電気自動車がお金を稼ぐ存在になる。そんな未来が今、中国で現実になりつつあります。日刊で中国の自動車業界情報を配信するメルマガ『CHINA CASE』では今回、稼ぐ仕組みとそれを現実にする課題について紹介しています。
EVが電力販売で稼いでくれる?中国で現実化するV2Gとその課題
BEVの大容量バッテリーを蓄電池として活用し、電力網へ逆方向に放電して利益を得るV2G(Vehicle to Grid)は、以前から“小遣い稼ぎ”の可能性が指摘されてきた。
中国ではその構想が急速に現実味を帯びている。1時間で1200円を何もせずに稼げたとする話もあり、もはや日本のアルバイトの時給並み。
では、EVのバッテリーが今後より巨大化し、充放電の若干の手間をうまくやりくりすれば、もっと稼げるようになるのでは? と言っても、当然そうはうまくいかない現実もある。
中国の直近のリアルに関するレポートで興味深い。
家充電との差額で収益
武漢の南太子湖スーパー充換電ステーションでは2025年8月、EVオーナーがV2G充電スタンドを使い、1時間の放電で60元(約1200円)を得た。
自宅での充電単価が1kWhあたり0.45元(約9円)に対し、ピーク時間帯の16時から24時までの売電単価は3元(約60円)と、およそ2.5元(約50円)差額を利益化できる。
北京の実証ステーションでも、バッテリー容量52kWhの車が毎日30kWh放電すれば、年間約1700元(約3万4000円)の純利益を見込める計算を示した。
収益を生む方法
V2Gの仕組みは単純だ。夜間など電力需要が低い時間に安価に充電し、需要ピーク時に放電して高値で売る。
そもそも中国では、家庭の充電コストは外部の充電ステーションにおける充電コストと比べて10分の1も安くなる場合がある。
夜間から深夜、寝ている間に普通充電でも充電していれば、満充電になるEVも多くなっている。
それを活動している日中、タイミングあわせてV2G対応ステーションに行き、売電する。
将来的に小遣い稼ぎ
清華大学の欧陽明高教授は「EVは充電無料どころか収益を生むツールになる」と予測。
2050年には中国のEV保有台数が3.5億台に達し、1台70kWhとして合計240億kWhの車載蓄電容量が中国の1日総消費電力量に匹敵するという。
政府も動く。国家発展改革委員会などは上海や深センなど9都市を「V2G連携大規模応用試点」に指定。
専門家は2028年以降に販売される新車はV2Gを標準搭載し、2030年には年1000万台が放電対応、ピークシフト能力は全系統負荷の10~12%に達すると見込む。
2035年には40%に迫り、CO2排出削減量は年間17億トンにもなるとの試算もある。
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現実は課題が山積
しかし現実には課題も多い。第一に設備コスト。
7kW交流充電器が1000元(約2万円)以下に下がる一方、V2G対応の直流双方向充放電器はかつて1万元(約20万円)を超え、最近でも5000元(約10万円)前後とまだ高い。
第二に保証。多くのEVバッテリー保証は8年または16万kmで約300回の充放電しかカバーせず、劣化や故障があれば交換費用は10万元(約200万円)以上。
これでは得られる利益と相殺されるどころか、赤字になる可能性が高く、ユーザーは安心して参加できない。
各所で環境がバラバラ
さらに、住宅や産業パーク、公共施設など利用シーンごとに制度的障壁がある。家庭では売電の計量・精算基準や売電価格制度が未整備。
産業パークでは車やスタンドの標準が統一されず「一つの充電スタンドで多くの車種を網羅」という相互利用が難しいケースも多い。
公共施設は場所の確保は容易でも、放電のために出向く時間コストが収益を上回り、利用率が今でも低い。
心理的ハードルも
心理的ハードルも大きい。調査ではEVユーザーの72%が「愛車で放電すること」に不安を持ち、理由は電池寿命への影響(58%)、操作の複雑さ(23%)、安全性(19%)が上位だ。
「最大のコストは時間。生活圏にV2G充電スタンドがなければわざわざ行く価値はない」との声もある。
EVが勝手に稼いでくれる時代?
大容量バッテリーを備えたEVが「走る蓄電池」として収益を生む未来は、中国で確かに動き始めた。
だがコスト、保証、制度、ユーザー心理といった課題を乗り越えなければ、「何もしなくても稼げる」仕組みが広く根づくには至らない。
V2Gは大きな可能性を秘めながらも、いまだ発展途上のビジネスモデルと言えそうだ。
出典: https://auto.gasgoo.com/news/202509/25I70434210C501.shtml
※CHINA CASEは株式会社NMSの商標です。
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