なぜ高市首相「台湾有事は存立危機」答弁には“外交的リスクが満載”なのか?中国にとって「最も敏感な問題」に“前のめり”で踏み込んだ代償

 

なぜ「海上封鎖」にこだわるのか?

首相発言(1)は、当たり前の一般論で、意味のない前置き。そこからすぐさま具体例として(2)の「海上封鎖」に入っていくのは、決して偶然ではない。「台湾有事」がたちまち「日本有事=存立危機事態」となりうることを国民に対して説得的に説明するためには、中国が南・東シナ海でシーレーンを封鎖をしてくれないと困る。

中国の意図は、それによって台湾を締め付けようとするわけだが、そのシーレーンはそのまま日本にとって死活的な物資輸送のシーレーンでもあるから、結果的に日本も締め付けられてしまう。その封鎖を解くため米軍が来援して武力を用いて中国軍と争えば、それは台湾のみならず日本が存立危機事態に陥るのを防ぐためでもあるので、日本が一緒に戦うことになる――という、私に言わせれば牽強付会の架空議論である。

まず第1に、中国軍は本当にシーレーン封鎖を作戦として採用するのかどうか。常識的に考えて、シーレーン封鎖を行おうとするのは、緒戦で決着がつかず台湾軍の抵抗が激しくて長期戦にもつれ込んだ場合だろうが、それは中国が最も忌み嫌うシナリオではないだろうか。中国が必ず海上封鎖に出てくるかのように仮定して、そこから日本の存立危機事態に結びつけようというストーリーにはそもそも無理がある。

第2に、首相発言(2)で「海上封鎖を解くために米軍が来援をする」と言っているのは、よく分からない。この場合、高市の想定では、中国軍は海上封鎖以外の作戦行動を実施しておらず、海上封鎖を解くことを最優先の(もしくは唯一の)目的として米軍は来援するというのだろうか。

これが、中国軍の台湾強行上陸で台北制圧という電撃的正面作戦が発動されていて、同時に米空母艦隊が台湾軍支援に駆けつけてくるのを中国が空母3隻体制でいわゆる第1列島線で阻止して台湾周辺の制空・制海権を確保しようとするという話なら、分からなくはないが、それは日本の存立危機事態とは直接には関係がない。

第3に、首相発言(4)の「台湾を完全に支配下に置くためにどういう手段を使うか。単なるシーレーンの封鎖かもしれない……」は、繰り返しになるが、中国が「単なるシーレーン封鎖」だけで「台湾を完全に支配下に置く」ことができると考えていると、高市は想定しているのだろうか。

何としてもシーレーンを妨げられるから日本も大変なことになるのだという話に持っていきたい意図が見え見えである。

第4に、首相発言(5)「戦艦を使い武力の行使を伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になりうる」で気になるのは、今時、中国軍でも「戦艦」は保有していないだろう。封鎖が行われる場合に出てくるのは空母艦隊に違いなく、どこから戦艦という発想が出てくるのか。

第5に、首相発言(6)は意味不明。それに続く岡田発言はまともで、高市が防衛戦略に疎いまま言葉遊びをしているのに対して、岡田は台湾にせよどこにせよ近隣に有事が起きた場合に本当に政府が考えなければいかないことは何かをきちんと指摘している。

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