参院選挙戦で各党が掲げた、「国民が手にする金を増やす」という趣旨の公約。しかしながら健康社会学者の河合薫さんは、これら聞こえの良い彼らの主張に疑問を抱いたといいます。河合さんはメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で今回、各党の公約に首を傾げざるを得なかった理由を簡潔に説明。その上で、この国の政治家に対する自身の期待を綴っています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:豊かな社会はどこへ?
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
豊かな社会はどこへ?
参議院選挙、自民・公明が大幅に議席を減らし、参院全体で過半数を割る結果となりました。投票率も15年ぶりに50%台後半の58.51%で多くの人たちが「自分ごと」にできたことは良かったと思います。
しかし一方で、あらためて各党の公約を眺めてみると「どうやって実現するおつもりなのか?」と首をかしげたくなるものも多いといわざるをえません。
自民党では「物価上昇を上回る賃上げと最低賃金の引上げを加速化」を公約に掲げていますが、賃金をあげるのは企業です。
企業の利益から税金や配当を差し引いた「内部留保(利益剰余金)」は2023年度末に600兆9,857億円で、12年連続で過去最高を更新しました。一方、設備投資や人件費の伸びは小さく、労働分配率は上がるどころが下がりっぱなしです。
立憲民主党は「持続的賃上げへ、企業利益からの労働分配を増やす」としていますがどうやって増やすのでしょうか。
「減税で手取りを増やす(国民民主)」「減税・社会保険料減額で手元に残るお金を増やす(参政)」としていますが、富裕層の手取りも増えてしまうのでしょうか。
豊かな者がより豊かになり、貧しい者がより貧しくなるような経済のあり方、社会のあり方に私は常々疑問を感じてきました。
安い労働力を増やすことで生産性を上げてきた企業にも疑問だらけです。
「本当の意味での国民経済とは何であろうか。それは、この日本列島で生活している1億2,000万人が、どうやって食べどうやって生きて行くかという問題である。その1億2,000万人が、どうやって雇用を確保し、所得水準を上げ、生活の安定を享受するか、これが国民経済である」――。
これは高度成長の政策的基礎のプランナーとして活躍した経済学者の下村治さんの著書『日本は悪くない─悪いのはアメリカだ』(1987年刊)に書かれている一節です。
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