花王はカネボウ化粧品の買収から15年が経った今年1月、別々だった化粧品ブランドを統合しました。なぜ今だったのか。花王はコロナ禍で戦略を見直す必要性に迫られています。今回は花王のビジネスを分析しながら、化粧品業界の生き残りのキーワード「3つ」を解説します。
プロフィール:馬渕 磨理子(まぶち まりこ)
京都大学公共政策大学院、修士過程を修了。フィスコ企業リサーチレポーターとして、個別銘柄の分析を行う。認定テクニカルアナリスト(CMTA®)。全国各地で登壇、日経CNBC出演、プレジデント、SPA!など多数メディア掲載の実績を持つ。また、ベンチャー企業でマーケティング・未上場企業のアナリスト業務を担当するパラレルキャリア。大学時代は国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞。
Twitter:https://twitter.com/marikomabuchi
なぜ、今になってブランド統合?
花王<4452>は15年前に「カネボウ化粧品」を買収していますが、統合が進んでいませんでした。買収後、今まで、別々としていた化粧品のブランド事業部をようやく、今年1月に統合しています。
「なぜ、今になって統合?」と思われるでしょう。
統合の背景には、コロナの影響を色濃く受けています。花王だけでなく、化粧品業界はコロナ以前はインバウンドの追い風を受けて業績が好調でした。
しかし、コロナ禍で戦略を見直す必要性に迫られています。
化粧品業界の生き残りのキーワードは、次の3つになります。
・高価格帯の化粧品の比率を高める
・美容部員に頼らないEC化を進める
・中国マーケットのシェア拡大
花王は化粧品事業が足を引っ張る
花王と言えば、衣料用洗剤の「アタック」や食器用洗剤の「キュキュット」、住居用洗剤の「マジックリン」、ハンドソープの「ビオレ」などなど、馴染みのある洗剤やボディーソープが有名です。
これらのセグメントは堅調ですが、化粧品セグメントが足を引っ張る格好が顕著になっています。
花王は、2020年12月期の、営業利益が前期比17%減の1,755億円となりました。洗剤やハンドソープなどの事業は増益でしたが、前期比減となった要因が化粧品事業です。
化粧品事業は、2019年の営業利益414億円から、2020年は94%減の26億円にまで落ち込んでいます。営業利益の割合も13.7%から1.1%へと他の事業に比べて存在感が薄れてしまっています。
もともと、インバウンド需要が旺盛な時期から、化粧品業界では「花王のひとり負け」と言われており、競合他社の資生堂やコーセーとはずいぶんと差を開けられていました。
2つのブランドが別々動いていたことで、美容部員が2倍必要であったり、縦割りで無駄な根回しといった、非効率な事業運営が競争力を弱めていたのです。
それでも、化粧品事業にテコ入れせずに、15年間の時間が経過したのは、日用品に強みを持っているからです。
しかし、今回のコロナで化粧品事業は営業利益率を1.1%にまで減らし、稼ぎ頭である、洗剤、ハンドソープの事業を引っ張る形となり、ブランドの統合へと動いたわけです。
Next: マスク時代は「高価格帯のスキンケア化粧品」に勝機がある
高価格帯の化粧品の拡大に商機
花王のカネボウ買収は、もともと、首位の資生堂を追い抜くために行われた背景があります。
2006年に粉飾決算で窮地に陥った、業界2位のカネボウ化粧品の買収に踏み切りましたが、企業文化の違いから融合に時間を要してしまいました。
カネボウは化粧品の歴史が長く、花王が強いスタンスを取れなかったことも背景にあります。特に、買収後には2013年の、カネボウの美白化粧品を使用した皮膚がまだらに白くなる「白斑事件」もあり、花王とカネボウのシナジー効果を生み出すことができていませんでした。
今回の統合により、今後、求められることは、高価格帯の化粧品の拡充です。
化粧品事業を「メイク化粧品」と「スキンケア化粧品」に商品を分けた場合は、一般的に利益率は「スキンケア化粧品」が高くなる。高価格帯のスキンケアの売上高を大きくすることで、利益率の高いビジネスができるわけです。
花王の「メイク」:「スキンケア」=5:5であり、資生堂やコーセーは4:6とスキンケア比率が高い傾向にあります。
さらに、コロナの影響でメイクをする機会が減りましたが、スキンケア化粧品は底堅い需要となっています。
資生堂の戦略は、ヘアケア商品「TSUBAKI」を欧州系大手投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズに1,600億円で売却しました。
これによって、ヘアケア商品や洗顔料は単価1,000円前後ですが、高価格帯のスキンケア商品は1万円を超えてきます。今後、高価格帯へのシフトを鮮明にしています。
花王も「高価格帯の化粧品」の比率をいかに高められるかが勝負になってきます。
美容部員に頼らないEC化を進める
花王は、2021年4月1日にグループの美容カウンセリング会社「ソフィーナビューティカウンセリング株式会社」と「カネボウビューティカウンセリング株式会社」を統合し、新たに「花王ビューティブランズカウンセリング株式会社」を設立します。
新会社では、美容部員によるプロフェッショナルなカウンセリング活動を通じて、花王化粧品事業が有するブランドの世界観・価値観の伝達と、愛用者の維持・拡大の活動を一層強化していくとしています。高価格帯のスキンケア商品を販売していくためには、カウンセリングを行って販売するため、美容部員の存在が欠かせないわけです。
しかし、美容部員を大きく抱えると高い人件費がかかり、利益率を低下させることにも繋がります。美容部員だけに頼らず、EC売上高を高めることがカギになってきます。花王の化粧品事業のEC化率は10%程度だと、20年7月の決算説明会で述べています。
一方、化粧品業界で一歩先をいく、資生堂のEC化戦略は、高価格帯化粧品のEC売上高比率を現在の20%から28年までに35%まで引き上げる目標を掲げています。
花王もブランド統合後、どの程度利益率を高めることができるのかがポイントになってきます。
Next: グローバル展開も十分に可能、中国市場のシェア拡大に活路
中国マーケットのシェア拡大
中国のスキンケア市場は366億ドルのマーケットであり、コロナ禍でも拡大を続けています。
20年の花王の化粧品事業の中国売上高は前年比20%増と好調でした。日本のマーケットよりもEC化が進んでいることが売上高を支えています。
また、資生堂も中国マーケットのシェアを拡大しようと計画しています。中国を視野に入れると、ロレアル、米エスティ―ローダなどの海外勢とのシェア拡大競争が意識されます。
花王とカネボウの統合に時間を費やすことで、シナジーを生み出すことができずに、資生堂に遅れを取ってしまった花王ですが。花王の手元資金は3,000億円以上あり、財務面に強みを持ちます。
高価格帯の化粧品事業のテコ入れや中国を含むグローバル展開も十分に可能なポテンシャルがあると言えるでしょう。
本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2021年3月30日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による