宗教保守派も持つに至った「トランプはもう無理」という感覚
2点目は宗教問題です。今回のイラン攻撃は、勿論、革命以降のイスラム国家イランが国是としてヒズボラとハマスに資金を供給して、間接的にイスラエルに宣戦している文脈に沿った戦争です。では、どうしてアメリカが関与しているのかというと、90年代までは石油価格決定の主導権を確保するのが動機でした。また、2001年以降はテロ抑止という動機があり、また前後して福音派がイスラエルの生存闘争を同志として聖戦化したことがありました。
ですが、ここへ来て宗教保守派が「政権の動きについていけない」というある種の限界に到達した感じを抱き始めたようです。1つの契機は大統領が自身の神聖化を図るために、自分をイエス・キリストに重ねるようなCG画を作らせて個人SNSで流したことでした。これには、さすがの宗教保守派も「もう無理」という感覚を持つに至っているようです。
また、この奇行を一種のタイミングだと見たローマ教皇のレオ14世は、激しい大統領批判に転じました。大統領はいつもの調子で「法王は弱腰」などと反論していますが、国際社会においても、またアメリカ国内においても、更に特に中南米においては特別ですが、いずれにしても、法王の存在感というのは大きなものがあります。その法王庁と全面戦争というのは、ホワイトハウスのPR戦略として明らかに稚拙です。
そんな中で、3点目としてはハンガリーのオルバン政権崩壊という事件が起きました。ハンガリー総選挙に関しては、16年にわたって政権の座にあったビクトル・オルバン首相とは、トランプ政権とは相互に親近感があり、つい先週も選挙の応援(?)にヴァンス副大統領が訪問して、一緒にウクライナ批判を展開していたばかりでした。
このハンガリー政変というのは、明確に権威主義の否定と、NATO西側同盟への積極的な復帰、そしてEU回帰という方向性が明らかに打ち出されたという点で、特別なものだと考えられています。明らかに米政権にとっても、これはターニングポイントになると考えられます。
4点目は、アルテミス2号の帰還です。勿論、半世紀前から確立しているテクノロジですから、NASAがミスする可能性は限りなく低いわけです。ですが、月周回(フライバイ)をやって、しかも地球から史上最遠の40万キロ地点まで行った4名が無事に帰還したというのは、やはり高い関心を集めました。
この計画を強く推進しているのは現政権であり、その背景にはスペースX社を率いるイーロン・マスク氏の野望があるのは誰でも知っています。ですが、同時に、こうしたテクノロジの問題、そして未知の領域に人間を送り出すというプロジェクトのリスクや真剣度というのは、やはり世論にインパクトを与えつつあるように思います。
それは、40万キロの宇宙飛行という「壮大で複雑なプロジェクトの実行」という現実を前にすると、一種のマジックが起きているという可能性です。それは、分断とか、フェイクとか、陰謀論、あるいはアンチ科学とか、アンチエリートといった、この間の流行現象が一気に色褪せて見えるということです。これは、勿論、微妙な時代の空気感といえば、それまでですが、時代の転換においては何らかの作用をするかもしれません。
いずれにしても、今回のアルテミス2が達成したことは、内容的には1968年のアポロ8、72年のアポロ13と変わりません。大きな変化があるとしたら、今回はNikonの最新のデジカメを持っていったので凄い絵が取れているとか、アポロは3人だったのが、今回は女性1名を含む4名だったというぐらいです。
にもかかわらず、打上から着水まで、非常に高い関心を集めたというのは、こうしたスケールの大きな事実、フェイクやファンタジーではなく、サイエンスそのものについての関心があったのだと思います。そして何よりも、アメリカが団結を取り戻すことへの飢餓感がそこには感じられます。
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