一つの紙メディア(新聞・雑誌)から他の紙メディアに移行するのが簡単ではなかった時代の方が、メディア間の競争が穏やかで、それぞれのメディアを購読する層向けのニッチな文章の執筆で、十分に食べていくことができたのです。インターネットの普及により、メディア間の垣根がなくなってしまった結果、ニッチ向けの文筆業で食べて行くことが難しくなってしまったのです。
この問題に拍車をかけているのが、若い人たちの「活字離れ」です。メルマガ・ビジネスの先駆者である堀江貴文氏は、「文字媒体である限りは、すぐに頭打ちになる。多くの人たちにリーチするには映像で勝負するしかない」とYouTubeに大きく軸足を移しましたが、それは私も感じます。10万人の人に読んでもらえる文章を書くのは至難の技ですが、YouTubeビデオであればそれほど難しくはなく、うまくバズってくれれば100万人にリーチすることすら可能です。
どんなトピックに関しても、ChatGPTのような大規模言語モデルが、それなりに読む価値がある文章を生成してくれるようになったことも、文筆業で稼ぐことを難しくすることは明らかです。誤解してほしくないのですが、「AIが人間の代わりに記事を書く」時代が来るから文筆業で食べていけなくなるわけではありません。
「読みたい記事を見つけて読む」時代から「読みたい記事は、必要に応じて、AIに書いてもらって読む」時代へと移行するから、そんなニーズに対応できない文筆家が食べていけなくなるのです。メディア・ビジネスに関わる人たちは、この変化を強く意識してビジネスの設計をする必要があるので注意してください。生成系AIの進化により、コンテンツの生成コストが桁違いに下がると、消費スタイルそのものにも変化が生じるのです。
ちなみに、私がオープソースな形で開発しているMulmoCastは、そんな時代に向けたライブラリです。MulmoScriptという中間言語を通して、LLMを活用したコンテンツ作りをより容易にすることにより、単にコンテンツ作りを簡単にするだけでなく、必要に応じて、オンデマンドでコンテンツを作る時代へのシフトを加速しようと考えています。
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