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参院選敗北「最大の原因」。野田佳彦という“自民の手先”をそのまま代表に留任させる立憲民主党「人事刷新」の奇々怪々

今夏の参院選で事実上の敗北を喫した立憲民主党。この結果を受け同党は9月11日に執行部の刷新を発表しましたが、代表は野田佳彦氏の留任となりました。この人事に異を唱えるのは、ジャーナリストの高野孟さん。高野さんは自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で今回、野田氏の代表据え置きを「間抜けな人事」としてそう判断する理由を解説。さらにかような決定を下した同党の先行きを絶望視しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:真っ先に刷新すべきは野田佳彦代表自身だというのに、そこは触らない立憲民主党の奇怪な人事

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

野田代表をそのまま留任させたのは一体どういうことなのか。立憲民主党の奇怪な執行部「刷新」

立憲民主党は先の参院選での敗北を受けて、9月11日人事を刷新して新執行部を選んだ。

幹事長に百戦錬磨のベテラン=安住淳を据えたのはいいと思うし、近藤昭一を代表代行の1人とし彼の率いる党内最大グループ「サンクチュアリー」のリベラル派を各所に登用し、若手をそこそこ抜擢したのも悪くはないと思うが、肝心の代表については野田佳彦をそのまま留任させたのは一体どういうことなのか。

私に言わせれば、昨年9月に彼を代表に選んだことが同党の敗北の最大の原因であるというのに、そこに触れない「人事刷新」など成り立つわけがない。奇々怪々としか言いようのない有様である。

参院選の敗因をまったく理解していないがゆえの「間抜けな人事」

本誌が一貫して主張してきたように、昨秋の石破茂政権成立から今も続く政治局面の中心テーマは、安倍政治とその追随者による悪政の数々の負の遺産を徹底的に暴き立てて1つ1つ清算し、第2次安倍政権が始動した2012年から13年間も国政を歪めてきた呪縛からこの国を救い出すこと――「脱安倍化」にあった。

その12年間のほとんどを党内非・反主流の立場を保ち、保守リベラル的な観点から安倍に批判的な言辞を突きつけたこともある石破は、その「脱安倍化」という時代的課題を担いうるのではないかという期待が高まり、それが官邸前の「石破辞めるな」デモという形でも表れたのだった。

しかし石破はその期待に応えられず、「党内融和に努めてきた結果、石破らしさを失ってしまった」(2日両院議員総会での発言)が故に、参院選に大敗した。

その状況で、野党第一党である立憲民主党がなすべだったのは、自民党と「脱安倍化」の徹底性を競い合って、一面では石破を批判しつつ一面では励ましつつ、「立憲ならば脱安倍化をもっと徹底的にやってくれそうだ」という印象を広く生み出して参院選を迎えることだった。

しかし、同党は選りに選ってその時に、この局面に最も相応しくない代表を立ててしまった。なぜなら野田は、安倍の追随者であるどころか、勝てるはずのない無謀な選挙に打って出て第2次安倍政権の誕生を促した、いわば「産みの親」であり、政策面で言っても、安倍が行った悪行の多くは、何と、野田政権時代にすでに準備されていたものだった。

だから彼に安倍批判などできるはずがなく、従って石破のその不徹底さを批判することもできなかった。だから参院選に負けたのである。そのことを野田自身も立憲全体も、全く分かっていないからこういう間抜けな人事になるのである。

つまり、「石破辞めるな」デモに象徴される国民感情の深い意味合いを、石破も野田も全く理解できなかったために、自民党も立憲民主党も負けたのである。

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自民党の手先どころか「トロイの木馬」だった野田佳彦という人物

2016年9月に蓮舫が民進党の代表となり野田を幹事長に選んだ時に、私は「日刊ゲンダイ」のコラムで野田が犯した「7つの大罪」を列記し、彼が安倍長期政権の生みの親であるばかりか、安倍がやった禍々しいことの多くを準備していたことを指摘した。そのコラムはこう書いた。

「野田佳彦幹事長」には驚いた。旧民主党OBの何人かと話をすると、みな「安倍政権下で起きている悪いことのほとんどは、野田政権時代に始まった。そのことを蓮舫新代表は知らないとでも言うのだろうか」と怒っている。その通りである。

第1に、安保法制。野田政権の国家戦略会議フロンティア分科会は12年7月、憲法解釈を変えて集団的自衛権を行使を認めるべきだと提言し、それを「能動的な平和主義」と名付けた。それと連動して自民党もほぼ同時期に「国家安全保障基本法(概要)」を発表して政権交代後に備えた。

第2に、武器輸出。藤村修官房長官は11年12月、佐藤・三木両内閣以来の武器輸出3原則を見直して「包括的な例外協定」案を発表した。それを受けて安倍は14年4月、同3原則を廃止した。

第3に、オスプレイ配備。米国の言いなりで受け入れ、12年10月に沖縄に配備を強行させた。

第4に、尖閣国有化。12年9月、中国への根回しを欠いたまま尖閣諸島の国有化に踏み切り、日中関係が一気暗転、安倍政権の扇情的な「中国脅威論」キャンペーンに絶好の材料を提供した。

第5に、原発再稼働。野田内閣は12年6月、3・11後初めて大飯原発3、4号機の再稼働を決定し、7月から運転させた。また同時に、再稼働の「新安全基準」を定め、それを担う「原子力規制委員会」を設置する法案を成立させた。同委員会は12年9月に発足し、せっせと再稼働推進に取り組み始めた。それを受けて安倍は、全面的な原発復活・輸出路線に突き進んだ。

第6に、TPP。最初に「参加を検討する」と言ったのは菅直人首相だが、野田は11年11月「参加のため関係国と協議に入る」と表明、12年に入り各国に政府代表団を派遣し始めた。それを引き継いで安倍は13年3月、TPPに正式に参加表明、甘利明特命大臣を任命して交渉をまとめさせた。

第7に、消費増税。野田内閣は12年2月に「社会保障・税一体改革」大綱を閣議決定し、8月に「14年に8%、15年に10%」とする消費税法改正案を成立させた。これをめぐる安倍との駆け引きの中で、やれば負けると分かっている解散・総選挙を打って、同志173人を落選させ、安倍に政権をプレゼントした。その野田が蓮舫の傀儡師になって、一体どのように自民党と対決して政権を奪い返すというのだろうか。見えているのは「自公民大連立」という悪夢の予兆だけである。

こうしてみると、野田は自民党の手先というか、予め送り込まれた「トロイの馬」だったとさえ言えるのではないか。そういう野田を昨秋、代表に選び、それが敗因だという総括も出来ずにそのまま留任させるというのは、一体どういう了見なのか。この党にもはや先行きはないと断ぜざるを得ない。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2025年9月15号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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