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高市早苗の「AIサナエさん」とはワケが違う。政党代表に「AIペンギン」を選任した「再生の道」の“ふざけている”わけではない主張

結党以来、奇抜な戦略で世間を驚かせ続けてきた「再生の道」。そんな地域政党が、石丸伸二代表の後任として「AIペンギン」を選任したことが大きな話題となっています。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、この試みの是非等について他国の先例などを挙げつつ考察。さらに同党やAIを主力にすると謳う「チームみらい」に対して自身が望む姿勢を記しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:日本の政治は「AI時代」についていけるのか

日本の政治は「AI時代」についていけるのか

東京都議選、参院選で誰一人当選できず、いまだ議席のない地域政党「再生の道」がこのほど代表選考会を行い、「AIペンギン」を選任した…などと言えば、ふざけてるのかと思われそうである。

自民党総裁候補、高市早苗氏が自らの「総裁選特設サイト」に設置した「教えて!? AIサナエさん」はお遊びていどのAI活用として片づけられるが、政党の代表に「AI」が就任するとなると、そうはいかない。

ただし、この「AIペンギン」代表、正確には、こういうことだ。

これまで代表だった石丸伸二氏は「当初から予定していた」との理由で退任。残された41人のメンバーの中から5人が代表に立候補、石丸氏が聞き手となって、プレゼンの模様をライブで動画配信した。選ばれた京都大学大学院生、奥村光貴氏が「AIペンギン」を代表にすると言い出した。

つまり、「AIペンギン」と名づけるAIを代表として育成し、段階的に政党の意思決定を委ねていくというのだ。その一番の目的は、「広く、深く、長く、国民の政治参加を促す」こと。AGI(汎用人工知能)の時代が到来したとき、民主主義はどう変わるのかを問う社会実験であるともいう。

そこで、「AI」のことは「AI」に聞くのが手っ取り早いと思い、「ChatGPT」に、こんな質問をしてみた。

「広く、深く、長く、国民の政治参加を促すという目的を叶えるのに、彼らがなぜAIがふさわしいと考えているのかについて分析せよ」

返ってきた答えは以下の通りである。

「広く」=誰もが関われる環境。従来の政治参加は「選挙に行く」「集会に参加する」といった限定的な場面に縛られてきた。AIならオンライン上で常時アクセス可能で、誰でも気軽に質問したり意見を入力したりできる。

「深く」=情報格差を減らす。政策課題は専門性が高く、理解のハードルが高い。AIなら大量の情報を整理し、個人の関心やレベルに応じて説明することが
できる。

「長く」=世代を超えて蓄積し続ける。人間の代表は交代し、政治団体も盛衰があるが、AIはデータと学習を蓄積し続けられる。

派閥や利害、感情に左右されやすい人間と違い、AIは「公平・中立な情報処理者」として信頼を得やすいということも指摘してあった。

ただし、代表として政党の意思決定を行うのに、現行の「AI」が能力不足なのは明らかである。「大量のデータを学習してパターンを認識する」のを得意とするが、所詮は情報を整理、提供してくれる便利なパートナーにすぎない。

奥村氏が見据えるのは数年後ともいわれる「AGI」(汎用人工知能)の出現だ。「AGIの時代が必ずやってくる。政治がそれに対処するためにも必要な試みだ」と主張する。

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現行「AI」の発展形である「AGI」は、自己学習を繰り返しながら成長し、人間と同等、あるいはそれ以上に、複数の分野を横断して理解・推論できる。未知の状況でも、既存の知識を応用し、自律的に解決策を見つけられる。“思考マシン”に近い存在だ。それだけに、人間が過度に頼りはじめると、「制御できない存在」になるリスクもはらむ。

近いうちに必ずやってくる「AGI」に政治がどう対処するべきか。「AI」段階から、それを補助ツールではなく、あえて中核に据えて試行錯誤しておかないと、他国にますます引き離されてしまう。そんな危機感が奥村氏ら「再生の道」のメンバーにはあるのかもしれない。

現状、この分野で台湾やヨーロッパに先を越されているのは間違いない。

台湾は「先進国」と言えるだろう。象徴的なのは、デジタル担当閣僚を務めたオードリー・タン氏の存在だ。タン氏は「参加型民主主義」の旗手として、政府と市民の間をつなぐオンライン熟議システム「vTaiwan」を推進してきた。AIによって大量の市民意見を分類・可視化し、特定の利害に偏らない合意形成を前進させる仕組みだ。

