93年政治改革のそもそも論
2人のやり取りが奇妙なのは、ベテラン政治記者と老練左翼政治家が揃って、小選挙区制バイアスの極端さに今回初めて気が付いたかのようなウブなことを言っていることである。
「1人1票の平等性」を求めるなら、究極のところ、完全比例代表制にすればいいだけのことである。今の選挙制度を採用するに至った1993年春の「政治改革国会」のテーマはそこにはなかった。それどころか、むしろ真逆で、平等性は二の次、三の次。とにかく自民党一党専横とその下での金権体質蔓延の温床となってきた中選挙区制を廃棄し、政党単位・政策本位で争う小選挙区制を主とする制度に置き換えることによって、政権交代が起きやすい政治風土を涵養することが主眼とされた。小選挙区制では、他よりも0.1%でも上回る票を得た候補者が1議席を奪い、それ以外の候補者への票はすべて死票となるので、その時々に世論の支持を得た、あるいは人気が高い政党や政党連合が圧勝して政権を獲得する可能性が高い。
従って、まず第1に、この制度の下で起きた「高市圧勝」について、「1人1票の平等性」が毀損された(倉重)とか、「虚構の数字」だ(志位)とか批評するのは筋違いである。この制度は、こういう偏った結果が出ることがありうることを百も承知の上で導入したのであり、その意図に違わない効果を発揮していることを、決して否定的に捉えてはならない。
第2に、従って、今回の結果を1993年総選挙の結果と引き比べて、中選挙区制の方が理にかなった政権交代が起きやすいかに言う(志位)のは、全くの錯誤である。中選挙区制では政権交代が起きず金権腐敗の泥沼を脱することができないからこそ「政治改革」が必要となったのである。このような何とはなしの(論理性を欠いたノスタルジックな気分の)中選挙区制回帰論は、共産党だけでなく公明党の全部、その他野党や自民党のかなり多くの部分に根強いが、酷い間違いである。
実際に政権交代を実現した民主党
第3に、志位が引き合いに出すべきは、細川政権を生んだ1993年総選挙でなく、鳩山=民主党政権を生んだ2009年総選挙である。93年に自民党が敗北し下野したのは、本音では中選挙区制維持論でありながら世論に押されて口では「政治改革? やりますよ」と言っていた宮澤首相ら自民党指導部に反発して小沢一郎・羽田孜ら、武村正義・鳩山由紀夫らが次々と離党して同党が崩壊状態に陥ったためであって、中選挙区制の作用によるものではない。
それに対して09年の結果は、小選挙区制を主とするこの制度が、時と場合によって野党にも「圧勝」をもたらし、正々堂々の政権交代を惹き起こすことを証明した貴重な事例であって、もし今回の「高市圧勝」が何かの毀損だったり虚構だったりするのであれば、09年の「鳩山圧勝」もまたそのようなものとして否定的に評価しなければならなくなる。
ご存じと思うが、今回の総選挙の前は、09年に民主党が獲得した308議席が史上最高の記録だった。参考のために、09年と今回の基本数値を挙げておこう。
09年比例代表 26年比例代表
相対得票率 民主党 42.4% 自民党 36.7%
自民党 26.7% 中道連合 18.2%
絶対得票率 民主党 28.7% 自民党 20.4%
自民党 18.1% 中道連合 10.1%
得票総数 民主党 2985万 自民党 2103万
自民党 1881万 中道連合 1044万
議席数 民主党 308/480 自民党 316/465
自民党 119 中道連合 49
議席占有率 民主党 64.2% 自民党 68.0%
自民党 24.8% 中道連合 10.5%
09年の民主党は42.4%の得票率で64.2%の議席を占有したのに対し、今回の自民党は36.7%の得票率で68.0%の議席を占有していて、今回のほうが偏りの度合いは大きいが、それにはネット上でそれこそ虚構の「高市ブーム」を作り出して広告料を稼ぐという、09年にはなかった新しいビジネスの横行による増幅分が含まれていると見るべきだろう。これはこれで、制度問題とは別に、何らかの規制を検討しなければならないだろう。
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