歴代首相の動画も炎上しなかった理由
バックグラウンドミュージック(BGM)の挿入についてもずいぶん批判されていましたが、過去の官邸発の動画を確認したところ、安倍氏、岸田氏、石破氏などが首相の時にも被災地訪問動画は作られていて、やはりすべてにBGMが挿入されています。ただ、それらが今回のように炎上しなかったのは、どれも「被災地現場視察・慰問の記録動画」という本来の目的を逸脱しない範囲の動画として受け止められたからだと思います。
それに対して、今回の高市氏の動画については、「プロモーションのための現地ロケ」という指摘もありましたが、被災地への慰問や激励が目的というよりも、高市氏のプロモーションが主目的であったとしか思えないような露骨な印象です。懇談している被災者らしき人たちも厳選されたそうですし、何を話すかなどもあらかじめ仕組まれていたようです。視察場所も、酷暑の避難所などは避けられ、空調の利いた中学校の教室が選ばれたそうです。
いま必要な「真贋を見抜く目」
今回の一件から、我々があらためてはっきりと認識しなければならないことは、本メルマガの目的でもありますが、「真贋を見抜く目を鍛える」ということの重要さです。自分の目と耳で直接確認した一次情報以外の情報に接するときには、常にこの「真贋を見抜く目」を意識する必要があります。動画が氾濫する時代ですが、動画は、切り取っただけでも切り取った側の意図が入ります。ニュース映像なども、解説付きの編集された映像である限りは、すべて制作する側の何かしらの意図が入り込むことは当然です。
SNSの時代は、マスメディアなどを介さずに、権力側がいくらでも直接情報発信できる時代でもあります。アベノマスクを発案したとされる佐伯耕三氏が運営する以下のXアカウントもたびたび話題になりますが、これなどは、まさに国民を情報操作することだけが目的で新設されたアカウントであると言っても過言ではありません。
牟田氏も言っている通り、今回、高市氏の動画を観て、映像の専門家でなくとも、多くの人たちが違和感を覚えたことには少なからず救われる思いがします。「何かがおかしい」と察知できる直観力こそが、真贋を見抜く入口だからです。
SNSに最適化された国家の物語
最後に、牟田氏がnoteの終わりで語っている警告をそのままこちらにも転載しておきます。まさにその通りだと思います。
国家が、自らに都合のよい出来事と理想像を選び、感情に届く物語として国民へ届ける。私たちは、その危うさを歴史の中で知っているはずです。それは、過去と同じような過激さ、荒々しい姿では現れないはずです。親しみやすく、テンポがよく、SNSに最適化された姿でそれが現れたとき、私たちはそれを見分けられるでしょうか。
映像に心を動かされた瞬間、一拍だけ立ち止まり、「私は何を見たのか」ではなく、「私は何を見せられ、どう感じるよう導かれたのか」と問い直す。
その習慣を失わないことが、いま私たちに求められているのだと思います。
(本記事は『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中 』2026年8月14日号の一部抜粋です。このほか「今週のメインコラム」や「読者の質問に答えます!」、「スタッフ“イギー”のつぶやき」など、レギュラーコーナーも充実。この機会にぜひご登録をご検討ください)
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