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ソフトバンクG急騰は買いか?成長は孫正義の手腕次第、低迷・上昇要因が3つずつ=栫井駿介

先週あたりから急騰を始めたソフトバングクループ<9984>ですが、なぜこれまで低迷していて、いま、急に上がり始めたのでしょうか?その理由を解説するとともに、現在の急騰価格でも「買い」なのかどうかを考えます。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

ソフトバンクグループ株に大きな動き

ソフトバンクグループはここ最近冴えない値動きが続いていたのですが、直近で大きく上昇しています。なんと9月7日の1日で10%近く急騰し、9月8日昼の時点でここからさらに10%近く上昇しています。

ソフトバンクG 日足(SBI証券提供)

ソフトバンクグループというと常日頃から株式市場を賑わす銘柄ですけれども、ここに来てまた大きな動きとなっています。

ソフトバンクグループの株価がなぜこのような動きをしているのかということと、今後の可能性について見てまいりたいと思います。

最近の下落要因3つ

ソフトバンクグループは先週から非常に大きく上げているのですが、それまで株価推移はどうだったのかというところを見ていきたいと思います。

これがこの2年間の株価推移です。

ソフトバンクG 週足(SBI証券提供)

コロナショックを受けて一時大きく下がって、現在の株式分割の株価で4,000円を割るところまで下がりました。

ところがその後、好調な株式市場といういうこともあり、今度は大きく上昇する展開となり、コロナ後から年始にかけて株価は4,000円を割るところから、1万円を超えて2倍超の上昇を遂げました。

昨年でも大型の銘柄のうちでは非常に大きな上昇率を遂げた銘柄となりました。

しかし年始のピークを経て、株価は下落基調にあったわけです。

ピークからマイナス40%ぐらい下げているという状況です。

なぜ、ここまで下がったのか?下落要因を説明します。

<下落要因その1:利益確定売り>

1つは、利益確定売りということがあるのではないかと思います。

昨年で2倍以上に上昇してきた株価ですから、新しい年を経てそろそろ売っておこうかと考える投資家が多かったのではないかと思います。

それもあっては売りに押されて、じわじわ下がってきていたというところがあります。

<下落要因その2:中国不安>

それから中国不安、このソフトバンクの価値というのは実は半分近くが、中国のアリババによって占められています。

詳細を見てみましょう。

これがソフトバンクグループが保有する株式の内訳です。

ちなみにソフトバンクとソフトバンクグループ、非常にややこしいのですが、私がいま解説しているのは持ち株会社の「ソフトバンクグループ」のことです。携帯電話をやっているソフトバンクの親会社ということになります。

このソフトバンクグループの方ですが、今は会社として事業を行っているわけではなくて、様々な企業に投資することで、その価値を増やそうとそういうことを目的としている会社です。

したがってこの会社の価値というのはそこが持つ株式の価値によって評価されるべきだという考えています。

その上での時価ですが、それに関していえばトータルで30.16兆円で、そのうちアリババが12.4兆円、39%を占めています。

ニュースなどで報じられているように、今、中国では大きな変革が起こっています。あの習近平国家主席が、いわば独裁体制に近い体制を築こうと考えています。習近平思想は「共同富裕」という考え方です。

ここで何が起きているのかというと、これまで目立っていたアリババやテンセントなどの中国株式市場を牽引してきたハイテク企業があるのですが、これらが力を持ち続けるのは習近平にとって邪魔だということが考えられました。

そうやって今このアリババとかが政治的にいじめられています。

アリババの傘下にあるアリペイをやっているアントフィナンシャルという会社の上場も、政府の横やりが入って中止になってしまいましたし、アリババの創業者であるジャック・マー氏は、今は経営からは退いているのですが、中国に対する批判のようなことを言ったことで、一時拘束されてしまったという噂もあるぐらいです。

そういった思想を急に習近平国家主席が進めているので、中国の企業株価は今大きく下がっていまます。

その中でも1位、2位を争う時価総額を持つこのアリババが、ソフトバンクグループに関しても、4割もの価値を占めています。

これがマイナスになってしまうことになると、ソフトバンクグループも当然無傷では済みませんから、それもあってこのように株価が下落しているという状況があります。

これが中国不安によるソフトバンクグループの株価の下落です。

Next: 下落要因の3つ目は? 再び上昇を始めた理由も3つある



<下落要因その3:日本株離れ>

そして3つ目としてあるのが、そもそもの日本株離れというところがあります。

今年2021年に入ってから日本株はあまり調子が良くないところがあります。年始にかけては一時大きく上がったのですが、その後、ズルズル下がるような展開がありました。

一方でアメリカ株は大きく上昇が続くという展開でしたから、わざわざ日本株を買わなくても、アメリカ株買えばいいのではないかというような流れが機関投資家もそうですし、個人投資家に関してもそういった動きが見られました。

