不断に見直すべき選挙制度
「この選挙制度のマジックを今ひとたび点検する必要があるのではないか」(倉重)の意見には賛成である。「マジック」と言うと何やら騙しのテクニックのように聞こえるが、そうではなくて、小選挙区制を基本とする制度にした場合に必然的に付随する「偏り」をどう補正するかという問題として国会自身が不断に議論し法改正して試行し、また手直しする必要がある。
イタリアの場合は、日本と同じ時期に、同じように保守政党の腐敗問題をきっかけに、それまでの比例代表制から日本と似たような小選挙区比例代表並立制(小選挙区4分の3、比例代表4分の1)を採用し、保守もリベラルもそれぞれに政党連合(例えば左翼民主党中心の「オリーブの木」のように)を組んで早速に政権交代ある政治を実現した。
しかしそれに安住することなく、2005年には比例代表制に転換、いくつかのプレミア方式を試した後、2017年に再び小選挙区比例代表並立制(小選挙区3分の2、比例代表3分の1)に戻して今日に至っている。しかもイタリアでは、上下両院の選挙制度を同質にしてどうしたら国会が民意をよりよく集約する場となるかを追求し続けている。
このような不断の改革努力という点では日本はまったく落第で、衆院の制度の点検・見直しも参院や地方選挙との整合性探究の努力も何も行われていない。
細川護熙が語っていた「連記制」
93年の細川改革では、最初の与党案は小選挙区300+比例200で出発して、一度は小選挙区250+比例全国区250という分かりやすい案で衆院を通過したものの、野党の自民党も与党の社会党も内部がゴチャゴチャで、加えて衆院議長である土井たか子が職権を超えて法案の中身に口を出すなどして大混乱。社会党の村山が「小選挙区が275以上になるなら連立を離脱する」などと訳の分からぬことを言ってゴネるので、細川が274+226=500という妙な案で収拾を図ろうとしたりしたが、結局300+200で96年から実施。
それが変遷を経て今は289+176=465となり、さらに自維政権合意でその比例の176のほうを45減、ということは289+131=420(小選挙区68.8%+比例31.2%)にしようという方向になっているが、この中途半端なバランスは果たしてそれでいいのか。また分かりにくくて評判の悪い重複立候補による小選挙区落選者の比例復活という細川政権と自民党の奇妙な妥協の産物は、このままにしておくのか。さらに、そのように衆院ばかりをいじって参院との整合性を考慮しないのはどうなのか。
制度全体については、安易な中選挙区回帰論には私は断固反対だが、同じ中選挙区制でも「連記制」は試すに値すると思っている。細川は回顧録『内訟録/総理大臣日記』(日本経済新聞出版社、2010年刊)で、あの時は小選挙区比例代表並立制でみんなの合意が出来たのでそれで進んだが、本当は……と同書P.512で語っている。
▼私はもともと定数が2以上の選挙区で有権者が複数の候補者に投票する連記制みたいな形がいいのではないかということを言ってきました。しかし、とりあえずは新しい制度をつくり、自民党の一党支配の状況を打ち壊すことに当時としては一番の政治的狙いがあったわけですから、その後、現にそういう状況になったのですから、それなりに意味があったということではないでしょうか。
▼ただ制度というものは、時代とともに変わっていくものだから、何回か選挙をやって、改善するところがあれば、それで変えればいい。今の制度でも必ずしも2大政党にはなっていない。イギリスのような完全な小選挙区制の国でもそうですから。
▼日本でも2つの大きな勢力とは別に、今後ともいくつかの政党が出てくるということが、この制度のもとでもないわけではないと思いますね……。
圧勝した与党の側からは単なる定数削減という話しか出てこないから、野党の側からもっと大きな見地に立った選挙制度見直しの議論を吹っかけて貰いたい。それが出来ずに、高市「圧勝」を生んだのは小選挙区制のせいだなどと言っているのは、思考が衰弱している証拠である。
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2026年3月16号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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