中島聡も懸念。闇の深い「AI受託開発」では爆発的ベンチャーが生まれない現実

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医療業界からAIベンチャーに転身した人物が書いたnote記事「スタートアップとかいう界隈に3年いて思ったこと」が話題を呼んでいます。医療の世界では誇張は患者の死に直結する犯罪ですが、スタートアップでは実現していないことを語ることが「ビジョン」として称賛される——この真逆のルールに戸惑った率直な感想が綴られています。メルマガ『週刊 Life is beautiful』では、著者でエンジニア・投資家の中島聡さんが、この記事を引用しながら、ベンチャーCEOの役割やAIスタートアップの実態について鋭く考察しています。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

私の目に留まった記事

スタートアップとかいう界隈に3年いて思ったこと

医療業界からAIベンチャーに来た人の感想ですが、ストレートな表現が面白いと感じたので紹介します。

医療の世界では、正確性とエビデンスが命です。「この手術、たぶん成功するし、なんなら寿命が1000倍になると思います!」なんて言ったら、それは医療過誤どころか犯罪です。誇張は患者の死に直結します。

しかし、スタートアップの世界ではどうでしょう。実現していないことを高らかに語ることは「嘘」ではなく「ビジョン」と呼ばれ、称賛されます。

(中略)この真逆のルール「虚構を現実に変えていくゲーム」に慣れるまでには、少なからず脳の切り替えが必要でした。

ベンチャー企業のCEOの役割は、「こんな世界を実現したい」というビジョンを熱く語り(=大風呂敷を広げる)、そのビジョンの魅力で優秀な人を雇い、資金を集め、その資金と人材でビジョンを現実のものにすることです。

この、ビジョンを語る→資金と人材を集める→集まった資金と人材を使ってビジョンを実現する、と言うプロセスが、外の業界から来た人たちから見ると、「虚構を現実に変えていくゲーム」に見えるのかも知れませんが、この業界で活躍しているほとんど全ての企業が、このプロセスを使って成長し、実際に大きな価値を生み出していることは、それが単なる「虚構」ではないことを示しています。

医療に関しても、医療ベンチャーのCEOは、「RNAワクチンで癌を撲滅する」などの壮大なビジョンを掲げて資金と人材を集める点においては、テクノロジー業界のベンチャー企業と同様です。効果が証明されていない医薬品を販売することは犯罪ですが、効果があるとCEOが信じている医薬品を作るために資金を集めることは、真っ当なベンチャービジネスです。

この記事の中には、以下のような表現もあり、的確に実態を反映していると感じました。

そんな「プロダクト開発」の苦行を横目に、今のAIスタートアップの8割くらいが選んでいる道があります。「AI受託開発」です。

やることはシンプルです。大企業からの「これってAIでできないの?」という問いに対し、ChatGPT等のAPIを裏で回して「ほら、AIでこんな未来が作れます!」とパフォームし、PoC(概念検証)を回す。

技術力で差別化できないとなると、AIのAPIを触れそうな学生インターンを大量投下して、馬車馬のごとくPoCを高速回転させる必要があります。うかうかしていると、隣のスタートアップがさらに多くのインターンを投入してくるからです。

「AIを使いこなす」ことに関しては、常に一般の人と技術者の間にギャップがあり、そのギャップを利用して、コンサルビジネスで食べて行くことは可能ですが、それでは、大きなリターンを投資家や創業者にもたらす爆発的なベンチャーを作ることはできません。

ちなみに、似たような状況は、米国でもあります。大学でコンピュータ・サイエンスを勉強したのに職が見つからない若いエンジニアを、パートタイムで雇い、PoCを回したり、顧客向けのシステムをバイブ・コーディングで作らせる、みたいなことが起こっているそうです。(本記事は『週刊 Life is beautiful』2025年12月9日号の一部抜粋です。「私の目に止まった記事(中島氏によるニュース解説)」、読者質問コーナーなどメルマガ全文はご購読のうえお楽しみください。初月無料です)

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image by: Takkystock

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