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ワクチン特許権放棄では“接種遅れ”は解決しない。製薬会社を「儲けすぎ」と批判する前に日米政府がやるべきこと=房広治

発展途上国でワクチン接種が遅れていることを受けて、製薬会社への特許権放棄・一時制限の議論が進んでいる。しかし、アストラゼネカのワクチン治験に参加した私は、製薬会社や大学がコロナ発生を予測して研究開発を続けてきたからこそ早期のワクチン供給が実現したわけで、「儲けすぎ」とか「特許を一時停止すべき」という考えはおかしいのではないかと思う。そこで、ワクチン特許権の一時停止よりも、もっとよい提案がないかを考えた。(『房広治の「Nothing to lose! 失う物は何も無い。」』房広治)

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コロナワクチン「メッセンジャーRNA」はブルーオーシャン

当メルマガでは前回、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンは材料数が218にも渡り、サプライチェーンマネジメントとの面からしてもコストがかかることにフォーカスした。

しかし、オックスフォード大学の教授たちも私も、mRNAはブルーオーシャンだと思っている。

英語の以下のビデオをご覧頂きたい。

1995年段階では、mRNAの発明者たちは、まったく世の中から相手にされず、冷や飯を食わされていたということを題材にしたドキュメンタリーだ。エジソンやアインシュタインのように、本人が研究をしている間に有名になる人は、科学の世界でも珍しいのだろう。

mRNAは、理論的には正しいことが2020年になって、世界の大多数が信じることになった。しかし昨年までは、99.9%の人は、聴いたこともなかった。また、mRNAの発明者である科学者たちは、邪魔者扱いされつづけたのだ。

どのへんを私が「すごい!」と思っているかというと、ワクチン製造で、これまで自然の力を利用していた部分のかなりの部分を、人間がコントロールするにはどうすればよいかという発想で設計されていることだ。

最初のワクチンは、ウイルスを殺したり、人体に影響のないぐらいに弱くして使っていた。しかし、このやり方では、ウイルス自身の表面の形を変えてしまうため、人体の免疫システムが本当のウイルスが来た時に、認識できない確率がかなりあった。元々ワクチンが有効かどうかという議論についても、いろいろな尺度があるのだが、1回のワクチン接種で、100%ウイルスに対して感染しないようになることはないというのをまずは、頭の中に入れておく必要がある。

この後に開発されてきたのが、ベクターベースとタンパク質ベースとmRNAという違った設計の方法である。

私も理論的に人に説明できるぐらいまで理解しているわけではないのだが、どのmRNAがウイルスに有効かを調べる開発プロセスに、かなり融通性が利くような感じがしている。すなわち、変異株に対して、どの組み合わせのmRNAが良く効くのかを比較的早く対応できるのではないかという期待をしている。

感染症だけでなく、ガンへの免疫力アップも期待できる?

そして、なんといっても、感染症以外にもガンに対しての免疫力をアップさせるワクチンが開発されることがあるのではないかという科学者への希望があることが魅力である。

そんなことを言っても、まだ99.9%以上の人々には信じてもらえないと思う。が、冒頭に紹介したビデオは、ガンに対しての予防の可能性をうまく表現している。

驚くなかれ、このようなワクチンが予防医学の最先端だということを私が教わったのは2014年。ビル・ゲイツが2015年4月のTED Talkでパンデミックとワクチンの話をする1年前である。教えてくださったのは、Oxford大学で再生医療を研究しているホランダー教授であった。

mRNAは、昨年がビジネスの元年。今後20年間は、ブルーオーシャンマーケットとして、先行グループが多大なる利益を得ることになるだろう。

Next: ワクチン特許権放棄の議論はどう決着する?



ワクチン特許権放棄の議論はどう決着する?

読者からもコメントを多数いただいているが、ワクチン特許の一時制限については意見が二分された。アメリカの大統領が、Vaccine Patent Waiver(ワクチン特許権の放棄とでも訳すのだろうか)を支持したのは驚きで、世界中のニュースになった。

WHOやワクチンの開発に遅れている国々の政治家たちは、自分たちのこれまでの失敗を認めたくないがために、ワクチンが世界中に行き渡らないのは、巨大製薬メーカーのせいだという論法のすり替えのように、私には聞こえる。

そこで、ワクチン特許権の一時停止よりも、もっとよい提案がないかを考えた。

アメリカがアメリカ国内と同じように真剣に発展途上国へのワクチン供給を考えているというアピールをしたいのであれば、もっとよい提案はある。

発展途上国のために米国が購入すれば、世界にワクチンは行き渡る

バイデン大統領は、2兆ドルのコロナ対策パッケージをアメリカ国内の対策のために打ち出した。世界のお金の残高が100兆ドルであるから、2兆ドルぐらいマネーサプライが増えたところで、たいした影響はない。

であれば、発展途上国のワクチンのために2兆ドルを拠出してみればどうだろうか?

COVAXという発展途上国向けの組織が、現在ワクチンを買えない状態でいる。これは、COVAXの買取価格を5ドルに固定して発展途上国への供給を考えたため、ファイザーやモデルナ社は、南アフリカに23ドルで売った方がよいと判断するのが当たり前なわけだ。

では、ファイザーに、アメリカ国内向けの20ドルでアメリカ政府がCOVAXの代わりに2兆ドル分を買う契約をすればどうなるか?

