8月15日でドル円が変動相場制になったニクソン・ショックから50年が経ちます。米国都合で円の価値が動く現状は今でも変わらず、早晩、作為的なドル安仕掛けが走る可能性は充分に認識しておきたいところです。(『今市太郎の戦略的FX投資』今市太郎)
※本記事は有料メルマガ『今市太郎の戦略的FX投資』2021年8月6日号の抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め初月分無料のお試し購読をどうぞ。
1971年8月15日に起きた「ニクソン・ショック」
8月15日といえば第二次世界大戦で日本が正式に負けて降伏した敗戦記念日をまず思い出すわけですが、ミレニアル世代はそれすら思い出さないのが足もとの状況ではないでしょうか。
実はこの8月15日は、50年前に米国の当時のニクソン大統領がその後の主要国の金融政策を大きく変化させる、とてつもないルール変更を打ち出した日でもあるのです。
米国はこの日それまで粛々と続いた金本位制を敷いており、保有金の額に応じてドルを発行していました。つまり、ドルと金は理論上はいつでも交換できる状況が作られていたわけです。
ところが60年代から始まったベトナム戦争による軍事費の拡大とインフレが重なって、金不足が深刻となった米国は、「金とドルの交換を停止する」という奇策に出ることとなります。
それ以来、どこの国も金に見合う法定通貨の発行はしなくなり、現状のバイデン政権下でFRBのパウエルが必死に輪転機を回してドル紙幣を印刷しては市中のバラまき放題バラまく社会の基本をスタートさせることとなったわけです。
1ドル=360円の固定相場制から変動相場制へ
さらに50年前のこの日から固定相場制が廃止され、変動相場がスタートすることになります。
それまで1ドルといえば360円だった日本は以降、国力に応じて為替を変動させられる社会に突入することになります。
ただ見かけ上は非常に改善されたように見えたこの変動相場制は、その後、米国の意思次第でかなり厳しい局面に追い込まれることになります。
ドル円50年の歴史はまさに米国に翻弄された歴史でもあるのです。
Next: 変動相場制実施で米国の都合で円の価値が変化することに
変動相場制実施で米国の都合で円の価値が変化することに
変動相場制スタートからほぼ14年後、レーガン政権で双子の赤字に悩まされた米国は、主要5か国をニューヨークに招集し、ドル高是正のために各国に協調行動を取ることを無理強いしました。
これが開催されたホテル名をとって付けられた「プラザ合意」というもので、かさみに嵩んだ財政赤字を減らすために「ドル安」を恣意的に作り出して、無理やり債務を減少させるというやり口を現実のものにします。
当時、最強国である米国の姿勢に逆らうことができた国は無く、結局、自国通貨高を延々と演出する相場がスタートすることになったのです。
日本はこの合意の後、かつてないほどの円高に襲われ、それを起因としたバブル経済で一時的に大盛り上がりになりましたが、その後に崩壊し、これまで凄まじい経済損失に見舞われることになったのですから、米国の為替政策は我が国にも非常に大きな影響を与えているというのは言うまでもありません。
レーガン政権時の債務は日本円で100兆円ほどで、現状の足元で散々議論されている連邦債務の上限のシーリングが日本円で3,000兆円ですから、今の米国政権の抱える債務の金額がいかに大きいかがわかるでしょう。
しかもバイデン政権は、ここからさらにインフラ投資と国民へのカネのバラまきを実行しようとしているわけですから、気が遠くなるような状況に陥っていることもわかります。
早晩、持ち出されるであろうドル安政策
米国債というのは日本国債(JGB)とは異なり、海外の国をはじめとする投資家が購入するのが大きな特徴となっています。巨額の財政支出をほとんどすべて赤字国債で賄っているこの国は、このままではどうみても税収をベースに真面目に返済していくことなどできないのが実情。またしても飛び出しかねないのが、米ドル安を人工的に作り出して債務を減らしていこうとする政策ということになります。
現状では中国やロシアの米債購入額はだんだんと減ってきており、日本だけがせっせと買わされています。大量保有国の中国元や日本円に対して、ドルが著しく安くなれば、債務の縮減はいとも簡単に現実のものとなります。
ですから、ごく近い将来に「プラザ合意2.0」のような動きが出ることは容易に予想できるものがあります。
すでに政界からフェードアウトしたトランプは、学者を集めて政権発足当時からこうしたプラザ合意の再来をどう実現するかを研究させていたといいますから、かなり信ぴょう性のある話。
当然、バイデン政権でも同様のことを考えている可能性が高まります。
Next: 早晩、訪れることになるのがドル安円高
早晩、訪れることになるのがドル安円高
いきなりドルの価値が半分になって本当に経済的にもやっていけるのかと心配する向きの気持ちはよくわかりますが、これが米国の伝統的なやり口であり、過去にもこれを仕掛けて何度も実行している点を見逃すことができません。
110円のドル円が半分になることなどあるのかと懐疑的になる方も多いと思いますが、2011年の東日本大震災直後には75円初頭まで値を下げているわけですから、冷静に考えてみればそんなに驚くほどの話ではないことも見えてきます。
実質実効レートで考えますと足もとのドル円の価格はほぼ1980年代の1ドル240円から260円位だった時とおなじドル高水準と言われています。
さすがに今日の明日でいきなり米国仕掛けでドル安が到来するとは言いませんが、中期的にはこうした作為的なドル安仕掛けが走る可能性は充分に認識しておきたいところです。
世界的に主要国としての勢いを失った日本は、本来的な意味では円安へとシフトしてさらに没落国への道を歩むことになりそうなのは誰でも薄々気がついているのでしょうが、その前にまた、米国の債務縮減のために円高でいいように使われる時間がやってくるのではないでしょうか。
ノーと言えない日本。ニクソン・ショックから50年でまた嫌な思い出が蘇るところです。
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『今市太郎の戦略的FX投資』(2021年8月6日号)より抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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