高市首相の「台湾有事は存立危機」発言ではない。中国で「日本の不動産爆買い熱」が冷めきった理由

 

完全に勢いを失った「日本の不動産を買いたい」というニーズ

そもそも外国で資産を食いつぶす「消費」を主とし、「生産」から遠ざかるのだから、生き方も特殊だ。

お金はあっても、地元コミュニティとのつながりが希薄なため、寂しくなって、再び帰国を選ぶ者もいる。

この点でもサステナブルとは言えないのだが、本稿の指摘するテーマはそこではない。

実は最近、中国人向けに不動産を販売してきた若い経営者(中国籍)と話をして驚かされたのが、日本の不動産を買いたいというニーズは、もはや数年前に比べて完全に勢いを失っているという彼の指摘だ。

興味深いのは、そのきっかけは高市政権の誕生、もしくは高市早苗首相が11月7日に行った台湾有事に絡む国会答弁後の日中対立ではない、ということだ。

何がきっかけだったのか。

経営者によれば、その一つは日本政府が今年8月に打ち出した「外国人向けの『経営・管理ビザ』の要件の厳格化」であり、もう一つは、やはり同じ時期に行われた夏の参議院議員選挙で顕在化した排外的な日本社会の雰囲気にあるというのだ。

前者の「要件の厳格化」の内容は、主に「資本金の要件を500万円以上から3,000万円以上に引き上げる」ことであり、また「経営者の経歴や学歴の要件も新たに設ける」ことだった。

明らかに在留資格の取得の壁を高くしたわけだが、なかでも不評なのが、従来500万円以上で取得できた資格が3,000万円以上に引き上げられたことだという。

これを簡単に換言すれば「日本に、そこまでの価値があるのか?」となってしまったというのだ。

悪く言えば、「(円安も含めて)安いから来ようと思ったのに…」ということだ。

2,500万円の差が大きく風向きを変えたようだが、思い出すのは中国人旅行者の消費ニーズの変化の速さだ。

2015年ごろ、スーツケースを現地で買い足して「爆買い」していた中国人旅行者が、あっという間にモノ消費からコト消費へとシフトし、さらには思い出消費、いわゆる「インスタ映え」的なニーズに流れていった変化だ。

目まぐるしいという表現がピタリと来る変化だった。

中国国内で激しい競争に慣らされた彼らは、変化への耐性ができている。対応力も半端ない。風が変わればさっさと新しい方向へと舵を切るのだ。

現状、日本のライバルとして東南アジア移住に熱い視線が向けられているという。

いま日本では、日本語学校に入学した中国の学生が途中で親元に呼び戻されるケースも目立つようになったという。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年12月21日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)

この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ

初月無料で読む

image by: Kametaro / Shutterstock.com

富坂聰この著者の記事一覧

1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 富坂聰の「目からうろこの中国解説」 』

【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

print
いま読まれてます

  • 高市首相の「台湾有事は存立危機」発言ではない。中国で「日本の不動産爆買い熱」が冷めきった理由
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け