一気に1,000億回、世界の誰もが、11.5年分のワクチンを確保できることになる。これで、特許の一時停止の複雑な議論をしなくて済む。アメリカにとっては、アメリカのGDPの2%にも満たない出費で、アメリカのハイテク会社のやる気を無くさせる事態も避けられる。

実際には、COVAXが1回当たり5ドルは出せるわけだから、アメリカ政府の負担は1.5兆ドルまで減り、また10年しない間にもっと安くて変異株に対して有効なワクチンを開発する方に資金を投下できるわけで、その方が特許の一時放棄を特定の企業に求めるよりも効率的ははずだ。

もうひとつ、なぜこの方法が良い提案だと思うかについては、次の理由からだ。

Next: オックスフォード大学はコロナ発生を予測して開発を進めていた



オックスフォード大学はコロナが発生することを予測していた

私がオックスフォードワクチングループを所有している学部の特別戦略アドバイザーに就任したのは、2016年1月のこと。今から5年前である。

その9カ月前に、ビル・ゲイツの有名なTED Talkのビデオアップしていたのをどこかの段階で観ていたため、感染症で100万人以上の人間が亡くなる可能性の方が、戦争でなくなる確率よりも多いのではないかというゲイツの分析を観て、なるほどとすでに頭に入っていた。

日本人の感染症の専門家がびっくりするのはここからである。オックスフォード大学では、コウモリ由来のコロナが、SARS、MERSと2つ目が出て来たときから、3つ目が出てくることを予想していたのだ。もちろん、3つ目で終わると思っておらず、4つ目も、5つ目も来ると思っている。

SARSは中国で2002年11月に、MERSは、中東で2012年4月に最初の感染者が認識されている。もちろんこの感染者が本当に動物から感染した初めての人なのかは誰にもわからないため、最初に感染した月というのもだいたいでしかない。

いずれにしても、10年弱で2つ目のコウモリ由来のコロナが流行ったので、10年スパンでみると3つ目も出てくると信じていた。そして、SARSからほぼ18年経ったところでCOVID-19である。

製薬会社を「儲けすぎ」と批判するのはおかしい

当然、イギリス政府も他の政府も、どの政府もこんな風に予想していなかったので、今回の体たらくである。

ドイツのBiontechとモデルナもオックスフォード大学と同じく、COVID-19と名前がつく前から、登場を予想していたわけだ。すなわち、政府の補助がなくても、10年間、投資を続けた。

車の製造で言うと、A地点からB地点に行くのに、どんな複雑な道であっても、高速で走れる自動運転のソフトウェアを搭載した車体が用意されており、エンジンだけを選べばよい状態になっていたような状況を想像してほしい。

これが、今まで10年かけて創られてきたワクチンが、1年で供給が始まった秘密である。もっと内情を説明すると、COVID-19の分子レベルでの解析結果を受けてから2カ月以内に、オックスフォード大学のワクチンは動物実験が行われていた。これが第1フェーズである。

大学は、寄付で10年間研究を続けたため、アストラゼネカに対して、COVAX経由で5ドルで売ることを条件にし、初期投資の回収を含めて、今年までは、ある一定量をインドのセーラム社でライセンス生産させている。そのため世界最大のセーラム社の製造の過半数がアストラゼネカ製のワクチンで、これが発展途上国向けに行っているほとんどの部分になっている。

ファイザーやモデルナは、一般企業であるため、同じように10年間投資をしていたとすれば、彼らこそが、先の見通せない製薬会社や政治家よりも、このパンデミックを収束されることが称賛されるべきで、「儲けすぎ」とか特許を一時停止するべきという概念は、おかしいのではないかと思う。

Next: バイデンは、米国民を優先するよりもCOVAXと連携するべきだ



バイデンは、米国民を優先するよりもCOVAXと連携するべきだ

もうひとつの事実。COVAXというフレームワークは、ビル・ゲイツが2,000億円ほどを拠出し、しかも経営を指導したため、今回COVID-19に間に合ったと昨年は称賛された。WHOの官僚的な組織では、COVAXが成し遂げたことはできなかったというのが、一般的な見方である。

しかしながら、COVAXというフレームワークがありながら、アメリカは、COVAX価格よりも高い値段で買うからと、ファイザー、モデルナ、アストラゼネカ、J&Jに自国でのワクチンの必要量以上のものを割り込んで、注文を出している。

バイデン大統領もこのような背景を考えたならば、アメリカ国民を優先しての製造ではなく、COVAXのフレームワークも両立するような政策を打つべきではないだろうか。

2兆ドルは、昨年日本が使った補正予算308兆円の0.7%である。日本が1兆ドル出してもよいのではないだろうか。

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  • COVID-19ワクチン特許保留論 房広治の「Nothing to lose!」Vol.349(5/7)
  • ワクチン開発の第3フェーズ治験はいくらかかる 房広治の「Nothing to lose!」Vol.348(5/1)

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image by:anon_tae / Shutterstock.com

房広治の「Nothing to lose! 失う物は何も無い。」』(2021年2月15日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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