「官報複合体」。それは、政治・司法・メディアが一体となって恐ろしいほど強大な権力構造を持つ、日本でも数少ない“アンタッチャブル”な存在。前編で検察の暴走と冤罪の構造について論じてきたジャーナリストの上杉隆さんが、後編では筆者自身の生々しい体験と、検察・メディア・裁判所が一体となった「官報複合体」の実態に迫ります。2010年、西松建設事件で特捜部の強引な捜査手法を批判する記事を執筆した際、東京地検特捜部から出頭要請を受け、さらには法務省幹部から「上杉を逮捕せよ」という号令まで発せられたという衝撃的な事実。メルマガ『上杉隆の「ニッポンの問題点」』の中で上杉さんは、自身の体験と元司法記者の証言を交えながら、検察が筋書きを作り、メディアがそれを拡散し、世論を形成する官報複合体のカルテル構造を鋭く告発します。
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人生の巡り合わせと官報複合体~東京地検特捜部というキーワードが結ぶ3人との奇縁(後編)
私自身の体験~週刊朝日と特捜部からの圧力
振り返れば、私自身も検察の標的になった一人である。2010年、週刊朝日に「暴走検察 子ども”人質”に 女性秘書『恫喝』十時間」という記事を執筆した。西松建設事件で特捜部が小沢氏の元秘書の石川知裕衆議院議員(故人)の女性秘書のUさんを長時間にわたって恫喝的に取り調べ、彼女の子どもを人質に取るような捜査手法を批判的に報じたものだった。
記事掲載後、東京地検特捜部から週刊朝日編集部の編集長と筆者である私に出頭要請が来た。私はTwitterで「出頭方法を募集する」と書き、地検特捜部への宣戦布告を行った。若かったのだ。半分冗談、半分本気のつもりだったが、特捜部の怒りを買ったことは想像に難くない。検察の出頭要請という恫喝に屈しないというジャーナリストとしての意思表示でもあったが、本当の敵は検察ではなく、朝日新聞内部にいたことを知るのは後のことだった。
朝日新聞内部からの追い落とし工作
週刊朝日のほかに朝日新聞でも連載を持っていた私は、この件で官報複合体の恐ろしさを改めて認識することになる。当時の週刊朝日は朝日新聞社の雑誌であった(のちに分社)。週刊誌という身内が検察批判をすれば、当然ながら朝日新聞本体と検察庁との関係が悪化する。記者クラブ(司法)を通じて緊密な関係(単なるカルテルだが)を構築している朝日新聞本紙と検察庁は、上杉追い落としに全力を上げることになる。
これも本稿では割愛するが、簡単にいえば、微罪でも冤罪でもなんでもいいのでジャーナリストの上杉隆を逮捕せよ(つぶせ)という乱暴な号令が、当時の法務省幹部から発せられたのだ(鳩山法務大臣が上杉に知らせて発覚)。
検察リークとメディアの共犯関係
さて、弘中弁護士が番組で指摘したように「特捜部の事件は世論形成をする。検察の作った物語が広まる」のは事実だろう。村木厚子氏の事件では、「逮捕直前に村木さんが喋ったとされる供述調書の内容が翌日新聞に載った。これは担当の特捜部がリークした以外ありえない」と証言した。
読売新聞記者だった新田哲史氏も番組でかつての司法記者クラブ時代のエピソードを語った。「村上ファンド事件の取材で、投資家たちが『インサイダーは微妙じゃないか』とカウンター情報を教えてくれた。それを記事にあげたが全部不採用。特捜部幹部が言ってくる情報で全部紙面が仕上がっていく」。ライブドア事件では「スイスで隠し口座を使って犯罪収益をやってる」という印象操作記事が出たが、「起訴された時は銀行には何も入ってなかった」と答えている。
有罪率99.9%を支える官報複合体
これが官報複合体の実態である。検察が筋書きを作り、メディアがそれを拡散する。そして世論が形成され、裁判所も追認する。有罪率99.9%という異常な数字は、このカルテル構造があってこそ可能なのだ。大手メディアが東京地検特捜部などの検察に不利な情報を一切報じない理由をおわかりいただけただろうか(上杉隆さんのメルマガ『上杉隆の「ニッポンの問題点」』2025年11月23日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)。
※本稿は『NoBorder』第21回「巨悪を”作る”正義─誰も知らない東京地検特捜部とオールドメディアの複雑な関係」(2025年11月15日配信)をもとに、上杉隆が執筆したエッセーである。
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