米国バイデン政権を筆頭に、世界はカーボンニュートラルに向かって全力で進んでいます。しかし、目標だけが明確で、実現に向けた精密なプランはありません。この脱炭素の動きが、世界中で資源インフレを引き起こすという皮肉な結果になっています。(『今市太郎の戦略的FX投資』今市太郎)
※本記事は有料メルマガ『今市太郎の戦略的FX投資』2021年10月27日号の抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め初月分無料のお試し購読をどうぞ。
「数値目標だけ」の脱炭素
カーボンニュートラル(脱炭素)社会を実現する。この目標は、確かに環境面から考えれば、地球に住む我々人類は誰ひとりとして否定することができない壮大なテーマであることは間違いありません。
米国ではバイデン政権が誕生して以降「グリーンニューディール計画」をぶち上げました。
この脱炭素社会は、主要国が追随せざるを得ない状況になったことから、予想をはるかに超えるスピードで実現されそうな状況になっています。
就任から1年で辞任を余儀なくされた菅前首相も、2030年の温室効果ガス目標「2013年度比46%削減」などという数値目標を、実現可能なのかどうかの検証もないままに、軽々と口にして去っていきました。
そして、目標だけはそのまま残る状況になっています。
実はこうした根本的な問題は、EUや中国などでも起こり始めています。実際のカーボンニュートラル実現に向けての精密なトランスフォーメーションプロセスが策定できないまま、劇的なエネルギー不足が顕在化しています。
いわゆる「グリーンフレーション」が現実のものになろうとしているわけです。
中国の電力不足は深刻。カーボンニュートラルは「看板取り下げ」状態
2022年の北京冬季五輪に向けて、西側主要国にも遜色のないカーボンニュートラル化を推し進めているかに見えた中国。
しかし、秋口から電力不足が深刻化しており、石炭による火力発電もCO2排出などお構いなく最大限利用しないと、国民が冬を乗り越えられない状況に陥りつつあります。
この状況に、本当は電力用資源はたくさん確保されていて、習近平が国民と企業を統制するために、わざとやっているのだ……といった陰口も聞かれました。
しかし、どうやら電力不足は本当に深刻な様子。
中国北部の石炭採掘も大雨から崩壊し、北朝鮮から密貿易で石炭を確保し始めているといったとんでもない話まで出始めています。
自動車のEV化もいち早く進行している中国ですが、結局、電力の発電がまともにできないのでは、カーボンニュートラルなど実現できるわけもありません。
いきなり初っ端からつまづく状況に陥っています。
Next: ガソリン価格200円超もありえる?始まったグリーンフレーション
欧州でもグリーンフレーションの危機が始まっている
欧州では、気候変動対策に端を発する物価上昇、いわゆるグリーンフレーションの危機はかなりの高まりを見せています。
とくにガソリン価格の上昇や天然ガス価格の暴騰は、確実にコストプッシュインフレによる「スタグフレーション」の到来という、深刻な状況を露呈し始めています。
原発を持続可能エネルギーではないと規定しているドイツでは、様々な電力創出に取り組んでいますが、ひとたびロシアから天然ガスの供給が絶たれることになれば、この冬が乗り越えられないという、とてつもない危機的状況に直面しています。
EU全体を見ても、カーボンニュートラルなど口にしていられないのが実情です。
さらにEUから離脱した英国はもっと深刻で、きめ細かい脱炭素化へのマイルストーンもないままに、むりやり石炭・石油への依存を減らそうとする英国政府の方針がそのまま仇となっています。
天然ガス価格は高騰、発電コストも上昇し、そもそもロンドンではクルマに給油するガソリンすら供給がうまくいかないといった、凄まじい事態に追い込まれています。
日本のガソリン価格200円超もありえる
すでに国内でもガソリンの店頭価格はレギュラーでも160円台を超えており、これに円安が絡むことになれば、200円に接近することさえありえな話ではありません。
灯油価格も急激に上昇しはじめており、燃料主導のスタグフレーションが起きることは充分に考えらる状況です。
国内経済を見ていますと、まだデフレから抜け切れていないように見えます。
しかし、この燃料関連での価格上昇は、間違いなく日本にも大きな影響を与えることが危惧されるところです。
世界同時グリーンフレーションになった場合、為替はどうなる?
