ブラックバスは悪なのか?ご都合主義の「外来種」排斥に学者も激怒

 

ピアスの本は南大西洋のアセンション島の記述から始まる。アセンション島は約100万年前に大西洋の海底から出現した絶海の孤島である。人類がこの島と関わりを持つ前は、海岸沿いはアオウミガメと海鳥の天国であったが、植物はトウダイグサ科の固有種が海岸に生えている以外は、コケとシダしか生えていない荒涼とした地であったという。

この島を緑の楽園にしようと構想したのは1843年に島を訪れたジョセフ・フッカーであるという。ダーウィンの友人で著名な植物学者であったフッカーは、この島の緑化計画を実行すべく、南アフリカの国立植物園や、自身が園長をしていたロンドンのキュー・ガーデンから沢山の植物を導入した。

 特に相性が良かったのは、タケやウチワサボテンの1種で、10年も経たないうちに、はげ山は鬱蒼とした雲霧林に変わり、グリーン山と呼ばれるようになった。山頂が859mのグリーン山は、いまでは標高600mを超えたあたりから約300種の種子植物が豊かに育っている。もちろんすべて外来種だ。

外来種の導入前はコケとシダしか生えていなかったのだから、植物の種多様性は著しく増大したわけだ。それでも、頑迷な外来種排斥原理主義者はグリーン山の外来植物を排除せよと主張するかもしれない。ピアスは言う。「外来種を根絶しようものなら、固有種のシダを含めて絶滅する在来種が出てくることは明らかだ」。かつては、丸裸の山腹に張り付いていた固有種のシダは今では外来種の苔むした枝にしか見られないという。

同じような事例はグリーン山のような極端な場所でなくともみられる。たとえば、日本の固有種であるクロサワヘリグロハナカミキリの幼虫は、かつてはキハダという植物を食べていたが、今では外来植物のハリエンジュをも食べるようになった。キハダのみを食べていたころ、このカミキリは大珍品であったが、ハリエンジュを食べるようになって普通種になった。

ハリエンジュは全国の河川の河原にはびこっている優占種であるため、食料が爆発的に増えたためである。ハリエンジュを排除したら、このカミキリは激減してしまうだろう。尤も、ハリエンジュを人為的に排除することは不可能だと思われるので、クロサワヘリグロハナカミキリもさしあたっては安泰である。

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