3.道具が人間を選ぶ
しかし、ここで重要な問いが生まれる。
工房という仕組みは、誰もが活用できるのか。答えは、否だ。
中世の工房において、弟子を率い、作品の質を保証できたのは、長年の修練によって自分自身の眼と技を鍛えた親方だけだった。弟子の仕事を見て、何が足りないかを判断できる者だけが、工房を機能させることができた。
AIも同じだ。
AIに何を頼むかを決めるには、そのテーマについての深い理解が必要だ。AIが出してきた結果を評価し、何が良くて何が悪いかを判断するには、判断の基準を自分の中に持っていなければならない。AIに修正を指示するには、どう直せばよいかがわかっていなければならない。
つまり、AIという道具は、それを使う人間の力量を問う。
力量のある者の手に渡れば、AIは能力を何倍にも増幅する。しかし力量のない者が使えば、AIはただ平均的な何かを生産する機械にしかならない。あるいは、それ以下になる。
道具は使い手を選ぶのだ。
4.時間が増えた先に何があるか
AIの普及が進む中で、よく言われることがある。「ルーチンワークをAIに任せれば、人間は創造的な仕事に集中できる」という言葉だ。
これは本当だろうか。ルーチンワークをAIに投げることで、確かに時間は生まれる。しかし、その時間に何ができるかは、その人間がそれまで何をしてきたかによって決まる。
自律して考え、自分の仕事を作り出してきた人間には、空いた時間は可能性の時間になる。新しい企画を考える時間、深く学ぶ時間、これまで手が届かなかった領域に踏み込む時間になる。
しかし、与えられた仕事をこなすことに専念してきた人間には、空いた時間は途方に暮れる時間になりかねない。何をすればいいかわからない。自分で仕事を作ったことがないから、作り方がわからない。
AIは時間を生み出すが、その時間を何に変えるかは、その人間の問題だ。
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