このように日本株離れが進んだというところです。

その中では日本株というと、この日経平均を左右しているのは、実は日経平均を構成する上位数社だけで占められています。

この日経平均寄与度ですけれども、1位がユニクロのファーストリテイリングです。これが今9%の寄与しています。全体の9%がファーストリテイリングの動きによって左右されるというものです。そして2位が東京エレクトロン、そして3位がソフトバンクグループ5.4%となっています。

この日経平均、トレードしようと思うとインデックスとかETFを買えばいいですが、それ以上に端的に言えばこれらの銘柄を買えば。、そのインデックスに付いていけます。

またそのインデックスを構成するETFも、日本株に急にお金が集まるというところになると、これらの銘柄を自動的にどんどん買っていくということになります。

したがってソフトバンクグループのこれまでの下落は、日経平均の下落で、様々な投資家の日本株離れということと無縁ではありません。

今回の上昇要因3つ

しかし、ここで大きな転換が起こりました。「菅総理の退任」というニュースです。

正直、菅政権の支持率というのは下落の一途でしたから、このままだともしかしたら自民党が今度の衆議院解散総選挙で負けてしまうのではないかというような動きが見られたわけです。

しかし菅さんが退任するということになると、逆にこれから総裁選がどんどん盛り上がるとになりますから、むしろ自民党にとって有利に働くだろうという投資家の読みが働きました。

ちなみに投資家というのは何より安定した政権を求めます。政権が安定しないと、それはすなわちカントリーリスクが高まるということなので、投資家、特に外国人投資家はあまり投資したがりません。

逆に日本では延々と続いていた自民党政権が、そのまま残る可能性が高いということになると日本にも投資しやすい、まして自民党というと、その他の野党と比べると企業寄りの政策を取るので、自民党政権が継続するということになると、株価も上がりやすい、そういった連想で今日本株に見直しが入ったということが言えるわけです。

これまで下がっていたところが回復の余地を与えたというところになります。

<上昇要因その1:日経平均の買い戻し>

これを受けて日経平均株価は8月にかけてはコロナの状況というのもありましたから、ズルズル下がっていましたけれども、この菅総理の退任表明を受けて奇しくもぐんと上がって、一時は3万円を突破するというようなところに来ているわけです。

日経平均株価 日足(SBI証券提供)

その中で日経平均を買いたいとなると、当然ソフトバンクグループも自動的に買われるという側面があります。

上昇要因の1つとして、この日経平均の買い戻しがありました。

<上昇要因その2:指標面で安すぎる?投資家からの熱視線>

さらにはこのソフトバンクグループに関しては、実は株価が指標面で見たときに安すぎるという話が実はあります。

安すぎるというところなんですけれども、1つ気をつけていただきたいのはソフトバンクグループにとって、一般的に用いられるPERの株価指標は無意味だということです。昨年2021年3月期の実績に対するPERは現在ソフトバンクグループはなんと3倍です。平均が15倍程度といわれるところですから、それに対して3倍ですから、これが普通の数値だったらありえないぐらい安いわけです。

ところがソフトバンクグループに関してはこれが意味をほぼほぼ持ちません。なぜならソフトバンクグループは投資会社だからです。

利益というと基本的には物を売ってそこから費用を引いて残ったものが利益ということになりますが、ソフトバンクの事業はそういうものではありません。

基本的に株を買ってそれを価値を高めて売ることによって、利益を出すという考え方です。したがってこの出てくる利益というのは、継続的に決まって出てくるものではありません。株式ですから1回買って売ったらそれで終わりということになります。

しかもこのソフトバンクグループの会計はというと、買って売ってから利益を初めて計上するのだったらまだわかりやすいのですが、持っていても株価というのは変動してくるので、そういった未実現の利益あるいは損失も損益計算書、つまり最終的な利益に反映してしまうというものです。

これはすなわち何が言いたいかというと、ソフトバンクそのものの実力というよりも、株価に左右されている面が非常に大きくなってきます。

一時的に何兆円という利益が出ることもあるのですが、その前には逆に何兆円という損失を出している可能性があります。

当然その逆も然りということになってくるわけです。

こういった状況があるからソフトバンクグループにおけるPERは無意味となります。

では、どうやってこの割高割安を判断すればいいとかというと、NAVというのものがあります。このNAVというのは何かというと「Net Asset Value」すなわち純資産価値というものです。

一般的に資産に対する株価が割高か割安かというのはPBR株価純資産倍率で見られるものなんですけれども、ソフトバンクにおける純資産というのは直接的に見るよりも、明らかに時価として出ている株式があるわけです。

その持っている株式に対してそこから負債を引けば、純粋に時価で計算した時の純資産という数字が出るわけです。

仮にこの瞬間にソフトバンクグループを解散するということになったら、ほぼ確実にその純資産分は株主が分配を受けられるというそういうものになります。

PBRより時価を反映した正確な純資産だということができます。

それを計算するとソフトバンクグループが2021年6月末において1万5,450円あります。

ところが現時点でも株価は7,500円くらいですから、これを見る限り時価で評価された純資産の僅か半分の価格で評価されているということになります。

これが、言うならば”適正に”評価されるのだったら、ソフトバンクグループの株価が2倍になっていても全然おかしくありません。

だからこそソフトバンクグループ安すぎるというところがあるので、下がれば下がるほど割安株を求める投資家にとっては今が買いだというように考えやすくなります。

実際にバリュー株を主体とする「かぶ1000さん」という有名な個人投資家さんがいらっしゃいますが、あの人もソフトバンクグループをこういった理由から買っていたりします。

