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「2〜3年は欠品続く」薬剤師が悲鳴。ジェネリック医薬品を推して医療危機を招いた政府の罪=原彰宏

薬不足が深刻です。ジェネリック薬品だけでなく先発薬品すらも供給不足となり、命の危険のある患者が薬を飲めないということにもなりえます。今後2~3年は供給不足の状況が続くと予想されていますが、国はこの事態を予見できなかったのでしょうか?(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2021年12月20日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

2~3年は続く医薬品の供給不足

「薬がない…」近所のお世話になっている薬局の薬剤師先生が、嘆いていました。

ジェネリック医薬品が足りないのはニュースにもなっていますが、先発品も品薄状態で、すでに欠品が続出。その薬剤師の方の話では、向こう2~3年は供給が厳しい状況が続くだろうとのことです。

「ご迷惑をおかけして申し訳ない…」。いやいや、こればかりは「申し訳ない」では済まされないでしょう。薬を飲み続けないと命に関わる人もきっといるはずです。

薬を飲むことで血圧を調整している人、心臓病再発予防の血液を“サラサラ”にする薬、骨粗鬆症治療薬、てんかんやアレルギーをおさえる薬……などなど、毎日飲み続けなければならない薬がもらえないと、大変なことになります。

自己負担を考えてあえてジェネリックにしているのに、ものがないからと先発品を処方されると、薬代だけでも何倍も膨らみます。飲まないわけにもいかないので「受取拒否」するわけにもいきませんからね。

ジェネリックだけでなく先発品も供給不足

いま報道では「ジェネリック医薬品の供給不足」で、先発品に切り替えられることで、患者さんの負担が何倍にも増えるということが問題になっています。

それはそれで家計が大変なときには重大な問題ではありますが、それ以上に、私が聞いた薬局の現場では、先発品すらもない。

つまり、患者さんに薬を届けること自体ができない……という状況になっているということなのです。

それは、この薬局だけでないとのことです。「2~3年はこの状態は解消されないだろう…」「欠品・品薄で、メーカーからの供給がかなり細くなっている」と、薬局の方はおっしゃっておられました。

報道されてはいませんが、めちゃくちゃ深刻な状態だということです。

Next: 「供給できません」では済まされない。ジェネリックを推進した政府の罪



あらゆる製品が「供給不足」に

産業界においては、コロナ禍において供給不足が頻繁に見られます。材木不足で家が建たない、半導体不足でパソコンが作れない・納車ができない、材料不足で製品化手前でストップしている製品が続出しています。

さらには、気候変動による食料品不足もあります。中国の旺盛な胃袋による豚肉不足という側面もありますけどね。

これらは、まあ今すぐに供給できなくても、命には別状なく、食料でも代替可能ではありますが、こと薬となると、我慢とか代替品という話ではないですよね。

この薬品供給不足のときに大阪での薬品倉庫が火事になり、保管されていた薬品が消失したとのことです。

そのことが、ジェネリックだけでなく先発品も品薄状態になったというのです。

なぜジェネリック医薬品が供給不足になっているのか?

そもそも「ジェネリック医薬品」とは、先発製品の特許が切れたあとに製造できるもので、研究開発費や特許料がかからない分、安いコストで製造できる薬のことです。

医療費削減において、国はジェネリック医薬品使用を推進しています。

実は、2020年9月までに後発医薬品使用割合80%を達成するという政府目標を踏まえ、さらなる後発医薬品の使用を促進するために、薬局における後発医薬品調剤体制加算については、「後発医薬品調剤体制加算1(後発品置換率75%以上)」が3点引き下げ(18点→15点)、「後発医薬品調剤体制加算3(後発品置換率85%以上)」が2点引き上げ(26点→28点)られました。

薬局としては、ジェネリック医薬品を処方すれば儲かるという仕組みになっているのです。

さらに、後発医薬品の調剤数量割合が著しく低い薬局に対する調剤基本料の減算規定というものもあるのです。その減算基準が、「いわゆる後発医薬品減算」の対象範囲が、後発医薬品の調剤数量割合20%以下の薬局から、40%以下の薬局に拡大されました。

医療費削減のための国策ですから、ジェネリック医薬品を扱うメーカーの市場参入も増え、国内に200社ほどになりました。大手メーカーも子会社を作ってジェネリック医薬品販売に乗り出しています。

ただ安値競争があり、急激な後発医薬品メーカー参入で、設備なり製造過程の整備などに、十分な資金を投じていないのではないかという、後発医療品メーカーの構造問題が問われます。

それにしても、これだけのメーカーがあるのにも関わらず、ジェネリック医薬品供給が不足している背景には、いったいなにがあるのでしょう…。

Next: なぜジェネリック医薬品が供給不足に?相次ぐ製薬会社の不祥事



相次ぐ製薬会社の不祥事

去年、水虫など真菌症の治療薬に「睡眠導入剤」の成分が混入した問題が発覚した福井県あわら市の医薬品メーカー「小林化工」は、福井県から最長となる116日間の業務停止命令を受けていました。

ただ、業務停止機関が6月5日に満了したのですが、製造および出荷について業務再開の目途は立っていないとのことでした。

福井県から業務改善命令が発出されており、業務の改善が認めなければ、業務は再開できない状況にあり、特別調査委員会が調査する過程で、製造部門だけでなく、研究開発部門にも不正が見つかり、12製品が薬価削除になるとともに、厚労省からも業務改善命令を受けているのです。

