中国接近の裏にある“計算”。ドイツ首相の「訪中」から見えるEUのジレンマ

 

一方ではトランプ政権の進める「アメリカ・ファースト」に対する警戒という点からもドイツは中国にアプローチしなければならなかった。

こちらは中国も饒舌である。

習主席は、首脳会談で「現在の国際情勢は、第二次世界大戦終結以来最も深い変化の最中にある。世界が混迷を深めれば深めるほど、中独両国は戦略的な意思疎通を強化し、戦略的相互信頼を深め、中独の包括的な戦略的パートナーシップのたゆまぬ新たな発展を推進する必要がある」と語っている。また、付け加えてこうも語る。

「世界は百年間なかった大きな変化が加速度的に進行し、各国は力を合わせて困難を乗り越え、運命を共にするべきだ。中独は国連の中核的な地位を堅持し、国連の主導的役割を立て直し、率先して多国間主義の擁護者、国際法治の実践者、自由貿易の守護者、団結と協力の提唱者となるべきだ」

これに対しメルツ首相もこう応じている。

「国際情勢が大きく変化する中、両国はグローバルな挑戦にともに責任を負っている。ドイツは中国との協調を強め、自由貿易体制を堅持し、保護主義に反対したい。EUと中国の貿易関係の発展は世界の利益と合致し、世界の安定と繁栄にも寄与する」

日本ではドイツ首相が「一つの中国政策を揺るぎなく遂行している」としたことが大きく取り上げられた。

しかし、冒頭で触れたように、今回のドイツの訪中の主眼はどうみても経済におかれていた。

もちろん、この点でも実は中独には貿易不均衡という問題が横たわっている。事実、2025年の中国の対独輸出額は1706億ユーロで対前年比でプラス8・8%。一方のドイツの対中輸出額は813億ユーロで同マイナス9・7%だった。しかし、それにも増して互いにとって経済関係の強化が重要であることに間違はないのだ。それはメルツ訪中に自動車産業やバイオテクノロジー、化学工業など30社のトップからなる経済代表団が同行したことでも分かる。

中国でメルツ首相は、北京と中国のシリコンバレーといわれる杭州を訪れているが、目的はロボットの見学だった。

訪れたのは、宇樹(UNITREE)だ。同社は今年の春節に演武を披露した企業で、メルツ首相の前でも棒術やヌンチャクを操ってみせるなど同じパフォーマンスを披露した。

メルツ首相はこの他、メルセデスベンツとシーメンスエナジーも訪れているが、興味深かったのはメルセデスベンツを訪れた時、ドイツメディアが「かつて自動車市場を先導していたドイツの自動車メーカー車がいまや中国のEVメーカーの下に落ち込みました」と紹介したことだ。

メルツ首相は中国に向けて飛び立つ直前の空港で、こう語っていた。

「AI分野における中国の急激な革新の現状を視察し、ドイツはどんなチャンスを得られるのか、イメージを得たい」
今回の訪中でメルツ首相の目的は達成されたのだろうか。

ただ確実に一つ、ドイツにとっての成果があったとすれば、中国のトップが「EUのエアバス社に最大で120機の飛行機を発注したい」と語ったことだと前出ZDFは伝えている。

帰国後、メルツはドイツが週4日労働なのを受けて「中国を見てみれば誰もがドイツの生産力が足りていないことに気が付くはずだ」と力説した。

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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