グリーンフレーションといえる状況が、どこまで現実のものになるのかどうかは、今のところよくわかりません。
資源価格の高騰によるインフレ、もしくはスタグフレーションが、世界同時に起きることになれば、為替がどうなるのかが非常に気になるところです。
足もとでは、ポンドやNZドルなど中銀が利上げを行う構えを見せているところの通貨は、確実に上昇を遂げています。
米国のように利上げを様々な理由から渋っている場合や、日本のようにそもそも金融緩和を何があってもやめられないような国の通貨は、トルコリラに象徴されるように通貨安へとシフトすることが予想されるところです。
米国はこの冬、石油の需給はそれほど逼迫しないと予想されているようですが、問題は日本です。
この冬、思わぬ円安が示現する可能性も充分に考えておく必要がありそうです。
Next: 背に腹は代えられない。資源価格インフレで脱炭素社会は崩壊する
資源価格インフレで化石燃料を使わざる得なくなる
10月17日、環境活動家グレタさんは、ストックホルムで開催された気候変動対策を各国に促すコンサートで、リックアルトリーの往年の名曲に合わせて踊ってみせて会場を沸かせたようです。
しかし、各国にカーボンニュートラルを急激に働きかけても、結局、精密に用意された転換のためのプランがしっかりワークしない限り、カーボンニュートラルは実現しません。
しかも極寒の気候が、多くの世界の国民の命を奪いかねないという、かなりパラドキシカルな状況であることをあらためて露見させています。
脱炭素という高邁な思想を持ち出しながら、結果的には資源価格高騰でインフレが起き、しかも化石燃料の利用が結局やめられないというのも、随分と皮肉な話です。
<初月無料購読ですぐ読める! 10月配信済みバックナンバー>
※2021年10月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、以下の号がすぐに届きます。
- 原油、LNG価格高騰で年末に向けて貿易赤字拡大~悪い円安確定の相場(10/29)
- 10月28日ロンドンタイムショートコメント(10/28)
- 今年はハロウィンエフェクトのアノマリーに乗るべきか(10/28)
- 10月27日ロンドンタイムショートコメント(10/27)
- この冬とうとうグリーンフレーション到来か(10/27)
- 10月26日ロンドンタイムショートコメント(10/26)
- エルドアンに忖度して利下げのトルコ中銀も酷いが良くみりゃFRBも似たようなものという件について(10/26)
- 10月25日ロンドンタイムショートコメント(10/25)
- 10月最終週相場分析(10/25)
- 10月22日ロンドンタイムショートコメント(10/22)
- 号外・恒大集団辛くも9月23日分ドル建て利払い支払いでデフォルト回避(10/22)
- 週末に迫る恒大集団のデフォルト~回避の手立てはほとんどない状況に(10/22)
- 10月21日ロンドンタイムショートコメント(10/21)
- バイデン政権は果たしてドル高をどこまで容認するか(10/21)
- 10月20日ロンドンタイムショートコメント(10/20)
- スマホオンリーのFXトレーダーは必ずほかのデバイスで取引できるよう備えるべき(10/20)
- 10月19日ロンドンタイムショートコメント(10/19)
- パウエルお前もか?2020年FOMC前に自ら株売却の暴露記事で議長再任は絶望的(10/19)
- 10月17日ロンドンタイムショートコメント(10/18)
- 10月第四週相場分析(10/18)
- 10月15日ロンドンタイムショートコメント(10/15)
- 岸田首相今度は円安対策実施か?(10/15)
- 10月14日ロンドンタイムショートコメント(10/14)
- 本邦市場では全く関心のない韓国デフォルトリスク~韓国民個人負債破綻にも注意が必要(10/14)
- 10月13日ロンドンタイムショートコメント(10/13)
- ドル円は11月後半まで上昇継続か(10/13)
- 10月12日ロンドンタイムショートコメント(10/12)
- 出してはすぐに引っ込める前言撤回の岸田首相のチキン野郎ぶりに辟易(10/12)
- 10月11日ロンドンタイムショートコメント(10/11)
- 10月第三週相場分析(10/11)
- 10月8日ロンドンタイムショートコメント(10/8)
- いよいよ世界が直面するスタグフレーションに備えよう(10/8)
- 10月7日ロンドンタイムショートコメント(10/7)
- ドル円は戻り売り、売りあがり厳禁の時間帯に(10/7)
- 民主党左派エリザベスウォーレンのパウエル糾弾が凄まじい状況に突入(10/6)
- そろそろファンドの45日ルール到来(10/6)