欧州では、政治のAI対応が制度的にも前に進んでいる。きっかけは、2022年にデンマークで誕生した「人工党」だ。政策のすべてをAIが担当する試みとして注目されたが、同時に疑問の声も広がった。AIが収集したデータには、バイアスが含まれている。「公平で客観的」とのイメージだけで、AIの示す政策に従うことは、民主主義にとって、正当性があるといえるのか。

そこで、欧州議会は「AI法」を通じ、AIを公共分野で利用するさいの倫理基準やルールを整えつつある。つまり、AIを政治の現場に取り込むにあたって、民主主義の基本原理を損なわない仕組みを同時に設計しようとしているわけだ。

日本でも、遅ればせながら、AIを主力とした政党が誕生した。言うまでもなく、7月の参院選で1議席を得た「チームみらい」(安野貴博党首)だ。看板政策は「デジタル民主主義」。AIやテクノロジーを駆使し、誰もが日常的に政治に参加できる仕組みをつくろうという試みだ。

他党が「AI活用」と言いながらSNSやパブコメの意見集約にとどまるのに対し、「チームみらい」はその先の「合理的な政策選択」にまでつなげようとするところに先進性がある。

第一段階は「ブロードリスニング」。SNSや街頭の声をAIが整理し、可視化する。第二段階はふだん自分の意見を言わない人の声をAIとの対話で引き出す「いどばた」システム。第三段階では、利害対立をAIが中立的に整理し、建設的な合意形成を促す“熟議型プラットフォーム”を構築する。

もちろん、現行のAIに過度に依存するのが危険なことは誰しもわかっている。そこで、「チームみらい」は、あくまでAIを人間の判断を支える補助役と位置づけ、政策形成の透明性と納得感を高める道を模索するという。

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「再生の道」の場合は、AIを補助役ではなく主役にしようという試みだ。もちろん、すぐにできるわけはない。候補者を立てる予定の東京都・葛飾区議選や清瀬市長選では「AIペンギン」の構築が間に合わないので、人間が決定を担う。しかし中長期的には、AIが選挙などについての基本方針を定めるようになるという。

こうした「再生の道」の新しい動きについて、石丸氏は「(代表を)辞めてよかった」と語る。「なぜならば、私1人だと、思いもよらなかったアイデアが、そこで語られていたからです」。

「再生の道」は、首長と議会の二元代表制である地方の議員選挙で政策を掲げる必要はないという石丸氏の考え方のもと、政策ゼロで東京都議選にのぞんで全員が落選。参院選にもあえて「教育」だけに政策を絞り込む常識外れの戦略で挑んだが、これも一人として当選者を出せなかった。もしその方針決定に「AIペンギン」が参加していたら、選挙で勝つための「最適解」を示してくれたかもしれない。

石丸氏はおそらく2028年の東京都知事選に立候補するだろう。そのさい「再生の道」に復帰して再チャレンジするなら、そのころには「AIペンギン」が頼りになる“党代表”に育っている可能性も…。

歴史を振り返れば、火薬、核兵器、インターネットといった技術革新は、必ず「支配や戦争の道具」として利用されてきた。AIも例外ではない。

「自分だけの利益」を追求する誘惑にかられた権力者がそれを利用し、監視国家・軍事支配を強化するかもしれない。巨大IT企業がそれを独占し、政治・経済の意思決定を支配、民主主義が骨抜きになるかもしれない。

AGIの先の未来には、AIが人間を超える知性を獲得する転換点「シンギュラリティ」(技術的特異点)がやってくる。そうなるとAIを制御できるのは限られた個人や組織に集中し、独裁者による「悪の帝国」が人類を支配する恐れが高まるだろう。人間はそんな未来に賢く対処できるよう、今からしっかりと備えておかねばならないのだ。

ともあれ、日本の政界にもようやく本気で「AI」に取り組む動きが出てきたのは歓迎すべきことだ。「チームみらい」にせよ「再生の道」にせよ、政治勢力としてはまだまだ未知数だが、“ファーストペンギン”として、永田町の常識にとらわれない行動を起こしてほしい。

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