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神社本庁「全面敗訴」で始まる政変。カネと票を失った日本会議を自民党は切り捨てるか?=原彰宏

神社本庁は2021年3月18日、東京地裁での民事訴訟に「全面敗訴」しました。全国約8万の神社を束ねる“総本山”が崩れるとの声も聞かれますが、現政権との関係は今後どうなっていくのでしょうか?(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

【関連】NHK受信料削減の切り札「Eテレ売却」にTV各局が反対するワケ。田中角栄と電波利権の闇=原彰宏

※参考記事:統一教会系閣僚9人。安倍政権と変わらぬ菅政権の「新宗教・スピリチュアル・偽科学」関係 – ハーバー・ビジネス・オンライン(2020年11月9日配信)

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離脱続々「神社を束ねる総本山」の求心力に陰り

2021年3月18日、東京地裁での民事訴訟に神社本庁が「全面敗訴」しました。

この裁判は、神社本庁が絡んだ不動産不正取引…いわゆる「土地ころがし」の取引を内部告発した神社本庁職員が、懲戒解雇されたことを不服として神社本庁を訴えた裁判で、神社本庁の全面敗訴の判決が出たことを、報道では「神社本庁側にお灸を据えた」という表現がされています。
※参考:神社本庁、“土地ころがし裁判”で敗訴 会長が組織を私物化、不倫疑惑トラブルなども – デイリー新潮(2021年4月8日配信)

この「土地ころがし」疑惑は、神社本庁から有名神社が離脱するという問題にまで広がっています。

それゆえ今回の敗訴を受けて「全国約8万の神社を束ねる“総本山”」が崩れていく、つまり、全国の神社による神社本庁からの離脱ドミノが止まらなくなるのではないかという危機感、さらに、上納金を収めている全国の神社の不信感が募ることで、神社本庁の求心力が衰えていくのではないかが懸念されているということです。

全国の神社が、神社本庁という組織を離脱していくことは、神社本庁としては収入が減ることになります。それだけでなく、保守政党に対して、「集票」を武器にかける圧力にも大きな影響を及ぼします。

数は力……それはお金だけでなく、選挙における「票」ということからも言えることなのですね。

あの「こんぴらさん」も離脱させた土地ころがし問題

昨年末、以下のコラムを寄稿しました。

【関連】神社本庁「コロナ禍の初詣」強行のウラ、金と権力の罰当たりな事実=原彰宏

かなりの長文記事ですが、そこにくわしく、今回の「土地ころがし」に関して、時系列を追って書いています。

対象物件は、神奈川県にあった「百合ヶ丘職舎」で、2015年10月に売却された取引に、かなり怪しい動きが見られたということで、このことを不審に思った職員が、この不動産取引の内情を告発したことに始まります。

当時の総合研究部長・稲貴夫氏が独自調査をして、「取引がおかしい」と上層部に具申したことに対して解雇処分を受けたことから、神社本庁を訴えていたものです。

契約自体を批判した当時の財務部長も、平職員に降格されていました。

この不正取引に関しては、神社本庁に属している日本各地の神社も知るところとなり、直近では、あの「こんぴらさん」で有名な四国の金刀比羅宮が、神社本庁を離脱しました。

この不正と思われる取引は、禁じ手の「三為取引(第三者のための取引)」と言われるもので、土地売買にいくつもの業者が絡み、この「百合ヶ丘職舎」の土地がいくつもの業者の手を渡るごとに、売買価格が跳ね上がっていくという仕組みになっていたのです。

かなりややこしい仕組みなので、ぜひ前回の記事をお読みください。この取引の登場人物もくわしく紹介しています。目次をふってあるので、ダイレクトに必要な情報に飛べるようになっていますので、長文でも大丈夫かと思います。

権力と金は、集まるところに集まる

さて、この取引に登場する重要人物が2人います。

田中恆清 神社本町総長
打田文博 神道政治連盟会長

実はもうひとり、打田氏と非常に仲の良い福田富昭 東京オリ・パラ競技大会組織委員会評議員がいます。

不動産取引にこの3人がどう絡むかは、前回の記事「神社本庁の「コロナ禍の初詣」強行のウラ、金と権力の罰当たりな事実」に委ねるとして、ここで福田氏を取り上げたのは、東京五輪誘致をめぐる不正なお金が動いている団体の中にも登場してきたからなのです。

当時の誘致委員会から、電通元幹部の会社や一般財団法人嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センターなどに、使途が明確でない多額の資金が数度にわたって支払われていたことが、海外メディアの報道でわかりました。

