ダウ平均株価が史上最高値を更新するなど、株式市場には楽観ムードも漂う一方、為替、特にドル円は悩ましい値動きが続いています。果たして今夜の雇用統計で方向性が出るのか、現状や展望などを考えていきたいと思います。(FXトレーダー/ブロガー・ゆきママ)
ドルが伸びない背景は「織り込み済み」と「金利停滞」
ドルインデックス(主要通貨に対するドルの強さを指数化したもの)は、ここ1ヶ月以上も下落し続けています。このドル売りの背景については、大きく分けて2つあると考えています。
<ドル売りの背景その1:織り込み済み>
まず1つは、4月2日の前回(3月分)雇用統計もそうでしたが、相当強い数字が出たとしても織り込み済みになっているというのは大きいでしょう。英国などと同様に、米国はワクチン接種で先行し続けた国で、経済活動が再開からの景気回復が想定されていますから、結果は「良くて当たり前」ということです。
実際、前回の非農業部門雇用者数は予想が+64.7万人に対し、結果は+91.6万人と大幅に上回りましたが、ドル円は伸ばしきれずでした。
今回(4月分)は予想が+97.8万人となっていますから、仮に+100万人の大台を大きく超えたとしても、さほどサプライズにはならず、初動こそ上昇しても、その後はあまり期待できないように思います。
<ドル売りの背景その2:金利停滞>
また、もう1つの理由として、年明けから上昇が懸念されていた米長期金利(10年債利回り)が、なかなか上がっていかないというのも大きいでしょう。どちらかというと、米国よりもドイツなどを中心に欧州の方が金利上昇の兆候が見られるぐらいですからね。
今週は、イエレン米財務長官がバイデン政権のインフラ投資などを念頭に、金利の上昇について言及する場面がありましたが、株価の急落を受けてすぐに打ち消しています。
やはり、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長を中心にインフレは一時的であり、テーパリング(緩和縮小)、金利引き上げの議論は時期尚早と繰り返していますから、金利が抑えられてドルも伸びないという状況が続く可能性がありますので、注目しておきましょう。
もちろん、この金利が再び上昇基調を取り戻すようであれば、再びドルが買われるということになるでしょう。
Next: 先行指標は堅調だが、サプライズを期待できるほどではない
先行指標は堅調だがサプライズを期待できるほどではない
それでは、直近の雇用指標や事前予想値を確認していきましょう。
前回から比べても改善基調は明らかとなっています。雇用は増え、失業保険申請件数も大幅に減少しました。ISM(全米供給協会)が発表する製造業部門の雇用指数は悪化していますが、これは人材確保が困難になりつつあるためとされており、採用に苦慮しているとのことです。これは非製造業部門にも当てはまるとのこと。
このように見かけも中身も非常に良好ではあるものの、民間のADP社の報告においては、雇用者数が予想の+80.0万人増を下回っており、今夜サプライズを期待できるほどではないといったところでしょうか。
また、企業としては採用を加速させているものの、労働市場からドロップアウトしてしまった人々や、27週以上の長期失業者はスキルや労働意欲の低下から再就職しにくくなっており、思うほど労働市場が改善していかない可能性が示唆されています。
これらの懸念も含め、非農業部門雇用者数が予想の+97.8万人増といった数字を大きく上回っていくかどうかが、今回のポイントということになるでしょう。
サプライズがなければ、まずはレンジを意識して戻り売り!
結局、ドル円はレンジというか、よほどのサプライズがない限りは上値抜けは難しいように思います。というのも、パウエルFRB議長は見かけの労働市場ではなく、長期失業者や労働参加率といった質の部分の改善を待ちたいと繰り返していますから、この辺がはっきり良い数字にならない限りは、金利の上昇期待によるドル高というのが期待しにくいですからね。
また、インフレについても一時的としており、今回の雇用統計の平均時給に関しては、前月比・前年比ともに伸びがないかマイナスが想定されています。要するに労働者が増えたと言っても大半がサービス業では、賃金インフレが想定しにくいということで、金融の引き締めは待てるという判断になるでしょう。
賃金インフレは継続性が高いことからFRBは迅速に対応するとされていますが、現状はそのような兆候もないということです。
したがって、よほどのサプライズ(非農業部門雇用者数が100万人以上かつ3月分の数字が上方修正、さらに平均時給もプラス圏になる)の数字が出ない限り、短期トレードは全戻し想定の戻り売りを考えたいところです。
Next: 全戻し想定の戻り売りが妥当。今夜は1ドル=108.80~109.90円を想定
今夜の想定は1ドル=108.80~109.90円
平均時給などにサプライズがあれば別として、非農業部門雇用者数が予想並か多少上回った程度では、どこかで戻り売りを試しても良いでしょう。
初動で110.00円の大台を超えるような値動きであれば警戒ですが、109.50~109.60円に引っかかったり、109円台後半で伸び悩むようであれば、お試しでショートしてみたいところです。
ダウが堅調で、株式市場が大崩れにならない限りは円高に大きく傾くこともなさそうですから、109.00円の大台節目から21日移動平均線のある108.80円は強めのサポートとなりそうで、利益確定は109.00円手前、109.10~109.20円を意識しておけば良いでしょう。
逆に予想を大きく下回った場合は、いったんは様子見でしょう。リスクオフで素直に下げれば良いですが、株式市場は労働市場の停滞を意外と歓迎する可能性もありますからね。株価がよほど崩れない限り、突っ込んで売っていくのは避けたいところです。
ドル円は悩ましい相場が続きますが、今のところ極端なドル高や上昇トレンドを想定できませんから、短期はレンジを意識してトレードするしかないでしょう。
本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2021年5月7日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による