こうやって色んな投資家を呼び込みやすい状況であったというのが、もう1つの要因になります。

Next: 上昇要因の3つ目は? ソフトバンクGは今からでも買いなのか



<上昇要因その3:「ドイツテレコムとの提携」報道が着火剤に>

そして3つ目は、ドイツテレコムとの提携のニュースがちょうどこのタイミングで入ってきたということがあります。

もともとこのソフトバンクグループは、アメリカでスプリントという携帯電話会社買いました。そのスプリントがTモバイルという携帯電話会社と一緒になることが決定しました。

その結果ソフトバンクはこのTモバイルの株式を持っていたのですが、そのTモバイルを持っているのは実はドイツテレコムという会社でした。

このTモバイル株式をドイツテレコムに渡すことで、逆にソフトバンクグループはドイツテレコムの株式を取得して、4.5%の株式を保有することになりました。ドイツの州とかも株主になっているので、これによって民間としては第2位の株式になりました。

これによって何が起きたのかというと、提携を発表しました。

すなわちソフトバンクグループはドイツテレコムに対して、取締役を派遣するなどして提携を強化して、それによってお互いが得をするような動きになれたらいいのではないかというプレスリリースを出しています。

ドイツテレコムに関してはドイツを中心に9,500万人の加入者がいますから、それは1つの材料となりつつあるわけです。

ただしこのニュースはそこまで大きなものではないのではないかと思います。

それ以上にアリババの動きとかそちらの方が圧倒的に大きいです。ただこのタイミングでこのニュースが出たということは、くすぶっているところに着火剤を点火するようなものにもなりました。

ハイリスク・ハイリターン?

さて、ソフトバンクグループの今後の見通しについてですけれども、何よりNAVの倍率が0.5倍で、時価で考えたらこの株価は2倍になって評価されるべきというような意味です。

ところが、ここには当然リスクというものがあって、その1つがアリババです。

アリババは相当大きい会社で、急になくなるようなことはないとは思うのですが、中国政府、特にこの習近平国家主席はなにをやってくるかわかりませんから、ある日突然アリババの価値がゼロになるなんてことも可能性としてはゼロではない、そこが当然リスクとして組まれます。

もしそうなった場合は、ソフトバンクグループの価値が40%吹き飛んでしまういうことになりますから、それでも尚このNAVが1倍超えないというところもあるのですが、当然リスクとしては残ります。

それに関わらずこのソフトバンクグループは、かなり借金をして投資しているので、借金をすることは株式の価値が半分になると、負債は消えるわけではないので、保有資産の価値の変動以上に損失を被ったりします。

利益が出る時は出るのですが、損失も同じように大きくなりやすいというところがあります。

要は先ほど利益の出かたのところでも説明しました通り、ソフトバンクグループの状況は実は株式市場次第で、日経平均が大きく占めているというところもありまして、株式状況次第、つまりハイリスク・ハイリターンのところがあります。

これはある意味を日経平均のレバレッジETFを買っている、そういう印象すら受ける銘柄です。

私としては割安感は比較的あると正直思っています。買いたいと思うのも正直山々です。

ただし、はっきり言って、ソフトバンクの孫正義社長がどう動くかによって大きく変わってしまう銘柄です。

これだけ大きいのに、トヨタみたいに明確に車事業とかそういったものがあるわけではなくて、とにかくいろんな会社、しかも我々からなかなか見ることのできないスタートアップに投資をしたり、そういった動きを行っているので、なかなか読むのが難しいというところがあって、結果としてそこが短期の投資家を呼び寄せやすいという部分もありまして、株価は大きく動きやすく、しかもレバレッジもかかっているハイリスク・ハイリターンな銘柄です。

Next: 現状は割安だが、今後の成長は孫正義社長の手腕次第



今後の成長は孫正義社長の手腕次第

まずソフトバンクグループが目指しているところは、インターネット革命ですから、その実現に向けて着々と進んでいるなら、少なくとも純資産価値でかなり割安で、半分しか評価されてないので、アリだと思っていますが、なかなか理解が追いつかない部分もあります。

株価に関しては短期的には今は勢いがついていて、しかもこういった割安という状況ですから、まだまだ上がってもおかしくないと正直思っています。

ただ当然ハイリスク・ハイリターンなので、下がる時は相当やられてもおかしくない、そういったことはもちろんあると思っています。

したがって私としては様子見なのですけれども、孫正義さんは素晴らしい経営者だと私も思っておりますので、今後の動きによってはまだまだ面白いですし、その状況で割安という環境があるので、私もこれから注目を続けていきたいと考えています。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)


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image by:glen photo / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2021年9月11日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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