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半導体戦争に敗れた日本、なぜここまで弱体化?唯一の武器「製造装置」に活路はあるか。自民半導体議連の無策課題=原彰宏

「半導体を制するものは世界を制する」と言われているなか、一時は世界シェアの半分を占めていた日本は10%台にまで落ちました。なぜ日本の半導体は弱くなったのか。その原因と残された活路について解説します。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2021年6月14日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

「半導体を制するものは世界を制する」

「半導体を制するものは世界を制する」この表現は、自民党が立ち上げた半導体議連の甘利明会長の挨拶での言葉です。直近の会合では、甘利会長は「地球最強の戦略物質」とも表現しています。

また「半導体は産業の“米”」とも言われるぐらい、産業においては重要な存在です。ネットインフラや軍需産業の根幹をなすことから、安全保障面での重要性が指摘されています。

東芝と海外ファンドとの問題に関して、経済産業省が深く関与したことに関しても「東芝は半導体など重要な技術を所持する安全保障上、重要な企業。経産省が対応していくのは当然のことだ」と述べています。

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日本のシェアは激減

いま、半導体を巡って、米国と中国が、世界覇権を巡って火花を散らしています。その中で日本は見事に、存在感が出せなくなっています。

1988年は、世界の半導体シェアは日本が50.3%と圧倒的に強く、米国は36.8%、アジア諸国は3.3%でした。

ところが2019年では、日本のシェアは10%にまで落ち込みました。代わって米国が50.7%。アジア諸国は25.2%にまで伸ばしてきています。今では台湾が、半導体製造においては世界の中心となっています。

半導体を巡って、米中半導体摩擦が話題になっていますが、そもそも半導体とはなんでしょう。そのあたりから考えていきましょう。

半導体とは

大手半導体製造装置メーカーが発起人となって設立された、半導体及びフラットパネルディスプレイ(FPD)製造装置関連企業を主な会員とする全国的な団体に「SEAJ 一般社団法人日本半導体製造装置協会」があります。そこのホームページに半導体の説明がありますので、それを引用しましょう。

半導体とは、電気を良く通す金属などの「導体」と電気をほとんど通さないゴムなどの「絶縁体」との、中間の性質を持つシリコンなどの物質や材料のことです。ただし、このような半導体を材料に用いたトランジスタや集積回路(多数のトランジスタなどを作り込み配線接続した回路)も、慣用的に”半導体”と呼ばれています。

出典:半導体とは|一般社団法人 日本半導体製造装置協会

なるほど、電気を通したり、通さなかったりするもののようです。電気を通す「導体」には、金・銀・銅・鉄・ニッケルなどがあり、電気を通さない「絶縁体」には、ゴム・油・プラスチックなどがあります。

この中間に位置する「半導体」には、シリコンなどがあります。半導体は情報の記憶、数値計算や論理演算などの知的な情報処理機能を持っており、電子機器や装置の頭脳部分として中心的役割を果たしています。それゆえ、半導体は二十一世紀での「産業の“米”」と言われているのです。

日本は蚊帳の外?国際的な分業が進む半導体

半導体は、製造過程が「設計・前工程・後工程」の3つのプロセスに分業されています。具体的にはそれぞれ「電子回路設計・ウエハに焼付け・チップにする」というもので、かなり国際的にもしっかりと分業されています。

設計の分野におけるシェアNo1は米国です。世界の68%を占めていて、2位が台湾、3位が中国となっています。

製造工程においては、圧倒的に台湾が有利になっています。61%のシェアとなっています。2位は韓国、3位と4位は中国と米国で、それぞれ9%ずつ、2%のシェアでイスラエルが続きます。

つまり現在の半導体は、「米国で設計して、台湾で製造する」ものがほとんどだということになります。

この状況に中国が割って入ってきていて、つまり中国は、設計から製造まで、すべて中国一国でまかなおうとしているのです。それに米国が、大変な危機感を持っているということなのです。

「半導体を制するものは世界を制する」この表現が、ここで重い意味をなしてくるのです。

Next: なぜ日本の半導体は弱くなった?唯一戦える「製造装置」に活路



世界に名だたる半導体企業たち

具体的企業名を挙げておきますと、設計でトップの米国は「Qualcom」「NVIDIA」「AMD」、台湾は「Media Tek」、中国は「HiSilicon」となります。

製造では、台湾は「TSMC」、韓国は「Samsung」、中国は「SMIC」、イスラエルは「Tower」、米国は「GlobalFoundries 」となります。

今後、これらの企業名はニュースで何度も取り上げられることでしょう。とくに台湾の「TSMC」は頻繁に出てきます。

5Gインフラ設備やワクチンなどで、主導権を握ってきている中国が、今度は半導体の分野でも主導権を握ろうとしてきているのです。

日本の活路は「製造装置」

1988年には、世界シェアの半分を握っていた日本の半導体は、これからどうなっていくのでしょう。

半導体産業は約48兆円の市場と言われていますが、そのうち製造装置産業(約4.4兆円)と材料・部材産業(約5.2兆円)での日本のシェアは高い状態です。製造装置の「塗布装置」は約9割のシェアを有しています。材料・部材におけるシリコンウエハのシェアは約6割です。

この分野を伸ばしていくところに日本の強みがあると、経済産業省は訴えています。

経済産業省は2021年6月4日、半導体産業やデジタル産業を国家戦略として推進する「半導体・デジタル産業戦略」を取りまとめて公開しました。

すべての産業の根幹にデジタル産業・半導体産業があると位置付け、先端ロジック半導体の量産化に向けたファウンドリ(半導体デバイス・半導体チップを生産する工場)の国内誘致推進などの戦略となっています。

日本に強みのある製造装置、素材のチョークポイント技術を磨くために、海外の先端ファウンドリとの共同開発を推進し、さらに、先端ロジック半導体の量産化に向けたファウンドリの国内立地を図るとしています。

要は、半導体の製造工場を拡大するということでしょうかね。

Next: 世界的半導体不足の現状。なぜ日本の半導体分野は弱くなった?



