ワクチン不足に揺れるEU。ロシア製「スプートニクV」で生じた不協和音

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ワクチン政策でも自国主義のアメリカを尻目に「ワクチンは公共財産」と主張し開発を進め、世界で最も早く国産ワクチンを承認したロシア。世界初の人工衛星にちなみ「スプートニクV」と名付けられたロシア製ワクチンがいま、ワクチン不足を解消したい欧州各国を揺るがしていると朝日新聞が独自記事で伝えました。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』著者でジャーナリストの内田誠さんは、「スプートニクV」について朝日新聞がこれまでどう報じてきたかを検証。欧州連合(EU)がこのワクチンについてどのような判断を下すのか注目しています。

ロシア製のワクチン「スプートニクV」について新聞はどう報じてきたか?

きょうは《朝日》から。11面の国際面に、ロシア製のワクチン「スプートニクV」についての興味深い記事が掲載されています。欧州各地の特派員による独自記事のようですので、これを取り上げます。「スプートニクV」で検索すると、サイト内に23件、1年以内の紙面掲載記事で8件ヒットしました。この8件(今日の記事を除けば7件)を対象にします。まずは11面記事の見出しから。

ロシア製ワクチン 欧州に動揺
スプートニクV
ハンガリー独自接種 各国内で対立も
EU未承認 プーチン氏売り込み

スプートニクVを巡って、欧州各地でいくつもの「不協和音」が生じているという。未承認のまま導入するか否かで政権が紛糾したり、独自の判断で使う国があったりなど。

スロバキアやチェコのように死亡率が世界で最も高い水準の各国では、政変につながりかねない状況。スロバキアでは、EU主導の調達では手遅れになるとみて首相がスプートニクVの使用を指示したところ、連立4党のうちEUの承認を待つべきだとする2党が「連立離脱」をチラつかせて政権を揺さぶり、保健相が辞任。2党は首相の辞任まで求める騒ぎに。

EUは承認済みの4ワクチンを18.6億回分確保しているものの供給遅れが相次ぎ、各国から批判されている。ハンガリーは独自にスプートニクVの接種を始めている。

●uttiiの眼

冷静に観れば、ファイザー製にせよアストラゼネカ製にせよ、もちろんスプートニクVについても、これまでのワクチン開発の常識を覆すようなスピードで作られたということがある。そのうえで、各国が独自の「承認」プロセスを踏んで使用に至っているわけだが、悩ましいのは、スプートニクVが治験の第三層試験をスルーしてロシア政府に「承認」されたものでありながら、世界的医学雑誌でもその実効性が高く評価されたワクチンだということ。

深刻な感染状況を抱える国からすれば、EU承認ワクチンを待つよりも、スプートニクVを使いたいという希望が強くなり、権力基盤の弱いところでは、そのことが原因となって「政変」が惹起され、ハンガリーのオルバン政権のような独裁的傾向の強いところではEUを無視してスプートニクVが使われるという、奇妙な斑(まだら)模様が生じている。

今、アストラゼネカ製については、副反応についての懸念から接種が中止されている状態で、ただでさえEU内での供給が遅れている時に、日本に入ってくる時期などはさらに遅くなるのではないか。そんな心配が現実になりそうだ。

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