オンラインの画面越しに見せる笑顔と、AIを通じて紡がれた言葉や作品。その一つひとつは、重度の障がいを抱えながらも社会とつながり、自らの思いを表現し続けた一人の青年の「学びの軌跡」でした。メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の著者でジャーナリストの引地達也さんは、みんなの大学校で学び続けた彼の実践と、その作品に込められたメッセージを振り返っています。
画面越しの笑顔が消えても残る「学びの軌跡」
みんなの大学校に昨年度入学した脳性麻痺を有する重度心身障がいのある20歳の男性が今月、肺炎のために亡くなった。
オンラインで自宅から火曜日の「音楽でつながろう」と木曜日の「メディア論」を受講していた。
発語は出来ないものの、PCを使ってのコミュニケーションのほか、笑顔でその気持ちを伝えようとする姿勢は、その力をあらん限りに使って、自分を表現していたと受け止めている。
それは講義内だけではなく、AIを使っての表現活動でも同様に、自分の内面をAIと対話しながら、抽象画と言葉で発していた。
まだまだ、表現したいこともあっただろう。
AIの発展でこれから表現できる世界が広がるとの期待だけが膨らむ最中の訃報だった。
彼の父親も母親も、みんなの大学校の学びに参加してきたこと、そして表現してきた本人の充実した時間を振り返り、またそれを伝えたいとの意向を受けて、今後は学びを振り返り、彼が発信したメッセージを作品として整理できればと思う。
彼は特別支援学校時代から創作活動を行っていたが、高等部卒業後は、高等教育機関とは異なる経路である「みんなの大学校」での学びに関わりながらAIを使って、自分が思い描く抽象画を作成し、それを説明する言葉と組み合わせて1つの作品として発表していた。
例えば「tutorial」との作品は、「この作品は、『決断と正解』をテーマにしています。この画像は、複数ある人生の選択肢を目にして、今迷っている様子を表しています。社会には、正解という概念がありません」と説明し、さらに「しかし、学校にはあります。学校で教わった正解を僕は、ゲームのチュートリアルとして考えています。また、そのチュートリアルを社会に飛び立った時に活かして、様々な決断をしたり自分自身で好きなように解答と正解を創造したりする生き方が良い人生なのではないかと考えています。」と記載している。
彼から見える世界は新鮮であり、見る人に迫ってくるメッセージ性を帯びている。
また、「signal」という作品は、「熱量とモチベーション」をテーマにしているとし、「やりたいことのモチベーションを上げるために、不安や課題解決などの壁を熱量で壊している様子を表しています。
タイトルの意味は、やりたいことが見つかったとき、人生の分岐点に信号が送られたということが込められています。この作品で伝えたいことは、自分が無理のない範囲でやりたいことをいかに継続してやることができるのかどうかが、人生においてとても大事だということです」と記した。
後半の文章は、障がいがある当事者の視点からの記述。私はていねいに接し、そして解釈するために対話をしたいとの思いを残したままとなった。
これらの作品は本人にとって社会との接点であり、みんなの大学校が今年初めて開催した文化祭でも展示された。
この学びの成果は、本人がオンラインで参加することを念頭に今年12月に開催の日本LD学会のシンポジウムで発表することにしていた。
これは「学びはどのように成立するのか」という問いを起点に、学びを関係および媒介の中で成立する現象として捉え直す、ことを目的にした発表である。
オンライン環境においてAI等の媒介を用いた詩や楽曲の制作を行っている実践で他者との関わりを持ちながら、自らの表現を形にしてきたことを報告する予定だ。
発語や身体的制約がある中でも、媒介を通して他者との関係が構築され、その関係の中で表現が成立している点に着目し、身体や発語を前提としない関係の成立のあり方を具体的に示し、学びが関係と媒介の中で立ち上がってくる過程として捉え直すことにしている。
この発表は亡くなった彼の力強い学びの意志があったからであり、彼の確かな学びを説明したいと考えている。
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