世界的半導体不足の現状

いま、世界的に半導体が不足している状況です。新型コロナウイルス感染者拡大により、テレワークが勧められ、それによるパソコンやスマホの需要が高まり、生産が追いつかない状況になっています。

さらに、不要不急の外出自粛により、ゲーム機の需要の増えています。自動車の需要も伸びています。

ビットコインのマイニングマシーンの需要が伸びていることも、影響しているのではないかとも言われています。マイニングは、高性能なPCを使って24時間稼働させているので、半導体はフル稼働している状態です。暗号通貨という要素が、こんなところにも影響しているのは驚きですね。

半導体は、PCをやスマホだけでなく、自動車や家電でも使われていて、現在、トヨタや日産、ダイハツの工場が、半導体供給が間に合わず、一時停止している状態だそうです。

洗濯機やエアコンなどの家電製品製造も、今後できなくなる恐れがあると指摘されています。

日本の半導体工場が火災で停止

日本の半導体を作っているルネサスエレクトロニクスの工場が火災にあったことの影響も、大きいようです。ルネサスエレクトロニクスは、主に自動車向けの半導体を扱っている会社で、今回の火事によって生産が停止しました。今年3月のことです。

当メルマガでは、この火災のニュースを受け、経済安全保障の関係者が動いたことを取り上げました(2021年5月17日号)。

3月19日、夜の2時27分、主力製品を生産する生産棟で半導体にメッキを施す装置から火災が発生。半導体製造カ過程において、火の気のものはあるとは思えない状況で「過電流」が火災の原因とされています。

警察によれば、本来なら火災時にはブレーカーが落ちることになっていたのに作動しなかったとのことです。先端技術を扱う工場であれば、デジタル制御装置で生産ラインなどはコントロールされているのではないか。ネットが繋がっていれば、すべてサイバー攻撃の対象になります。半導体は、すべての産業や安全保障の面で根幹となる重要な部分であることから、このようなサイバーテロ疑惑のような話が出てくるのだと思われます。

現在は世界中で半導体の供給不足、そこに米中半導体摩擦が勃発、G7において、中国の世界進出に対する危機感が共有されました。

話はそれましたが、半導体という「産業の“米”」が供給不足であるという事実は、押さえておきましょう。

なぜ日本は半導体分野でこんなに弱くなったのか

日本はもともと半導体には強かった。半導体を語るうえで、郷愁とも思えるこの話がよく出てきます。

1990年代、日本の優秀な技術は、海外に出ていきました。半導体の技術は、台湾に流出していったのです。韓国のサムスンが急成長したのは、関西の優秀な技術者が、国内では飯が食えないので、土日バイトで韓国に渡って技術提供したからだとも言われています。噂レベルの話ですが、信憑性は高いと思いますね。

1990年代は、日本はバブル崩壊の経済どん底状態でした。日本からの大量技術放出。これは日本政府が、技術に対して無策だったのか、そもそも技術を蔑ろ(ないがしろ)にしてきたのか、そのような風潮が見て取れます。

技術革新にお金をかけてこなかった「ツケ」のような気もします。

とにかく産業においても何にしても、「日本には長期ビジョンが無い」とずっと言われてきました。

バブル崩壊時の技術放出は、もう取り返しのつかないことになっているのでしょう。産業を育てるという風土の無さかもしれませんね。

Next: 日本はどう戦う?背水の陣で挑む経産省の戦略は



日本はどうすればよいのか

半導体には、「デジタル半導体」と「ノンデジタル(アナログ)半導体」があります。

言葉が表現する通り、PC周りの半導体である「デジタル半導体」では、海外には勝てないレベルになってしまいましたが、画像を捉えるイメージセンサーや、電気を扱うパワーなどのデジタル以外の半導体では、まだまだ競争力があると経済産業省は主張しています。

経済産業省は、そもそも自動車などに使う車載用の半導体の供給が足りないので、自動車産業から強い要請があるこの分野の半導体の工場を作ろうとしているようです。結局は、自動車産業ですか…。ちなみに、日本が負けているハイエンドの半導体は、5Gなどの世界の話で、台湾のTSMCが中心となっています。

経済産業省の主張を聞けば、PCなどのハイテクを捨てて、産業機械や工作機械の半導体に強みがあるので、この「アナログ半導体」を伸ばそうと言っているようです。

グローバルで考えて、デジタルが強い米国や台湾と、アナログが強い日本とが手を組んで、中国包囲網を作る。その中で、日本の存在感を出そうというのだそうです。

日本の半導体メーカーには、東芝メモリから社名変更したキオクシア、ルネサステクノロジー、三菱電機などがあり、今後の成長が期待されています。

自民党「半導体議連」の存在も

自民党半導体議連は「AAA+S」と言われています。安倍・麻生・甘利、そして菅です。完全な「二階外し」として、政局が話題になりました。

これに対して二階派は、「自由で開かれたインド太平洋」を推進するための議員連盟を発足させ、安倍前総理大臣が最高顧問に就任しました。二階自民幹事長は、田中角栄幹事長(当時)を抜いて最長就任となりました。

自民党は二階幹事長を続投させるのか、できれば交代してもらいたいのかで、党内勢力図が変わるようですが、まあ、完全な場外戦ですけどね。

半導体議連には、そんな思惑もついて回っているようです。

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※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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