【日米韓に大被害】核をもった北朝鮮をアメリカは攻撃できない

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開戦直前だった1994年との状況の違い

『辺真一のマル秘レポート』 Vol.42より一部抜粋

米国の北朝鮮政策の究極的目標は、北朝鮮の核放棄にある。そのためには米国はクリントンからブッシュ、オバマ政権にいたるまで「先制攻撃の選択肢は排除しない」と言明してきた。米国にはその能力はある。だが、イラク戦のような手法が取れるかというと、現実的には不可能に近い。

米国はクリントン政権時代(1992-2000年)の1994年に一度だけ、北朝鮮への攻撃を真剣に検討したことがあった。卓上プランで終わったが、北朝鮮の核施設への空爆だ。

全面戦争という最悪のシナリオに備えクリントン大統領は1994年5月19日、シュリガシュビリ統合参謀本部議長らから戦争シミュレーションのブリーフィングを受けた。シミュレーションの結果は「戦争が勃発すれば、開戦90日間で▲5万2千人の米軍が被害を受ける▲韓国軍は49万人の死者を出す▲戦争費用は610億ドルを超える。最終的に戦費は1千億ドルを越す」という衝撃的なものだった。

当時、極東に配備されていた在日米軍3万3千4百人と在韓米軍2万8千5百人を合わせると、約6万2千人。なんとその約8割が緒戦3か月で被害を受けることになる。駐韓米軍のラック司令官にいたっては「南北間の隣接性と大都市戦争の特殊性からして米国人8万~10万人を含め(民間人から)100万人の死者が出る」と報告していた。

クリントン大統領はそれでも将来米国を核攻撃するかもしれない北朝鮮を今のうちに叩くのが得策と判断し、一か月後の6月16日、ホワイトハウスでの安全保障会議で空爆を指示した。ところが、ほぼ同時に訪朝中のカーター元大統領から「金日成(主席)が核開発の凍結を受け入れた」との一報が入り、幸いにも攻撃は中止された。

ブッシュ政権下(2001-2008年)でも武力行使のオプションが排除されることはなかった。ブッシュ政権下で国務副長官を務めたリチャード・アミテージ氏は1999年3月に発表した自身の報告(「アミテージ報告」)で「北朝鮮が核とミサイル開発を放棄しない場合は、核やミサイル基地に対する空爆も考慮すべし」と提言していた。

アミテージ報告に基づきブッシュ大統領は2003年2月、米陸軍士官学校の卒業式で「我々は自由と生命を守るため先制措置(先制攻撃)を取るなど積極的で断固とした態勢を備える」と、「悪の枢軸」扱いした北朝鮮を威嚇し、翌年の2月10日に訪米した中国の江沢民国家主席(当時)に対し「(北朝鮮の核問題が)外交的に解決できなければ、北朝鮮への軍事攻撃を検討せざるを得ない」と密かに通告していた。このことは退任後の2010年11月に発売されたブッシュ大統領の回顧録「決断の瞬間」の中でも明らかにされている。

北朝鮮が2006年、2009年と二度にわたって核実験をした後も米国の先制攻撃のオプションは排除されることはなかった。現に今のオバマ政権下(2009年~)でも米太平洋軍のロックリア司令官がソウルの米韓連合司令部での会見(2012年4月17日)で「北朝鮮が3度目の核実験を試みた場合、基地に対して局地攻撃を加える可能性もある」と発言していた。

オバマ政権下ではテポドン・ミサイルへの迎撃の可能性も再三示唆している。北朝鮮が人工衛星と称して2009年4月にテポドン2号を発射した際にはゲーツ国防長官が「迎撃も辞さない」と言明していた。この時、迎撃の意思をロシア政府に事前通告していたことも米国務省がロシア駐在の米大使館に送った秘密公電で明らかにされている。

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