お経をあげたお寺の住職が檀家からもらっている「お布施」、これらは住職が懐に入れてしまった場合、「脱税」していても把握できないのが現状のようです。では、お寺の住職が投資で個人的に儲けた利益はちゃんと申告されているのでしょうか。元国税調査官の大村大次郎さんは自身のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』で、最近中部地方で起きた、寺院の住職が「外国為替証拠金取引(FX)」で得た利益を申告していなかった脱税事件を例に、お寺の脱税が表向きになった理由について解説しています。
※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2018年5月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:大村大次郎(おおむら・おおじろう)
大阪府出身。10年間の国税局勤務の後、経理事務所などを経て経営コンサルタント、フリーライターに。主な著書に「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)がある。
お寺の住職が「FX」で得た利益は課税されるのか?
最近、興味深い脱税事件が報じられました。
まず次の記事をご覧ください。
● 愛知の住職、3100万円脱税容疑 FX利益申告せず 国税告発(毎日新聞)
外国為替証拠金取引(FX)による利益などを確定申告せず、所得税約3100万円を脱税したとして、名古屋国税局は、愛知県犬山市にある寺の住職(45)=犬山市=を所得税法違反容疑で名古屋地検に告発した。関係者への取材で分かった。
関係者によると、住職は2016年までの3年間で、FXで得た利益を申告から除くなどして約2億2000万円の所得を隠し、所得税約3100万円を免れた疑いがある。昨年9月に国税局が強制調査(査察)に入っていた。既に修正申告したとみられる。
住職は取材に「FXの口座から現金を引き出したことがなく、利益を得た実感がなかったため、申告を先延ばししてしまった。深く反省している」と語った。
住職によると、住職と兼務して奈良県の高等専門学校の准教授をしていたが、査察を受けたことで今年1月末に学校を退職した。FXには約7年前に死去した父親から相続した遺産を主に投資し、寺の財産を使ったことはないという。
寺は本堂や庫裏など建造物7棟が国の登録有形文化財になっていたが、今年2月1日の火災で本堂と庫裏計約400平方メートルを全焼した。出火当時、住職は別の場所にいて寺は無人で、愛知県警が不審火として捜査している。
住職は「17年はFXで損失を出してしまったが、残った資金は寺の再建費用に使いたい」と話している。 (毎日新聞2018年4月27日配信)※編集部注:一部、記事内の名称、氏名を省略しました
元国税調査官の著者・大村大次郎による解説
これは寺の住職によるFX利益の脱税です。何度かお話ししたと思いますが、寺の住職というのは、かなり脱税が多い職種です。お寺の主な収入(お布施等)というのは、密室で渡されるものですし、基本的に領収書は発行されません。だから、お寺の住職が、法事の後にそのままお布施を懐にしまい込んで、申告しないというケースはけっこうあるのです。が、今回のケースはそれとは違います。FXで得た利益を申告せずに隠していたということです。
父親の遺産を元手にFXの取引を行っていたということですが、3年間で約2億2000万円を稼いだというのですから、すごいですねえ。
元手も相当に大きかったことがうかがえます。
FXに関しては、脱税で摘発されるケースがけっこうあります。主婦が数億円の所得を申告していなかったとして、脱税で起訴されたようなケースもありました。
FXというのは、基本的に収入を隠すことはできないのです。というのも、証券会社等に取引の記録が全部残っています。
税務署は、証券会社で定期的に税務調査を行っていますので、そういう記録もすべて押さえることができます。
そういう記録の中から、儲かっている人をピックアップして、きちんと申告をしているかどうかを照会すれば脱税している場合は一発で出てくるのです。