なぜ読売新聞は“世紀の大誤報”を連発したのか?元全国紙社会部記者が暴露する「業界の悪しき伝統文化」

Tokyo,,Japan,-,17,March,2021?yomiuri,Shimbun,,,Japanese,Word
 

読売新聞が8月27日付けの朝刊トップで報じた、衆院議員の秘書給与不正受給を巡る記事。しかしこの「特ダネ」は、捜査対象とされた議員名を取り違えた誤報であることが発刊当日に発覚し大問題となりました。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、同紙が誤報を打つに至った経緯を分析・解説。その上で、読売新聞社のみならず新聞各社に共通する構造的な問題を指摘しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:読売新聞、世紀の大誤報連発。背景に、不毛な特ダネ競争

背景に存在する「不毛な特ダネ競争」。読売新聞が世紀の大誤報連発の訳

新聞社の社会部で警察や検察を担当する事件記者の世界では、捜査当局の未発表情報をいち早くつかんで記事にした者が「特ダネ記者」として賞賛される。その記事が社会的にどれほどの価値があるかはさておき、他社のライバル記者を出し抜く優越感と、社内で評価されたいという欲望の満足が彼らには大切なのだ。

しかし、他社にすっぱ抜かれる“特オチ”が続くと、社会部の中で肩身が狭くなってくる。なんでもいい、とにかくスクープを世に出したい。そんな記者の焦りが異常に募って正常な判断力が鈍り、時として、取り返しのつかない“大誤報”を生んでしまうことがある。

2025年8月27日の読売新聞朝刊。一面トップに、でかでかと掲載された記事がまさにそうだった。

記事は、日本維新の会の池下卓衆院議員が採用していた公設秘書2人について、勤務実態がないにもかかわらず国から秘書給与を不正に受給していた疑いで東京地検特捜部が捜査していると報じていた。

たしかに、東京地検特捜部は同じ容疑で維新の国会議員を捜査してはいた。しかし、ターゲットは同党の石井章参院議員であり、池下氏ではない。

そのことに読売新聞が気づいたのは、朝刊の締め切りから数時間が経過した27日朝。特捜部が詐欺容疑で石井氏の議員会館事務所や地元事務所(茨城県取手市)を家宅捜索するという一報が入ってからだった。慌てた読売新聞はオンラインの記事をすぐに削除し、その日の午後には大阪にある池下議員の事務所に竹原興・東京本社編集局次長ら2人が訪れ、平身低頭して謝罪した。

あってはならない誤報だった。どうしてこのようなことが起きたのかについて、読売新聞は30日の朝刊に検証記事を掲載した。それをもとに、筆者の推測をまじえて、誤報にいたる経過をたどってみたい。

8月下旬、維新の国会議員が秘書給与詐欺の疑いで捜査対象となっているとの情報を、社会部の記者が、政界の事情に詳しい関係者から聞き込んだ。容疑が誰にかかっているのかについては、過去の疑惑がヒントということだった。

調べてみると、2023年に池下議員の公設秘書が市議と兼任していることを問題視した記事があった。記者は池下議員の可能性が高いと考え、同じ人物に確認を試みたが、はっきりとはわからなかった。

その記者からの報告を受け、検察を担当する司法記者クラブのキャップは配下の複数の記者に特捜部関係者への「裏付け」取材を指示した。しかし、秘書給与詐欺事件で政界捜査が進んでいることがわかっただけで、結局、捜査対象が誰なのかについての確定的な情報は、最後まで得られなかった。

にもかかわらず、誤報記事が掲載されるに至ったのは、8月26日朝、担当記者から「池下議員であることは間違いない」との報告を受けたためだった。これを信じたキャップは、記事を掲載したいとデスクに申し出て、社会部長もそれを了承した。

しかし、この判断の仕方に根本的な間違いがあった。担当記者が「間違いない」と報告した根拠は「継続して取材していた関係者から肯定的な回答があったと受け止めた」という、きわめて主観的で曖昧なものにすぎなかったのだ。

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