もっと極端な例は、オオフサモと2種のサルゾウムシの関係である。クロホシクチブトサルゾウムシとヤマトクチブトサルゾウムシは、環境省によって、「特定外来生物」に指定されているオオフサモのみを食草とし、現在のところほかの食草は見つかっていない。この2種のサルゾウムシはオオフサモの導入以前に記録があり、日本の在来種と推定されるが、元来何を食べていたかはわかっていない。現在は完全にオオフサモに依存している。オオフサモを除去したら、絶滅するだろう。
2500年前に日本列島に導入されたイネは、日本の低地生態系を徹底的に改変した「侵略的外来生物」であるが、そのおかげで、日本列島の人口は激増したに違いない。人間にとってのイネは、先に挙げた2種のサルゾウにとってのオオフサモと同じである。外来種排斥原理主義の主張を徹底すると、外来種のイネも排除対象になってしまうため、この人たちは、畑で栽培されている作物は外来種と言わないのだ(外来種の定義から外れるので排除しなくていいという理屈である)、といった自分たちの主張に都合がいい定義を捏造しているが、畑で栽培している外来作物を排除してしまったら、生活が成り立たないのでそのように言わざるを得ないのだ。
2種のサルゾウムシもまたオオフサモを排除してしまったら、生活が成り立たないので、在来種の生活を支えているものはたとえ人為的に持ち込まれたものでも、外来種といわない、と定義し直してくれ。言葉が喋れたら、そう主張するだろうね。
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『池田清彦のやせ我慢日記』より一部抜粋
著者/池田清彦(早稲田大学教授・生物学者)
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