神は細部に宿る。未だに解明できない、16世紀の精巧すぎる彫刻作品

2017.01.18
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16世紀のヨーロッパと聞いて、みなさんは何を思い浮かべますか? 日本を含め各国で大きな戦いが繰り広げられ、新たな時代が造られては消え、宗教や貧困など、まさに「歴史」が凄まじい速さとスケールで造られていたわけですが、同時にイタリアでは初期ルネサンス美術が芽生え、建築や絵画など、さまざまな分野での美術の発展が遂げられました。そんななか、1500年から1530年までのわずか30年間、フランダース地方およびオランダで造られた彫刻作品が、現在その精度の高さで注目を浴びています。

わずか135個しか知られていない、精巧すぎるツゲ材の彫刻作品

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先述したように、16世紀初頭のヨーロッパでは常に何か新しいものが生まれ、改革を経ては消えることを繰り返していました。

そのなかで生まれた商工業者階級の間で、高品質で持ち運びできる、宗教信仰に用いる彫刻品への市場需要が高まったのです。

そこで作られたのが今回ご紹介する彫刻作品の数々なのですが、本格的な製造が始まってわずか30年ののち新たな改革が起こり、多くの宗教関連の物品が廃れていき、これらの製造も廃止されました。

当時の時代の流れの目まぐるしさが想像できますね。

そのあまりにも精巧で緻密な構造は、現代技術を以てしても完全には解明できず顕微鏡やX線でのみ細部を確認することができるとのことです。

いったい500年以上も前に存在した技術をどのように駆使すれば、このような細工が可能だったのでしょうか。 

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現在これらの彫刻作品を集めた展示会「Small Wonders: Gothic Boxwood Miniatures」を行っているオンタリオ美術館the Art Gallery of Ontario /AGO )のキュレーターSasha Suda氏に取材したところ、「史上初の試みとして今回の展示会を催したのは、これらの神秘と不思議に満ちた小さな彫刻作品500年以上も昔に一体どのようにして作られたのかという人々の疑問に応えたいという思いからだ」と語ります。

今回の展示会に自身のコレクションを提供した故Lord Kenneth Thomson氏は、様々なオークションやディーラーなどを通じ、その生涯をかけて実に10個もの数珠玉と、2枚の祭壇に飾られる絵画を収集したそうです。

また、Suda氏はこの展示会を通して、これらの精巧な彫刻作品を遥か昔に手がけた職人たちが、作品に何を込めたのか、また、人間の創造に限界はないのだということを、観覧に来た人たちに実際に目で見て体感してほしいそうです。

500年以上の時を経て、人の手によって造られたものを実際に目にする機会は、そうそうありませんよね。

そしてきっと、作品が持つ魅力はその精巧さだけではないはず。

歴史的な芸術作品から、その当時の時代背景や職人の想いが感じられるのも、見る人を惹きつける、大きな魅力なのでしょう。

 

取材協力・画像提供/the Art Gallery of Ontario

文/貞賀 三奈美

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