なぜ、Apple Watchは使いにくいと言われるのか?

2nix Studio / Shutterstock.com2nix Studio / Shutterstock.com
 

来るべき4月24日に遂にApple Watchが発売されます。大手量販店などでも試着が開始されていますが、実際に触った感想はどうなんでしょう? 一部に「使いにくい」という声もありますが、ジャーナリストの佐々木俊尚さんはスマートウォッチの使い勝手について独自の見解を示しています。

スマホはウェブデバイスだが、アップルウォッチは「クラウドデバイス」である

アップルウォッチの使い勝手についての誤解がある、という記事をビジネスインサイダーが書いています。

The Apple Watch is a misunderstood bridge to the future

「誤解された未来への架け橋である」というタイトルですね。もうすぐ発売のアップルウォッチ、試着してみた人たちの感想は「至福だ」「驚異的」といった感動がたくさん出ているいっぽうで、「やっぱりちょっと使いにくいのでは?」という声もあるようです。画面が小さく、アイコンを間違えてタップしやすいとか、山ほど通知が来てうっとうしいとか。

でもこういうネガティブな感想が出てしまうのは、われわれがスマホ時代のUI/UXに慣れきってしまっているためで、スマホ時代のマインドセットから逃れられていないからだ、と記事は指摘しています。

「スマホのマインドセット」とはどのようなものか。iPhoneの最初のバージョンが米国で発売された2007年以降、この8年ぐらいはスマホがコンピューティングの中心になっていった時代でした。つねにインターネットに接続され、スクリーンに情報が表示され、画面をタップすることで写真撮影やテキストメッセージの送受信、SNSへのコメントなどさまざまな操作を行える。アップルがiPhoneで作ったこのUIは、いまのスマホのUIのデファクトスタンダードとなっています。

しかしこのスマホのUI/UXを、腕時計型のスマートウォッチにそのまま持ち込むと、たいへん使いづらいものになります。画面は小さく読みづらいし、タップによる操作もやりにくい。

しかしスマホのUXとスマートウォッチのようなウェアラブルで期待されるUXは、まったく違うんですね。だからスマホのUIをウェアラブルにそのまま持ち込んでもうまくいくはずがありません。

このあたりは、私が昨年書いた『ウェアラブルは何を変えるのか?』というKindle本に詳しく書いているのでそちらを参照していただければと思いますが、そこから少し内容を抜粋して、「リープモーション」という機器の話を紹介してみましょう。

PCのUSBポートに接続し、空間の手のジェスチャーでパソコン画面を操作できるリープモーション(Leap Motion)というデバイスがあります。使ってみるとわかりますが、慣れないと非常に操作が難しいのです。特に「メニューを出す」「メニューの中から選択する」といったパソコン的な操作がまったく直感的ではありません。これはすなわち、「メニューバーの中から選択する」というような操作は、パソコンとの「対面・対話型」の操作であって、パソコンと「同方向・同化」の操作になっていないということなのだと思います。iPhoneでスワイプのような直感的な操作系を生み出したアップルは、そう考えると本当すごいなあとあらためて感じます。「携帯電話を再発明した」と言われたiPhoneというデバイスの新しさと、新しいデバイスに適合したまったく新しいUIが組み合わせられ、スマホ的なUXがゼロから生み出されたということなのです。

ちなみにリープモーションは専用アプリのプラットフォームも用意されており、App Storeからゲームなどをダウンロードできます。ここで入手したリープモーション専用のゲームは、実に直感的で操作しやすいのです。これはリープモーションという新しいデバイスのために新しい専用のUIを開発したからなんですね。

言い換えればKinectやリープモーションのような空間ジェスチャUIに対して、マウスとキーボードを基礎としたいまのパソコンの操作体系はまったく場違いだということです。パソコンより進んでいるスマホのタッチスクリーンの操作系も、空間ジェスチャUIにはそぐわないでしょう。だから空間ジェスチャUIに最適化されたデザインを持つデバイスを新規に開発し、UX全体を再設計しないといけないということなのでしょう。そしてそうした空間ジェスチャUIが最も適したデバイスは、身体に装着され身体と同化しているウェアラブルであるのは間違いありません。

そう捉えてみれば、スマートウォッチなどのウェアラブルがスマホのUIを踏襲しているのは筋違いだということがわかります。眼鏡型にしろ時計型にしろウェアラブルデバイスは、対面・対話型のUXではなく、空間ジェスチャUIなどを採用した同方向・同化型のUXを目指すべきなんですね。(以下の342号に続きがあります)

『佐々木俊尚の未来地図レポート』第342号より一部抜粋

【第342号の目次】
・特集1
スマホはウェブデバイスだが、アップルウォッチは「クラウドデバイス」である。
~アップルウォッチの意味を理解している人は現時点では少ない
・特集2
マスメディアの「弱者」記事と在特会の在日非難は実は表裏一体であるという真実
~戦後のメディアの歴史を読み解く(6)
・今週のキュレーション

著者/佐々木俊尚(ジャーナリスト)
1961年生まれ。早稲田大政経学部中退。1988年毎日新聞社入社、1999年アスキーに移籍。2003年退職し、フリージャーナリストとして主にIT分野を取材している。博覧強記さかつ群を抜く情報取集能力がいかんなく発揮されたメルマガはメインの特集はもちろん、読むべき記事を紹介するキュレーションも超ユースフル。
≪無料サンプルはこちら≫

print
いま読まれてます

  • なぜ、Apple Watchは使いにくいと言われるのか?
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け