日医工は昨年4月から今年1月にかけて品質の不備などを理由に75品目を自主回収しています。

長生堂製薬や共和薬品工業などで製造上の不備が発覚しており、代替需要が集中する一部メーカーも増産が追いつかず、供給の制限を余儀なくされる事態となっています。

日本ジェネリック製薬協会(GE薬協)に加盟する38社だけで見ても、供給を絞っている品目は今年10月時点で1,869品目に上っているそうです。

後発医薬品目メーカーの構造問題や拡大路線のひずみについて、「製薬業界で話題のニュースがよくわかる」をコンセプトの「AnswerNews」は記事で取り上げています。
※参考:後発医薬品 品質不正が示す「薄利多売ビジネス」の限界 – AnswersNews(2021年10月18日配信)

ようは、企業側の事情で供給できない状況になっているということです。小林化工の件に関しては、友人が実際に被害にあっていたので、ことの深刻さを強く感じていました。

中国やインドからの原薬輸入が困難に

次に「原薬輸入」が困難な状況に陥っているということです。

ジェネリック医薬品製造における「原薬」を、中国やインドから輸入しているそうなのですが、コロナにより、製造が滞り、運搬にも支障をきたして、原薬確保が困難になっていることも、薬の不足要因となっています。

原薬に関しての情報は「日本ジェネリック製薬協会JGA」のホームページにあります。

決定打は大阪物流倉庫大規模火災

そして、このような状況の中で決定打となったのが、大阪此花区の物流倉庫で起きた大規模火災。先月の話です。

大阪府病院薬剤師会はホームページに「日立物流西日本の物流センター火災による医療用医薬品の安定供給に関する対応への協力について」と掲載しています。

この倉庫には複数の製薬会社の薬品が大量に保管されており、あるメーカーはこの火事で8割の薬品を失ったとしています。

厚労省は、各都道府県に、一部医薬品供給に不安定な状態が発生することを受けて、医療機関に対して仮発注などの過度な受注を避けるように通達を出しています。

Next: いまだにFAX?薬局と医療機関を結ぶネットワークは時代遅れで貧弱



薬局と医療機関を結ぶネットワークは時代遅れで貧弱

こういうことになって思うことなのですが、患者さんの状態別に、薬の供給における優先度を決めることはできないのでしょうか。

コロナ患者さんへの対応、ワクチン接種の優先度を議論するときもテーマになっていましたね。

もし患者さんの健康状態がデータ化されていて、それが医療機関で共有できていたとしたら、患者さんごとに薬の供給頻度を変えることはできたのかもしれませんね。

テレビでこのニュースを報道しているシーンを見ていると、メーカーから薬局宛に送られる品薄情報連絡がFAXでやり取りしているのを見ました。「納品日未定」という印字をテレビが映しているのですが、思わず「FAX?」と叫んでしまいました。

いつも行く薬局も古いPCを使い、「お薬手帳」に貼り付けるシールをプリントアウトしてくれています。薬の情報も打ち出してくれているのですが、おそらく薬局で使用する専用ソフトが有るのでしょうが、顧客データなどは、このお店にある端末で管理していて、つまり、この古いPCの中だけにデータを保管しているのだろうと思いました。

薬局同士でネットワークが繋がっていれば、お互い足りない薬を融通しあえるのではないかと思うのですが、それは商売上、難しいのでしょう。それ以前に、インフラ整備の問題かもしれません。

薬局とクリニックでデータを共有する、あるいは地域の診療所とネットワークを繋ぐといったことは、どこから見てもしていなさそうなのです。それはクリニック同士でも同じで、医院ごとにデータを管理していて、地域連携とか、ネットワーク管理していないように思われます。

大きな病院で検査したデータは、患者自身がDVDで持ち運んでいます。紙やレントゲン写真そのものを持ち運ばなくなっただけでも“まし”ですかね。

専門科が違うクリニックに患者を紹介するとき、紹介状と基礎データを入れた封筒を患者に持たせます。もっとも紹介状作成でお金になりますから、データ送信だと“ありがたみ”が演出できませんからね。

別のクリニックで検査したデータは、おそらくメールで「資料添付」でやり取りしているのかもしれませんね。個人情報保護の観点もあるのでしょう。ネット空間は危険地域だという認識が強いのでしょうね。

そのためのブロックチェーン技術があるのですが、果たして社会インフラの隅々にまで、ブロックチェーン技術が浸透するのは、いったいいつの日のことになるのでしょう。

供給量の先細りを国は予見できなかったのか

いずれにしても、命に関わる「薬不足」の状況は、コロナによる原薬輸入困難状況や大阪物流倉庫火事など、想定できない要因はあるとしても、後発医薬品メーカーの不祥事による供給停止という要素が最も大きい様子。

そのことに関しては、ある程度、供給量の先細りを予見して、政府は何らかの対策は打てたのではないかと思われます。

役人は起きたことの対処はうまくても、まだ見ぬ未来を予見して対応する能力は、コロナ対応を見ても十分だとは言えません。

ジェネリック医薬品供給不足が、どうもコロナとは関係のない政策や行政にあるような気がしてならないのですが、こういうことは、この国ではこれからも多く見られるのでしょうね…。

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※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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