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岸田政権お前もか。竹中平蔵氏「デジタル田園都市構想」参画の波紋。マイナンバー頼みで目新しい政策なし=原彰宏

岸田首相の肝入りで設置した「デジタル田園都市国家構想実現会議」に参加する有識者のなかに竹中平蔵氏の名前が挙がったことが物議を醸しています。果たして日本のデジタル化は進むのでしょうか。世間からは「また中間業者がピンはねで潤うのか」と言った声が聞こえてきます。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2021年11月8日・10日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

竹中平蔵氏「デジタル田園都市構想」参画決定にざわつく世間

岸田政権の成長戦略の一環である「デジタル田園都市構想」に関して、11日に、「デジタル田園都市国家構想実現会議」が初開催されることになりました。

議長は岸田首相が務め、関係閣僚・有識者も参加します。

その有識者として、竹中平蔵慶大名誉教授や増田寛也東大公共政策大学院客員教授らがメンバーに入ったと報じられました。そのほか、80代でスマートフォンアプリを開発した若宮正子氏ら14人が名を連ねたとのことです。若宮正子氏は、2017年に81歳でiPhoneアプリ「hinadan」を開発した世界最高齢のプログラマーです。

竹中平蔵氏がメンバーに入ることが報じられたことで、SNSでは大きな話題となっています。

竹中氏が動けば世間がざわつく……なぜかそのような構図になっている様子。ワイドショー的に捉えるのもどうかと思いますし、竹中氏に貼り付けられたレッテルだけで人物を判断するのもどうかとは思いますが、それだけ、政界において、いや政財界においての「キーパーソン」であることは間違いないようです。

小泉純一郎元総理が、金融再生・不良債権処理担当として抜擢してから、郵政民営化や雇用流動化政策など、「ミスター規制緩和」という印象が持たれ、その先が「利益誘導」ということになるイメージ誘導も、客観的に見て、ある意味すごいことだなという感じです。

事実として、小泉政権後は一時政界を離れながらも、有識者としてその後の政権が変わっても中央にお呼びがかかるという存在であることを、どのように理解すればよいのでしょうかね。

アメリカがどうとか、経済界代表とか、いろいろ言われますが、本当のところはわかりません。しかし、パソナ所属など「李下に冠を正さず」という思いは確かにあります。

かつて規制改革委員会の座長にオリックスの宮内義彦会長が就いたときも、散々なことを言われていましたね。

アベノミクス「第三の矢(成長戦略)」は岸田政権が放つ?

「デフレからの脱却」を旗印に出された“三本の矢”の経済政策(通称「アベノミクス」)では、以下が掲げられていました。

第一の矢:大胆な金融政策
第二の矢:機動性のある財政出動
第三の矢:民間需要を換気する成長戦略

“第一の矢”は放たれたものの、“第二の矢”はかなり中途半端で、“第三の矢”に至っては、放たれることもありませんでした。

国家戦略特構想という矢は、放たれましたかね。安倍総理は「“第三の矢”はIR事業」としましたが、カジノが成長戦略かと揶揄され、しかも矢を放つ前に、矢が折れた感じになってしまいましたね。東京五輪と大阪万博が「成長戦略」だとすると、もう“いわんや…をや”ですね。

当時の竹中氏は、「成長戦略」という安倍総理(当時)の言葉を聞いて、自分の経験では、「成長戦略」は役人が好んで使う表現で、よく提言で使われたが一度も実行した試しがなく、いいイメージがない……とおっしゃっておられたのを思い出します。その成長戦略の会議メンバーに、竹中氏が就くことになりました。

岸田政権が、「アベノミクスの継承」として“第三の矢”を担当するのでしょうか。

金融緩和はもう十分ですし、財政出動はコロナ対策に向けられ(不十分だとは思いますが)、景気対策としての財政出動は、おそらくは「GoToキャンペーン」の再開だとは思いますが、成長戦略として「インフラのデジタル化」を置いているというメッセージなのかもしれませんね。

Next: デジタルを軸に3つの成長戦略会議を新設。日本経済は上向くのか?



