中国が受注したインドネシア高速鉄道を「失敗」にしたがる日本メディアの不思議。抜け落ちた視点と皮肉すぎる対中感情の現実

 

負債は「中国固有の問題」なのか?

少し整理しておけば、地元紙などが書いているように、「Whoosh」の債務問題は複合的な原因の結果だ。

まず新型コロナウイルス感染症の拡大による工期の大幅な遅れがあり、さらに用地取得に難航。加えてコストの高騰が追い打ちをかけたという具合だ。

いずれも中国固有の問題ではない。

さらに深刻なのは汚職の問題だ。

建設コストが当初予定を大きく上回るのは、国内のプロジェクトでも珍しい話ではない。しかし1キロメートル当たりのコストが中国国内の3倍と聞けば驚きである。そこに問題があると考えるのは当然だ。

香港のクオリティ・ペーパー『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)』は、昨秋「中国資金によるインドネシアの高速鉄道『Whoosh』、汚職調査の対象に」と大々的に報じている。

問題の詳細は調査の結果待ちだ。

残る問題はこの記事の見出しでも触れているとおり「なぜ金利もはるかに安い日本を選ばず、中国を選んだのか」である。

鉄道単体では見えない総合戦略

これも単純な話ではない。日本の報道で欠けている視点を補えば、総合的な選択だったということだ。

というのも中国が海外進出する場合、単体で鉄道事業だけを行うケースは少ない。ほとんどが工業団地や港湾、資源、中国の製造業の進出と一体となって動くからだ。とくに鉄道の場合は資源との結びつきが強く、その運び出しや、それに絡む事業と一体で考えられることが多かった。

アフリカでの案件はより顕著だが、インドネシアの場合にはニッケルだ。そしてインドネシアが望む自動車工場の建設なども同時に進められてきた。

自動車では、そのモデルはマレーシアである。

さらに付け加えれば、中国─ラオス鉄道が将来的にマレーシアやタイとつながってゆくという構想を描いているように、ASEAN一帯を中国規格の鉄道を通すことを目指しているのだ。

当然「Whoosh」も延伸が計画されている。

各国のトップは、いうまでもなくこうした様々な事情を総合的に見ながら判断しているのである。これが海外事業の成否を見極める上で必要な基本情報で、各事業のプロジェクトの成否を判断するのは大変な作業となる。

ここには国際政治の事情も作用する。例えばインドネシアが望んだBRICSへの正式加盟だ。これには中国の力が不可欠だ。

興味深いのは、日本メディアが大声で「Whoosh」の失敗を叫ぶ一方で、ASEAN全体の対中感情は、今はっきり上向いているという事実だ。

シンガポールのISEASーユソフ・イシャク研究所の行った『東南アジア情勢2025』調査だ。その調査でインドネシアの調査対象者の71%は「(同盟を余儀なくされたとき)アメリカより中国を選ぶ」と回答している。

なんとも皮肉な話である。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2026年6月28日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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