強気が一変、安倍政権が「辺野古和解」に急転したウラ事情

 

国と地方自治体は「上下関係」という思い込み

1947年制定の地方自治法には「職務執行命令訴訟制度」が組み込まれていて、総理大臣は都道府県知事が命令に服さない場合にその知事を罷免する権限さえ持っていたが、さすがに1991年の改正でこの知事罷免の制度は廃止された。さらに99年の大改正では、その職務執行命令訴訟制度そのものを廃止し、代わりに現行の「代執行制度が新設された。実は、代執行制度の内容は職務執行命令制度とほぼ同様の要件・手続きのものではあるけれども、国が都道府県を頭ごなしに指揮監督する権限を取り除くという地方自治原理の大転換の上に位置づけ直された以上、その運用は慎重でなければならない

実際、改正された地方自治法の第11章「国と普通地方公共団体との関係」の第245条を見ると、国が知事に対して行う「関与」は、

イ 助言又は勧告
ロ 資料の提出の要求
ハ 是正の要求
ニ 同意
ホ 許可、認可又は承認
ヘ 指示
ト 代執行

と、7段階で順を追って丁寧になされるべきことが定められ、それらの措置を行う場合も「その目的を達成するために必要な最小限度のものとするとともに、普通地方公共団体の自主性及び自立性に配慮しなければならない」(第245条の三)と制約を付している。また「最後の手段」とも言える代執行については特に「(それ)以外の方法によつてその是正を図ることが困難であり、かつ、それを放置することにより著しく公益を害することが明らかであるとき」は、まずは文書で改善を「勧告」し、それでも駄目なら期限を定めて実行を「指示」し、それでも駄目なら主務大臣が高等裁判所に指示の実行を命ずる旨の「裁判を請求することができる」とされている(第245条の八)。

つまり今回の和解勧告には、安倍政権に対して、「あなた方、99年の地方自治原理の転換の意味を全く理解していないんじゃないですか。昔の職務執行命令訴訟制度と今の代執行制度は同じで、相変わらず国は地方を指揮監督したり命令を下したりできると思っているんじゃないですか。いきなり代執行訴訟なんて無茶ですよ。こんな裁判、私もやりたくないですよ」と、根本的な勘違いを正すアドバイスが盛られていたと考えられる。それが、上記の読売が言う「裁判長が『丁寧な手続きを欠いている』との心証をもっているのでは」という懸念を政府が抱いた意味である。

実を言うと、99年の大改正後、地方自治法第245条に基づく代執行訴訟が起きたのはこれが初めてであり、担当裁判官としても、安倍政権の根本的な勘違いを正さずにこのまま判決を出して、それを初判例として残すことをためらったというか、恥だと思ったのではあるまいか。

安倍は「地方創生」を語るときには、「地方創生は、地方の自主性、自立性を高め、地域の特性に即して課題を解決するという基本的視野に立って取り組む必要があります」とペラペラと答弁するが、沖縄に関しては自主性も自立性もへったくれもなく、一知半解のまま代執行制度に飛びついてそれを暴力的に振り回す。これでは翁長が怒るのは当たり前である。

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