失われた外交的余白とエネルギー自立の挫折が示す日本の岐路
イランはイギリスの管理下に置かれていた石油資源の国有化を1951年に宣言。それに怒ったイギリスが軍艦をペルシャ湾に派遣したが、出光興産の石油タンカー「日章丸」は、イギリスの監視の目をかいくぐって石油の輸入に成功。イギリスの独占状態は崩れ、豊富な資源の恩恵がようやくイラン国民に行き渡るようになった。
イランの親日感情が深まるこうした歴史的経緯に加え、安倍元首相とロハニ大統領との個人的なパイプがあったことが、難しい情勢のなかでのイラン訪問に生かされた。
しかし、現在の状況は、あの頃とは次元が全く異なる。最大の違いは、日本が失ってしまった「外交的余白」にある。トランプ政権による大規模軍事攻撃と、ハメネイ師の殺害という衝撃的な事態を経て、イラン側の対米感情は対話不能なレベルまで沸騰している。高市首相が「橋渡し役」をつとめたいと申し出ても、どちらからも相手にされるはずがない。
おそらく高市首相は、トランプ氏の風圧から逃れられず、イラン攻撃についても、事実上のトランプ支持宣言をせざるを得ないだろう。そうなれば、イランがどういう対応に出るか、火を見るより明らかだ。
日本外交の歴史をめくれば、そこには「エネルギー自立」という悲願が、日米同盟という冷徹な壁の前に屈服し続けた足跡が刻まれている。その象徴がアザデガン油田だ。
2000年に当時のハタミ大統領が来日し、イラン最大級のアザデガン油田の優先交渉権を獲得したことは、資源小国・日本にとってエネルギー安全保障のうえで大きな一歩だった。しかし、米国のブッシュ政権は「核開発疑惑」を理由に猛烈な圧力をかけてきた。日本政府は粘り強く交渉を続けたものの、2006年に出資比率を75%から10%へと大幅縮小。2010年、米国の対イラン制裁強化が決定打となって日本はついに完全撤退を余儀なくされた。
この時、日本が手放した権益を掠め取るように進出したのは中国だった。この「トラウマ」は、今なお霞が関の深層心理に深く刺さったままだ。
今の高市首相に求められているのは、トランプ氏に「べったり」と寄り添うことではない。必要なのは、「日本の中東パイプを壊すことは、東アジアでの米国の戦略的利益をも損なう」と説得できるだけの、ハガネの論理である。
石油危機で日本が沈めば、自衛隊の近代化も米軍駐留経費の負担も、一夜にして砂上の楼閣と化すだろう。日本がイランから手を引けば、その空白に滑り込むのは、米国の制裁などにおかまいなくイランから石油を大量に買い続けている中国だ。トランプ氏が最も嫌う「中国によるエネルギー支配」を、他ならぬ米国が加速させるという皮肉を、首相は突きつけるべきだろう。
首脳会談をひかえ、トランプ大統領は日本に対してあからさまに圧力をかけてきている。
「日本は95%、中国は91%、そして韓国をはじめ多くの国が石油やエネルギーの膨大な割合をホルムズ海峡から得ている。彼らは感謝するだけでなく協力すべきだ」。
トランプ流に振りまわされて対応を誤ると、石油供給の不安定化は数年にわたって続く可能性がある。「強い日本」というスローガンに熱狂した保守層ですら、明日の生活が立ち行かなくなれば、その矛先を高市政権へと向けるだろう。
日本の外交は戦後最大の岐路を迎えている。国民が求めているのは、ワシントンへの忠誠ではなく、明日も変わらず灯りがともり、車が走るという、平穏な日常なのだ。
この記事の著者・新 恭さんを応援しよう
image by: Shutterstock.com