デジタルを軸に3つの成長戦略会議を新設

岸田政権の成長戦略に関して、3つの会議を新設します。

「デジタル田園都市国家構想実現会議」
「デジタル臨時行政調査会(臨調)」
「全世代型社会保障構築会議」

岸田首相は、8日の「新しい資本主義実現会議」の会合で、これら3つの会議での検討結果を統合した上で「来春にグランドデザインと、その具体化の方策を取りまとめ、世界に向けて発信する」と表明しています。

「デジタル田園都市国家構想」はその1つで、地方からデジタル化を進め、都市部との格差の是正を目指し、地方活性化へのビジョンを示す狙いとしています。「地方活性化+成長戦略」というもので、3人もの大臣が船頭になっているものですね。

ちなみに、牧島かれんデジタル担当大臣が取り仕切る「デジタル臨時行政調査会(臨調)」は16日に始動します。デジタル、規制、行政の改革を一体的に検討するもので、民間有識者8人を起用、ディー・エヌ・エー(DeNA)の南場智子会長やフューチャーの金丸恭文会長兼社長らが加わると報じています。

3つ目の、社会保障全般について議論する「全世代型社会保障構築会議」は、座長には日本私立学校振興・共済事業団の清家篤理事長が就き、傘下に増田氏が座長を務める「公的価格評価検討委員会」を置きました。9日に初会合を開き、看護師や介護士、保育士らの賃上げに向けた施策を練ったとのことです。

介護や看護の現場からは、もちろん賃上げは嬉しいですが、それだけで根本問題が解決するものではないという言葉も聞いています。

増田氏は「このままでは896の自治体が消滅しかねない」という東京一極集中に警鐘を鳴らす「地方消滅」という書籍を出すなど、地方分権に積極的な立場です。

果たして岸田政権で、これまで遅々として進まなかった成長戦略が一歩でも前に進むのか。

「デジタルが日本を救う」というお題目は果たして正解なのでしょうか。さらに、アベノミクス成長戦略継承なら、安倍政権下「国家戦略特区構想」はどうなっているのかを検証してもらいたい…などなど、今後とも目が離せないです。

これが岸田政権の通信簿の評価項目に入ることを、ここで指摘しておきたいです。

ここからは「デジタル田園都市構想」がどんなものなのかについて、解説していきます。

「デジタル田園都市構想」とは?関係する3名の大臣

前述の通り「デジタル田園都市国家構想」は、岸田文雄首相が成長戦略の柱の1つとして掲げているものです。つまり、地方のデジタル化によって、経済を発展させるというのです。

このプロジェクトに関わる大臣は3人です。

牧島かれんデジタル担当大臣は5日の閣議後記者会見で、若宮氏を中心に実現会議を開く方向で調整を進めていることに言及しました。

若宮健嗣内閣府特命担当相の担務は消費者及び食品安全、クールジャパン戦略、知的財産戦略および国際博覧会担当、共生社会担当、まち・ひと・しごと創生担当となっています。

牧島かれんデジタル担当大臣の他に、野田聖子地方創生担当大臣も関わってくるのでしょう。松野博一官房長官は5日の記者会見では、岸田内閣で地方創生分野は野田聖子地方創生担当相と若宮健嗣まち・ひと・しごと創生担当相が連携して取り組む方針を明らかにしています。

Next: キーワードは「地方活性化+成長戦略」。日本は浮上するか?



地方活性化を目指すデジタル社会構想会議

人口急減地域への支援強化、東京一極集中の是正に取り組む…。

首相と全閣僚で構成する「デジタル社会推進会議」や有識者会議「デジタル社会構想会議」など、デジタル社会の形成に向けた国の関連会議がそれぞれの役割を果たし、「デジタル田園都市」というものが、日本のそれぞれの地方で実装されていくことになるとしています。

昨年9月、平井担当大臣のもと「デジタル社会構想会議」を立ち上げました。

慶応義塾大学の村井純教授が座長を務めた構想会議は、有識者12人で構成、Zホールディングスの川邊健太郎社長、楽天グループの三木谷浩史会長兼社長、慶応大大学院政策・メディア研究科の夏野剛特別招聘教授らが参加しました。

昨年会合では、マイナンバーカードを生かした利便性の高い行政サービスの実現のほか、産業全体のデジタル化と、それを支えるインフラ整備を進める方針なども確認したとのことでした。

成長戦略の柱の一つなので、デジタル整備のためのインフラ設備に大きな予算を充てて、産業を活性化する狙いもあるのでしょう。

具体的には、5G網の整備に加え、インターネット用サーバーなどを集めた「データセンター」の設置、人工知能(AI)などを活用した最先端都市「スーパーシティ」の導入などを通じ、地方のデジタル化を進めるとしています。

政府は「デジタル実装加速化交付金」の創設などで、これらを後押ししたい考えだとしています。

デジタルデバイト(情報格差)の解消

誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化を……岸田総理が掲げるデジタル庁のミッションで、デジタルデバイド(情報格差)を解消し、全国津々浦々にデジタル化の恩恵を行き渡らせるための道筋を示すのだそうです。