- 10月5日ロンドンタイムショートコメント(10/5)
- 米債金利上昇の裏で示現するドル買い需要~これでは当分ドル安は訪れない(10/5)
- 10月4日ロンドンタイムショートコメント(10/4)
- 10月第二週相場分析(10/4)
- 10月1日ロンドンタイムショートコメント(10/1)
- 恒大集団より深刻?中国の電力不足が世界経済に及ぼす甚大な影響(10/1)
※本記事は有料メルマガ『今市太郎の戦略的FX投資』2021年10月27日号の抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め初月分無料のお試し購読をどうぞ。
<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>
※初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込円)。
- 9月30日ロンドンタイムショートコメント(9/30)
- 10月為替相場は仕込みのタイミングをはかる時期(9/30)
- 9月29日ロンドンタイムショートコメント(9/29)
- 米債金利の上昇はやはり投機筋の売り浴びせ仕掛け~勝つのはファンドかFRBか(9/29)
- 9月28日ロンドンタイムショートコメント(9/28)
- FRBの輩の市場予測など全くあてにならないという厳しいお話(9/28)
- 9月27日ロンドンタイムショートコメント(9/27)
- 9月最終週相場分析(9/27)
- 9月24日ロンドンタイムショートコメント(9/24)
- AIとロボティクスイノベーションがもたらす本格デフレ社会の驚異(9/24)
- 上っツラの報道だけで無節操に下げたり上げたりする相場にうんざり(9/23)
- 9月22日ロンドンタイムショートコメント(9/22)
- 相場の大幅下落はリスク事象の事実の成否より参加者のセンチメントで決まるもの(9/22)
- 9月21日ロンドンタイムショートコメント(9/21)
- 中国恒大グループの影響で値を下げる豪ドル(9/21)
- 9月第四週相場分析(9/20)
- 9月17日ロンドンタイムショートコメント(9/17)
- いよいよ佳境の自民党総裁選~結果にドル円は影響を受けるのか(9/17)
- 9月16日ロンドンタイムショートコメント(9/16)
- シーズナルサイクルとリアルな相場に出るギャップをどう理解すべきか(9/16)
- 9月15日ロンドンタイムショートコメント(9/15)
- 静かに進む日銀の黒田バズーカ巻き戻し~株も為替も逆回転がやってくる?(9/15)
- 9月14日ロンドンタイムショートコメント(9/14)
- カプラン、ローゼングレンの私的株投資爆益露見で強まる利益相反の問題(9/14)
- 9月13日ロンドンタイムショートコメント(9/13)
- 9月第三週相場分析(9/13)
- 9月10日ロンドンタイムショートコメント(9/10)
- 伝統的政策手法を打ち出すECBに対してそれができないFRB ~一体違いはどこにあるのか(9/10)
- 9月9日ロンドンタイムショートコメント(9/9)
- エルサルバドルでついに始まったBTC法定通貨 ~しかしこれ本当にうまくいくのか?(9/9)
- 9月8日ロンドンタイムショートコメント(9/8)
- 恒大集団破綻は中国のリーマンショック級大問題 ~だがなぜか金融市場ではあまり話題にならない不思議(9/8)
- 9月8日ロンドンタイムショートコメント(9/7)
- 大坂なおみ様、折角テニスでお金持ちなんだから仮想通貨になど興味をもつのはおやめなさいというお話(9/7)
- 9月6日ロンドンタイムショートコメント(9/6)
- 9月第2週相場分析(9/6)
- 9月3日ロンドンタイムショートコメント(9/3)
- SECゲンスラー委員長が息巻くPFOF全面禁止でロビンフッダーはどうなるか(9/3)
- 9月2日ロンドンタイムショートコメント(9/2)
- 市場が殆どリスクを織り込まない中国・習近平の共同富裕宣言(9/2)
- 9月1日ロンドンタイムショートコメント(9/1)
- 菅首相9月中旬解散断行で株価は慣例どおり上昇するものなのか?(9/1)
『今市太郎の戦略的FX投資』(2021年10月27日号)より抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中
今市太郎の戦略的FX投資
[月額880円(税込) 毎週月・火・水・木・金曜日]
個人投資家がもっと得難いファンダメンタルズを徹底的に集めテクニカルで売買チャンスを探るFX投資家のためのメールマガジンです。土日を覗く平日毎日の配信となりますので、確実に日々の売買に役立てることが可能です。