この一般財団法人嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センターは、昨年末に何故か活動を終了されているのですが、その一般財団法人嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センターの評議員に、福田氏の名前があったのです。

ちなみに、一般財団法人嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センターの代表理事は、あの森喜朗前東京オリ・パラ組織委員会会長です。

このことは、下記の記事にくわしく書いています。

【関連】五輪中止で困るのは米国とIOC。「女性蔑視」に世界激怒も決断できぬ裏事情=原彰宏

妙なところで、神社本庁「土地ころがし」疑惑と、東京オリ・パラ「誘致贈収賄」疑惑の両方に、福田富雄氏の名前を発見したということです。

「だからなに?」と言われればそれまでですが、「土地ころがし」疑惑と「五輪誘致贈収賄」疑惑にはなんの繋がりもありませんが、偶然にも“疑惑”と言われる問題に同じ人物を発見すると、“権力と金は、集まるところに集まるのだな”と思ったということなのですがね。

福田富昭氏は、公益財団法人日本レスリング協会会長、国際レスリング連盟副会長で、「美しい日本の憲法を作る国民の会」代表発起人でもあります。

Next: 神社本庁と日本会議と自民党に深い仲。「全面敗訴」の影響は?



神社本庁「全面敗訴」の影響

そして、先程の重要人物2名のことですが、神社本庁総長の田中恆清氏は、日本会議副会長も務めています。

打田文博氏が会長を務める神道政治連盟(神政連)は、「神道精神を国政の基礎に」を合言葉に、神社界を母体として1969年に設立された政治団体で、本部は神社本庁内にあり、役職員には神社本庁の評議員らが名を連ねていることから見ても、神社本庁や神社庁と神政連は“一心同体”の組織と言えそうです。

いまの与党自民党の政策に、彼ら2人がいる2つの政治団体、日本会議と神道政治連盟が大きな影響を及ぼしているのではないかと思われます。

その応援団が「美しい日本の憲法を作る会」でもあるようにも思えます。

神社本庁は全国にある神社の総本山、その組織(ストレートに言って“票田”と“人海戦術要員”)となるのが神道政治連盟という感じでしょうか。

その彼らのお膝元である神社本庁が民事訴訟ではありますが、全面敗訴となったことの重みは、容易に想像できるかと思います。

日本会議と神道政治連盟と政治

菅内閣の閣僚を見渡せば、神道政治連盟の人は16人でトップ。次いで日本会議との関わりがある人が13人います。これを大臣以外の役職や党4役まで広げれば、神道政治連盟に関わっている人は50人、日本会議で38人になっています。

その他の新興宗教の名前を見ると、霊友会、不二阿祖山太神宮、スピリチュアル議連などがあります。当然、創価学会関係者は1人おられます。日本会議・神道政治連盟については、日本会議国会議員懇談会や神道政治連盟国会議員懇談会に所属する人物を含みます。

安倍内閣と比べて菅内閣では、神道政治連盟系が10人増えて、日本会議系は4人増えています。
※参考:統一教会系閣僚9人。安倍政権と変わらぬ菅政権の「新宗教・スピリチュアル・偽科学」関係 – ハーバー・ビジネス・オンライン(2020年11月9日配信)

政治の分野においては、外交・安全保障だけでなく憲法改正に関する姿勢や、さらには家族間の問題・性のあり方・夫婦別姓に対する取り組み姿勢なども、日本会議や神道政治連盟の主張が絡んでいることは否めないと思います。

「選択的夫婦別姓」は実現しない?政治を動かす日本会議

たとえば、いま話題の「選択的夫婦別姓」の議論があります。自民党は選挙を意識して、あたかも選択的夫婦別姓の是非を議論しているかの動きを見せてはいますが、自民党の票田である日本会議と神道政治連盟の立場はどうでしょうか。

日本会議の立場については、以下の記事でくわしく書きました。

【関連】若者こそ知るべき日本会議と菅内閣の関係。彼らは自分の敵か味方か?=原彰宏

その理念には「伝統的家族制度の復活」があり、夫婦別姓には反対の立場で、戦後の「国家から個人へ」の流れには不満があるようです。

自民党の改憲草案は、その24条で「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」というのがあり、これに日本会議として同調しています。

