独立した国際的な司法機関として2002年に設立されたICC(国際刑事裁判所)。そんな組織のトップを務める赤根智子氏をトランプ政権が「制裁対象」に指定した問題が大きな議論を呼んでいます。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では作家で米国在住の冷泉彰彦さんが、米国がICCに狙いを定めた背景を多角的な視点から分析。さらに高市首相が赤根氏に対して「積極的な支援」を表明することが困難な理由を日米関係の現状から解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:高市総理はICC赤根智子所長判事をどう支えるのか
裏にある複雑にすぎる事情。高市総理はICC赤根智子所長判事をどう支えるのか
ICCの赤根智子判事に対して、米国が個人を名指しでの制裁(サンクション)を発動しました。具体的には米銀の口座凍結に始まり、VISA決済もGoogleアカウントも消滅するという徹底したもののようです。
赤根智子氏に関しては、中の方が中道左派なのでバイアスのかかった動きをしているとして、一部の保守ポピュリストが疑問を呈していますが、冗談ではありません。この方は検察プロパーの超エスタブリッシュメントであり、同時に日本の法曹におけるプロ中のプロとして故安倍総理が国際社会に送り出した方です。
判事にはいくらでも代わりがいるなどとタンカを切るなど、全くもって凡人ではないように見えますが、それは偏った思想から来るのではありません。法治という文明を背負い、同時に日本という国の法治国家という「国のかたち」を背負った延長で、国際法の番人としてのプロに徹しているだけです。
これに対して、高市総理は「残念だ」というコメントを発していますが、正面切って制裁を発動したトランプ政権、そして米国国務省を批判してはいません。この点について、高市氏のことを弱腰外交だと批判する勢力が登場しています。
この問題ですが、そう簡単ではありません。今現在の米政権の立ち位置から考えると、末期豊臣政権のようなポリティクスが動いており、その複雑さの中で出てきたのが、この「ICC叩き」だからです。次のようなメカニズムが動いていると考えられます。
1)直接この制裁を発動したのは国務長官(日本で言う外務大臣)のマルコ・ルビオです。推測ですが、この人のことを大統領は全面的に信頼してはいません。もしかしたら自分に反して「常識的な外交」に向かう「裏切り」をするかもしれないと警戒しています。
また2028年には大統領もしくは副大統領候補になって、当選したら自分のやった政策を全部常識的なものにひっくり返すかもしれないという警戒もしています。
ですから、切れ目なく「汚い仕事」を与え続けているのです。例えばベネズエラに手を突っ込み、欧州と喧嘩、イランには直接攻撃、北朝鮮接近策もそうです。
親分の直感で動いているのはそうだとして、とにかくルビオが「元のオーソドックスな外交」に戻ってMAGAを裏切ることのないように、矢継ぎ早に「踏み絵」を踏ませているのです。ICC制裁もその一つと考えられます。
2)中間選挙が刻々と近づいています。ここへ来て民主党の左派(DSA)が勢い付いています。民主党左派は現状不満層を煽るという点では、実はMAGA派と非常に近いものがあります。ですから、放っておけばMAGA票を乗っ取る可能性もあるわけです。しかもDSAのボスのAOCは、最近自己批判して少しだけ極左から中道に寄せてきています。
そうなると、親分としては「どう考えても左派のやらない派手な政策」をやらないと、MAGAが離反するという心理になってくるわけです。今回のカナダへの関税戦争再開にしてもそうです。実際の発動は中間選挙後にして選挙前には物価への影響をさせずに、カナダいじめの構図だけ見せるというテクニックを使っていますが、右派劇場の一幕であることは間違いありません。ICCいじめも同じような構図があります。
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