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なぜ高市首相は支持率80%超えを獲得できたのか?保守層をダマして進める「安倍マジック」の恐るべき手口

高市早苗総理が就任早々、驚異の支持率80%超えを達成しました。靖国参拝封印や日韓外交での柔軟姿勢など、保守層の支持を背景に中道政策を進める「安倍マジック」を継承しています。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では作家で米国在住の冷泉彰彦さんが、積極財政と財政規律の狭間で後期高齢者医療費負担増にも切り込む可能性がある高市政権の難しい舵取りを分析しています。

高市政権の立ち上がりをどう見るか?

高市早苗氏が総理大臣に選出されました。就任早々いきなりの首脳外交については、心配もあったわけですが日米首脳会談は成功。また、日中、日韓いずれの首脳会談も無難にこなした格好です。

世論もこれを好感したようですが、それにしても、一部調査では支持率が80%を超えているというのには驚きました。事実であれば小泉純一郎政権以来のことで、この数字を背景に本格政権へと階段を登ることができるか、注目して参りたいと思います。

安倍マジックの継承

まず明らかなのは、保守層をガッチリ固めることで中道政策を進めるという安倍マジックの方式がフル稼働しているということです。安倍マジックというのは、保守票の絶大な支持を獲得することで、かえって保守「ではない」政策が進められるという政治的魔法です

安倍氏の場合は、リベラルな経済政策をはじめ、保守派の嫌がった上皇さまの譲位改元を実現、更には国費を投入して慰安婦への補償を行う日韓合意、日米相互献花外交、大胆な移民労働力の導入、観光立国政策などを実現したわけです。いずれも保守政策ではありません。反対に、中道左派政権がやろうとすれば保守派の反対で立ち往生しかねない政策でしたが、安倍氏は堂々と進めて成功させたのでした。

保守層を欺く「靖国封印」という決断

高市氏の場合も、既にこのマジックを全開モードで使っています。総理に選出されるとともに、アッケラカンと靖国参拝は封印しました。日韓外交では太極旗に一礼するなど、その行動は徹底しています。この姿勢を貫いたことは、中道から中道左派の有権者にも安心感を与えたと思われます。80%という高い支持率については、そんな理屈でもなければ説明できないゾーンです。

気になるのは構造改革をどこまで進めるかです。農政改革、雇用改革、デジタル改革、そしてエネルギー改革、どれも一筋縄では行きません。一つの期待としては、安倍マジックをイデオロギーだけでなく、改革守旧派を封じるのにも使って、ステルス改革で実績を作るという手法です。就任後の総理の言動を見ていると、ミスはほとんどなく、中の人のスキルも意外と行けるのかもしれません。

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最大の難題は「財政政策」

そんな中で、最大の問題は、財政と通貨の政策です。高市氏と言えば、積極財政をウリにして、総裁選も勝ってきたのですが、麻生G+維新と組んで公明を切ったことからは、財政規律にも本気が見て取れます。ズバリ、後期高齢者の医療費自己負担アップに切り込む可能性はあると思います。公明の離脱という大事件の背景としては「これ」しか考えようがないからで、反対に総理周辺はやる気満々であると思われます。

そうなのですが、票にするのは難しく、失敗すると内閣が飛ぶような材料でもあります。ここをどう進めるのか、そして、何よりも国としての存続可能ゾーンは非常に薄く狭いのも事実だと思います。「積極的な投資ができなければ滅びる」一方で「財政を緩め過ぎればやはり滅びる」という難しい谷間を進まなくてはならないからです。

円安政策のタイトロープ(綱渡り)

通貨ということでは、トランプ政権から「円安への異議」が来てしまい、市場が反応して「瞬時に円高」に振れるという恐怖がありました。ですが、今回は何事も起きず、静かに「高市円安」そしてガソリン税には手を打つということで、スタートは順調に見えます。問題は、この円安がある一線を超えると危険水域に入る、つまりラトニックとかベッセントが騒ぎ出す可能性があるわけで、その前に均衡点を見出すことが必要でしょう。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2025年11月4日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。メイン・コンテンツ「USAレポート」(第1079回)「選択肢の壊れたアメリカ」、人気連載「フラッシュバック80」もすぐに読めます。

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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