東京オリパラを開催するのか否か。決断のタイムリミットが迫っています。鍵を握るのは米国の政治的思惑で、北京五輪を潰すために「東京五輪」にも選手団を派遣しない可能性が出てきました。中止でも開催でも損害を避けられない状況ですが、小池百合子氏にとってはどちらに転んでも好都合と言える状況です。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
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プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
決断のタイムリミット迫る
この夏の東京オリンピック・パラリンピック開催の決断が迫っています。
もちろん、IOC(国際オリンピック委員会)、JOC(日本オリンピック委員会)ともに開催を前提に動いています。新たに橋本代表を得た組織委員会も準備にまい進しています。
しかし、国内外に依然として再延期や中止を求める声が少なくないのも事実。
聖火リレーはこの25日に福島をスタートします。そして開催する場合、国内外の観客をどうするか、3月中に判断する意向と言います。
いずれにしても、当局が決断をするタイム・リミットが迫っています。
不確実性は引き続き大
2月19日のG7首脳電話会談では、夏の東京五輪開催をうたったものの、その後、不確実性は払しょくできていません。
英紙タイムズは3月3日の電子版で、この夏の東京オリンピック・パラリンピックについて「中止するときが来た」とのコラムを掲載しました。同紙のリチャード・ロイド・パリー東京支局長によるもので、新型コロナの感染拡大をもたらすイベントは、日本だけでなく世界にもリスクだ、と述べています。
また米国フロリダ州は、東京オリンピックのフロリダでの開催を促しています。
米国のバイデン大統領は、「オリンピックについて開催できることを希望しているが、まだわからない。(感染状況など)科学的に判断する必要がある」と述べています。
その感染状況ですが、多くの種目が開催される首都圏では感染者数が下げ止まりから反転の兆しを見せています。科学的にゴーサインが出せる状況でもありません。
Next: 開催可否は「米国の政治的思惑」次第? 選手団が派遣されない可能性
米国の政治的思惑
オリンピック開催の決断にあたっては、やはり米国が大きなカギを握っています。
米国が日本に選手団を派遣しないとなれば、英国や欧州各国も追随するリスクがあり、事実上中止、ないし再延期を迫られることになります。
その米国には大きな政治的な思惑があります。それは来年に迫った北京冬季オリンピックをどうするか、という問題です。
バイデン政権では基本的に、中国の民主主義を蹂躙する行動に対して、強く反発しています。香港の中国化であり、新疆ウイグルでの少数民族虐待などを強く批判しています。
これを盾に、米国は北京冬季五輪をボイコットする姿勢を強めています。バイデン大統領のみならず、外交面で影響力を強めているヒラリー・クリントン氏も、同様に北京冬季五輪ボイコットを主張しています。
北京五輪を潰すために「東京五輪も」ボイコット?
問題は、これがこの夏の東京五輪開催と深く結びついていることです。
バイデン大統領周辺には、「北京冬季五輪をボイコットするなら、その前の東京五輪も参加しないほうが良い」との声が上がっています。
つまり、最終目的は北京五輪を潰したいことにあり、そのために東京五輪不参加を政治的に利用しようというものです。
もっとも、米国もこれで一枚岩になっているわけではありません。例えば、ヒラリー・クリントン氏は、北京五輪潰しが最終目的で、東京五輪はできるのであれば開催しても構わない、との立場と言います。
日本としては、何とかクリントン・ラインで進めたいところですが、この15日にブリンケン米国務長官、オースチン国防長官が来日予定で、日米2プラス2の会談を予定しています。
ここで米国から東京五輪についても何らかのシグナルが送られる可能性があり、注目されます。
Next: 開催でも中止でも負担大。決断が遅れるほど傷口は広がる
実際に開催できるのか? 全豪オープンテニスが良いお手本になるが…
その点、新型コロナの感染状況が世界では改善方向にありますが、日本では特に首都圏で患者数が下げ止まりを見せています。
1つには、ワクチンの接種が遅れていることもあります。この夏までにワクチン接種が世界規模で進むめどはたっていません。日本でも医療関係者、高齢者の接種もかなり遅れています。夏までに一般国民が接種を受けることはほぼ不可能と言います。
その中で何とか開催することを決めるとしても、先の全豪オープンテニスが良いひな型になると言われます。
大坂なおみ選手が優勝して盛り上がった大会ですが、現地では大変な準備と費用が掛かったと言われます。選手も含めてPCR検査で陽性になった人と同乗した選手は2週間ホテルで缶詰めになり、準備や練習に支障をきたした例も見られます。
関係者から少しでも感染者が出れば、徹底した隔離体制が取られ、途中から無観客試合になる時期もありました。大会成功の裏では、テニスのゲームだけでもメルボルンは物理的にも金銭的にも大きな負担を強いられたといいます。
それがオリンビック・パラリンピックとなると、選手関係者の数も会場も比較にならないほど広範囲になり、メルボルンと同様の管理体制が取れるか疑問視されます。
すでに聖火リレーやボランティアの参加を辞退する人が多数出ています。
コロナの感染を世界に広めないための対策強化を図るには、メルボルンの何十倍、何百倍の人的負担、コスト負担も考えられます。
揺らいだ準備態勢を今から立て直し、強化できるのか。海外客を入れないとか、無観客開催となれは、経済的負担はさらにかさみます。
北京冬季五輪の参加・不参加も決める必要
もう1つ、大きな問題になるのが、日本として次の北京冬季五輪に参加するのかどうかの決断をしなければなりません。
米国や欧州各国がボイコットした場合に、日本だけが参加を決められるのか。逆に日本もボイコットすれば、今後の日中関係に大きな溝を作ることにもなります。
Next: 中止でも開催でも、小池都知事には追い風?
小池都知事に好都合
IOCは8日、海外客を入れるかどうか、聖火リレー開始までに決めたいとしていますが、まだ開催できる確証はありません。米国から「ノー」を突きつけられる懸念もあります。
しかし、どちらに転んでも、それを利用できる有利な状況に立っているのが小池東京都知事です。
無事開催にこぎつけ、盛り上がれば東京都知事のポイントは上がり、いずれ国政に進出し、「小池総理」の道も開けます。
仮に五輪中止となった場合、都知事は責任を取って辞任する可能性がありますが、今年間違いなく行われる衆議院選挙に出馬して国政復帰の道が開けます。そして、ポスト菅の有力候補にのし上がります。
どちらにしても小池都知事には使えるカードが増えます。
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- 長期金利上昇の要因、当局と市場の見方(3/10)
- 景気ウォッチャー調査が象徴する日本の症状(3/8)
- ジェンダー・ギャップ以前に考えること(3/5)
- 中国の期待を裏切った米国の対中強硬論(3/3)
- 日銀の持続可能緩和策を探る(3/1)
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『マンさんの経済あらかると』(2021年3月12日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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