東京五輪は開催か中止か。近々何らかの判断がなされ、中止決断ならば、5月下旬には表明がなされると見られます。その場合、菅総理の退陣につながる可能性もあります。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
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プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
決断の時期が迫る
夏の東京オリンピック・パラリンピック開催をめぐって賛否が分かれ、攻防が高まっています。
テニスの大坂なおみ選手や錦織圭選手などからも中止の議論を促したり、死者を出してまでの開催を疑問視する声が上がっています。
池江選手に参加辞退や開催中止の働きかけを求めたり、逆に「さざ波程度の感染」で五輪中止はおかしいと、高橋内閣府参与が発言して物議をかもしています。
五輪選手優先のワクチン接種に選手側からも疑問の声が上がり、五輪選手用の病床確保、医療従事者の確保も、国と自治体でもめています。
いずれにしても7月の開催予定日が迫っているだけに、中止をするにしても「ドタキャン」とならないよう、少なくとも60日前まで、従って5月下旬には結論を出す必要がありそうです。それまでに小池東京都知事や菅総理から何らかの発言があると見られています。
開催にこだわる自民党の混乱
それにしてもこの夏の東京五輪が政治的な思惑で振り回されています。コロナの感染対策や五輪開催で小池都知事と政府との対立が目立ちます。
緊急事態宣言延期でも、12日から規制を緩和したい政府と、規制を続けたい都知事との対立が強まり、結局、国立美術館・博物館の閉鎖、映画館の休業を延長する一方で、百貨店には「生活必需品」として事実上の営業再開を認めました。
スポーツ・イベントでも、緊急事態宣言延長でも、12日からは大相撲の他、野球、サッカーの観客受け入れは認めることになりました。この2つは五輪種目に入っているためと言います。
先の高橋洋一内閣府参与の「さざ波」発言をしてまで、政府自民党が東京五輪開催にこだわる一つの理由がこの秋までに行われる衆議院選挙です。
東京オリ・パラで盛り上がったところで選挙を行えば、菅政権には大きな追い風になると読んでいます。選挙のために五輪を利用しようとの魂胆です。
もう1つの理由が、この冬の北京五輪にあると言います。つまり、この夏の東京五輪がコロナの感染拡大のために中止となり、その数か月後に北京で冬季五輪が開催されれば、日本政府のメンツは丸つぶれになると恐れています。
しかし、ここには米国の風を読めていない自民党員が多いことを示しています。少なくとも米国は東京五輪に不参加で北京冬季五輪に参加することはまずありません。
Next: 開催はヒラリー・安倍の力頼みも、「赤木ファイル」で風向きが変わった
開催はヒラリー・安倍の力頼み
米国のバイデン政権は、少なくとも東京五輪以上に北京の冬季五輪に強い反発を持っています。自ら北京五輪への参加ボイコットを示唆するだけでなく、同盟国にも「共同ボイコット」を働きかけています。できれば専制国家中国に、スポーツを通じた「平和の祭典」を開催させたくないとしています。
その点はCFR(外交問題評議会)系のバイデン大統領も、党内で力を持つ民主党系ネオコンのヒラリー・クリントン氏も共通して北京五輪ボイコットの認識にあります。
しかし、東京五輪に関しては微妙に異なる判断をしています。バイデン大統領は、北京五輪ボイコットなら東京にも参加しない、ないし中止を求めるべき、と考えていると言います。
これに対してヒラリー・クリントン氏は、東京五輪に関しては東京の判断に委ねる姿勢で、東京がやると言うなら反対しない、との立場と言います。
これは安倍前総理には伝わっている模様で、安倍氏周辺は五輪開催に向けて動いていたと言います。菅政権としては、何とかヒラリー・安倍ラインの支援で五輪開催にこぎ着けたいと思っていたようです。
赤木ファイルの威力
しかし、風向きが変わりました。森友学園をめぐる財務省の決裁文書改ざん裁判で、国は5月6日、決裁文書改ざんに関わったとされ自殺した近畿財務局職員、赤木俊夫氏が残したファイルの存在を認めました。
これが安倍前総理の動きを封じ込めました。自民党内には安倍再々登板を期待する声がありましたが、このファイルの存在表明後は状況が変わりました。
その分、ヒラリー・安倍ラインによる五輪支援キャンペーンはやりにくくなったはずで、自民党内での五輪開催への動きも力がそがれたと見られます。五輪開催支援のために「さざ波」発言をした高橋洋一内閣府参与への批判の声も強まっています。
Next: 国民世論も東京五輪「反対」が増加中。迫るタイムリミット
中止を示唆する動き
国民世論も東京五輪の開催に反対する声が強まっています。
政府に近い読売新聞の世論調査でさえ、59%の人が夏の五輪開催に反対しています。ほかのメディアでは約7割が再延期ないしは中止を求めています。
その中で注目される動きがありました。5月11日、小池都知事は永田町の自民党本部を訪れ、自民党の二階幹事長と会談しています。二階幹事長は前に「ダメと分かればスパッと中止を決断しなければならない、と発言しています。この日の会談では東京五輪開催の中止を話し合ったとの見方がなされています。
菅総理は13日、森田前千葉県知事と会談した際、「ワクチンを早くやって五輪を開催する」と述べたと言います。しかし、ワクチン接種は各地で混乱を呼び、河野担当大臣が自分のミスだと認めました。高齢者向け接種も何時完了するのかわからない状況です。そしてマラソンが行われる北海道の感染者が13日には700人を超えました。緊急事態宣言が全国に発出される可能性があります。
感染拡大が止まらず、米国から支援がなければ、開催は難しくなります。それを菅総理が決断するのか、政府の機能不全を見て小池都知事が決断するのか。
いずれにしても冒頭に示したように、近々何らかの判断がなされ、中止決断ならば、5月下旬には表明がなされると見られます。その場合、菅総理の退陣につながる可能性もあります。
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『マンさんの経済あらかると』(2021年5月14日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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