血鬼なのでは……。

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「シリコンバレー発のムーブメント」として伝えられつつあるという問題

こういうビジネスは、アメリカでは以前から行われているらしい。

ほとんどの場合は、貧しい若者が、富裕層のために血漿を提供するというもので、提供者には100ドル前後のギフトカードが渡されるという。日本円で約1万5,000円だ。

年長者が若者から血をもらって若返ろうとするなんて、私には、ホラーとしか感じられないが、キリスト教圏では、死は「倒すべき敵」であり、若さは「神」に近い理想像とされる。だからこそ、「若者の血で老化を止める」という研究も真剣に議論され、投資も行われてきたという。

そもそもキリスト教圏では、世界の終わりの時に、最後の審判が開かれ、信者には「復活の身体」「栄光の身体」と呼ばれる、老いも病も超越した永久不滅の身体が与えられるとされている。

つまり「若返り」や「死なない身体」は、宗教的な理想像とも親和性があり、「死を倒すために科学に投資する」のは自然な流れでもあるのだ。

ジョンソンだけでなく、Amazon創業者、Google創業者、ChatGPTのOpenAI創業者などシリコンバレーの大富豪たちは、こぞって若返りや不老不死研究のために巨額の資金を投じている。

一方、本来の日本人には、そのような価値観はない。

「できるだけ若々しくいたい」「元気でいたい」という気構えはあっても、根本的に、死ぬことや老いることは「敵」ではなく、自然のめぐりとして受け入れようとするからだ。

だから、還暦、古希、喜寿、傘寿、米寿、卒寿……と「老いを祝う」文化がある。寺で薬師如来や延命地蔵を拝み、「病気治癒」「健康」「長寿」を願う人はいても、「永久に生きられますように」と願う人はいないだろう。

死に際しては、「老衰で眠るように亡くなった」「立派に天寿をまっとうして、安らかに旅立った」という意味で「大往生」と言う。死ぬことを「敗北」とは捉えないからこそ、日本にはそのような表現が存在するのだ。

ジョンソンはこのほかにも、米国内で禁止されている「フォリスタチン遺伝子治療」を受けるために、規制のゆるい海外の島まで通っている。DNAを体内に注入する危険な実験だ。

この人、そのうち死ぬんじゃないかと思えてくるのは、私が最新医療に疎いからなのだろうか?

アメリカの大富豪は「死を打ち負かす」ために巨額を投じ、サプリメントをがぶがぶ飲んで「どんとだーい!」と絶叫し、若者の血を求め、変化しない身体を求める。

一方で本来の日本人は、老いを祝い、死を自然な節理として考え、「変化」や「移ろい」を受け入れていく観念がある。

ブライアン・ジョンソンの奇異な日常を見て、文化と信仰、死生観の大きな違いが見えた。

ただ問題は、これが「シリコンバレー発のムーブメント」として伝えられつつあることだ。日々、米国のITサービスを利用する私たちは、知らず知らずのうちに、本来の日本人とはかけ離れたイデオロギーを、情報として、あるいは商売のキャッチフレーズとして注ぎ込まれていることがある。

踊らされないように気を付けておきたい。もっとも、ゆるい「死ぬな教」は、すでに日本人を覆い尽くしているのだが。

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image by: Shutterstock.com

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【著者】 小林よしのり 【月額】 ¥550/月(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4火曜日 発行予定

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