神道政治連盟の基本理念は「憲法改正」で、日本各地の神社で「憲法改正」のビラが置いてあったり、のぼりが立ててあったりします。

教育基本法改正(第一次安倍政権時に交付・施行)、安全保障体制の確立、戦没追悼施設建設反対、夫婦別姓・男女共同参画社会推進反対の立場です。

これを見ても、今の自民党政権下において「選択的夫婦別姓」が認められるはずがないと思ってしまうのは、自然の発想だと思います。

Next: 「政治屋」にとって利用価値がなくなれば、神社本庁は解体へ向かう



政治は「お金と票」には逆らえない

ただ野党の議員の中にも、日本会議のメンバーの方はおられます。

私は、日本会議や神道政治連盟の思想をどうこういうものではありません。ただ、政治家は、お金や選挙でお世話になっている人たちの意向には逆らえないものだということを、認識しておくことは必要かと思います。

それは宗教や思想に限らず、業界団体からの献金も同じで、一部の政治家がその業界に有利に働くことは、今までさんざん見てきました。

経済界が政権与党に献金するのは、自分たちの商売をうまく進めるためには必要なことだということを、容認しているのが今の社会です。意味合いは違うのかもしれませんが、労働組合も同じです。労働者側の思いを汲み上げてくれる政治家を育てて応援するのは当然でしょう。

表現や見え方が違うだけで、政治家は“しがらみ”の中で生きていると言えるでしょう。ある意味、地域に利益を落とすということも、地域代表としての行動と考えれば当然なのかもしれません。

それでも、国会議員の地元への利益誘導も、度が過ぎると問題にはなるようですがね。

ただ、それで良いのか。国会議員は天下国家のために働くもので、支持をしてくれた人のために税金を使ってよいのかということを、国民全体が考えるべきだと思います。

投票する側も、自分たちの利益を優先して投票していませんか。地域活性を、橋を造ってくれる人を、公共事業を持ってきてくれる人を応援していませんか。天下国家よりも身近な利益を優先していませんか。

まあ「理想」と「現実」は違いますね。政治家になることが目的である「政治屋」さんにとっては、“しがらみ”であろうとなんであろうと、「票」さえ確保できれば何でも良いのでしょうけどね。

「政治屋」にとって利用価値がなくなれば、神社本庁は解体へ向かう

選挙に受かれば何でもできる、給料や経費などで年間約4,000万円もらえるし、秘書もあてがってもらえるし、はっきりといって生活は安泰、権力は握れる、場合によっては利権にありつけるし、政治家を一度やるとやめられないなんて話もありますね。

政治家でなくなったら“ただの人”になるわけで、理念や信条では飯は食えないので、応援してくれる団体などの意向を汲むなどは平気だと思う「政治屋」も、中にはいるでしょう。

なぜ自民党は、公明党と連立を組んでいるのでしょう。

ひとつの見方として、選挙で票を集める能力が公明党支持母体である創価学会にはあるからだとも言えます。創価学会票を自民党が取り込みたいからで、公明党が、いや創価学会の組織票が衰退してしまったら、自民党にとっては、公明党にはなんの魅力もなくなります。

憲法改正に反対する公明党よりも、日本維新の会のほうが、親和性は高いでしょうね。

日本会議にしても、神道政治連盟にしても、集票力と機動力があるから、自民党にも影響力を持つことができ、自分たちの主張を実現してくれる政治家を抱えることができるのだと考えれば、両者の関係がスッキリと見えてきますね。

昨今、創価学会の集票力が衰えていることが指摘されています。このことは、公明党として重要な問題で、これ以上の組織票を減らすことはなんとしてでも避けたいでしょう。

それは、神社本庁の立場でも同じではないかと推測しています。

Next: カネの切れ目が縁の切れ目。政治と神社本庁の関係は「集票力」次第



政治と神社本庁の関係は「集票力」次第

世間で言われるほど集票力は、今の神社本庁にはないと分析する人もいます。それでも、政治家にとって「人が集まる」組織は魅力的ですからね。

この「土地ころがし」問題で、全国の神社が離脱してくことになれば、集票や機動力にも大きな影響を及ぼすのではないでしょうか。

「選択的夫婦別姓」問題は象徴的で、世論はおおむね賛成が多数を占めているにもかかわらず、一向に前に進まないのは、法律を決める多数の議員を持つ政権与党自民党が動かないからです。

もし、その動きに変化が表れたとしたら、日本会議及び神道政治連盟との関係が微妙になってきたと思って良いのでしょうかね。

要は“金目”ですか。金の切れ目が縁の切れ目、票を運べなくなったら関係は終わり……ということですかね。

もちろん、すべての政治家に理念や信条がないと言っているわけではありません。一部の人だとしても、政治における「思想」とか「理念」って、一体何なのでしょうね。

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image by:Hannizhong / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2021年5月9日)
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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