デジタルデバイド(digital divide)とは、コンピュータやインターネットなどの情報技術(IT:Information Technology)を利用したり使いこなしたりできる人と、そうでない人の間に生じる、貧富や機会、社会的地位などの格差のことを言います。

コンピュータや通信ネットワークは、いまや職場や日常生活に深く入り込んでいて、それを活用できる者はより豊かで便利な生活や高い職業的、社会的地位を獲得できるのですが、情報技術の恩恵を受けられない人々は社会から阻害され、より困難な状況に追い込まれてしまうというのが現実にあります。

格差発生には様々な要因があり、以下などが挙げられます。

個人間:集団間:年齢・学歴・収入などの違いにより生まれる格差
国際間:先進国や発展途上国での国家間格差
地域間:都市部と地方部ということで生じる格差

問題は、情報技術の恩恵を受けられない「理由」にあります。「環境」と言い変えても良いでしょう。

たとえば「個人間・集団間」における年齢の問題。中高年や高齢者が新たにコンピュータの操作法などを覚えるのは困難な人が多いということです。

もちろんいまや高齢者のYouTuberもいるわけで、ネットがかなりフレンドリーな高齢者も増えてはきていますが、それでもやはり、少なからずもネットそのものを生活習慣に取り入れることに抵抗感があることが少なくない高齢者もいるということです。

深刻なのは、貧困のために情報機器の購入が困難だったり、身体機能の障害により機器の操作が困難だったり、情報技術の恩恵を受けられない場合があります。

などなど、地域ごと、国家ごとに格差が生じることもあります。

格差が生じる結果、デジタル知識がない層の孤立化があります。外部との情報手段が持てないということも考えられます。

デジタル知識が収入格差を生むことにもなります。DXの遅れは、企業の収益性にも影響があり、労働生産性の低下にも繋がります。セキュリティリスクも考えられます。

元々豊かな先進国や大都市が情報技術でさらに発展したり豊かになる一方、情報技術に十分アクセスできない発展途上国や農村部などが貧しいまま取り残されるという、格差の拡大・固定化の問題があるとされています。

岸田内閣では、このデジタルデバイト(情報格差)解消に取り組むとしているのです。お手並み拝見です。

Next: 牧島かれんデジタル相からは目新しい政策が出てこない



現在のところ目新しい政策はまだ見えていない

牧島かれんデジタル大臣が述べている文章を読んでみても、「DX」とかお馴染みの言葉は出てきて「DN(デジタル・ニッポン)」という言葉も登場してきていますが、具体的にやることとなると「党内ペーパレス会議の実施」しか拾えないのですね。

地方活性化として、デジタライゼーションで地方にいても大都市並みに仕事ができ、収入が得られ、楽しく幸せに暮らせる……というのが「デジタル田園都市構想」だとしていますが、リモート会議、リモートワーク推進ということを言いたいのでしょうかね。

詳しいことは、自民党本部の制作ページから確認することができます。
https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/news/policy/200257_1.pdf

DXに関わる提言として、売買契約書、株主総会、医療診断、オンライン薬局、義務教育、試験制度、各種金融サービス党、行政サーボスや生活全般のデジタル化を徹底して、非対面、非接触、非(紙への)押印の手続きに変えるべき。

決済に関しても、顔認証を含め、非接触型への以降を進めるべき。

課題の指標化や、ベストプラクティス公開、DXサービス登録、DX銘柄の選定、DX投資への税制優遇等の検討。

すごい大量のページになっていますが、オンライン診療とオンライン教育、リモートワークしか目に止まらなかったのですが、特に新しい具体的なものがあるとは思えないのですがね。

オンライン診療やオンライン教育、リモートワークが揃えば、地方にいながら都会にアクセスすることができます。それが地方活性化だと言われれば、地方に住みながら都会のメリットを享受するということではあります。

限界集落や過疎地域における自動運転車の巡回、買い物補助や通院に利用してもらうというインフラ整備は、以前から考えられていたことです。

岸田内閣だけでなく、菅内閣でも、「デジタル」といえばマイナンバー、マイナポイント付与によるマイナンバーカード普及促進が、経済効果をもたらすというロジックは、そのまま継続されるのでしょう。

「新しい資本主義」を考える上での「デジタル田園都市構想」……何やら言葉だけが先行して、中身がさっぱりイメージできないというのが、岸田内閣の特徴なのでしょうかね。

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image by:World Economic Forum at Wikimedia Commons [CC BY-SA 2.0], via Wikimedia Commons

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※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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