4日に行われた自民党総裁選の決選投票で、小泉進次郎氏に圧勝を果たし同党初の女性総裁となった高市早苗氏。この選択は自民党、そして日本にとって「正答」だったのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野孟さんが、高市新総裁が突き進まんとする「再安倍化」の道がいかに危険極まるものであるかを簡潔に解説。さらに自民党の選択が、今後の日本をますます行き詰まらせる可能性を指摘しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:真っ先に刷新すべきは野田佳彦代表自身だというのに、そこは触らない立憲民主党の奇怪な人事
プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
「高市新総裁」という自民党にとって地獄の選択/「脱安倍化」が本筋なのにその正反対の人が出てきたのでは……
高市早苗は1993年無所属で初当選し、新進党などを経て96年に自民党入党、すぐに当選同期の安倍晋三と親しくなり、97年2月に設立された右翼チックな「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」に参加し幹事長代理を務め、また同年5月に「日本会議」が設立され、それと同時に議員連盟「日本会議国会議員懇談会」が出来るとこれにも参加した(現在は副会長)。
5日付朝日新聞が言うように「高市のキャリアの核となってきたのが、当選同期の安倍晋三元首相との近い関係」であり、総裁選に初めて立候補した21年には「『高市さんこそ保守派のスター』と語った安倍氏が後ろ盾となり、1回目の投票で国会議員票第2位となった。22年に安倍氏が死去し後ろ盾を失っても、安倍路線の継承を訴え続けた」。
「脱安倍化」を止めてしまってどこへ行く?
結局、自民党は「脱安倍化」を止めることを選択した。
脱安倍化とは第1に「政治とカネ」問題の徹底解明と企業・団体献金の禁止を含む政治資金制度の抜本改革。さらに付け加えれば、安倍時代に乱用したネポティズム(身内贔屓主義)的な利権配分の始末など。
森友学園、加計学園、JR東海などの経営者とつるんで利権を弄び、巨額の国費を無駄に費やした挙句、その所業がバレないように偽装する過程で自殺者まで出すという死屍累々とも言うべき悪行の始末をつけないでウヤムヤにすることは許されない。
第2にはアベノミクスという大失敗の総括である。
長期的構造的な人口減少による需要減という問題を景気循環的なデフレと誤認することに発して、紙幣を大増刷してインフレを引き起こせば景気は回復するだろうという安易極まりない想定で、2013年から20年までの政権期間にマネタリーベースを500兆円以上も増やしたのに、何も起きなかった。それで焦って、円安と株高で景気が良くなっているかの幻想を作り出したものの、いずれにしても実体経済には何の変化も起きず、日本経済はズルズルと衰退に向かい出した。
そのようなアベノミクスの悲惨な結末をしっかり総括しない限りこの国は前に進めないはずだが、高市のスローガンは、絶望的なことに、「ニューアベノミクス」である。それで「日本をもう一度、世界のてっぺんに押し上げる」というのだが、それはいくら何でも無理というもので、むしろ西欧の中進国に見習った、やたら大きくなくとも特色のある経済と落ち着いた暮らしぶりを持つ「小日本」を構想すべき時ではないのか。
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第3は、盲目的な対米追従とその結果としての無用な米国製高額兵器の爆買い、敵基地攻撃能力の整備、集団的自衛権解禁による米国の戦争への自衛隊の加担促進など、「戦争が出来る国」にする安倍の施策の数々は、取り返しのつかないことになる前に落ち着いて考え直すことが必要だが、高市ではそれは無理で、むしろその危険な路線を突き進むことになるだろう。
こうして「脱安倍化」という課題は切断され、逆に「再安倍化」が進むのだとすると、この国は行き詰まってしまう。自民党は地獄への道を選択したのである。
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2025年10月6号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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image by: X(@自民党広報)