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なぜエムスリー株は高値から半値に?成長株が軒並み下落…持ち株が下がったときの対処法を解説=栫井駿介

「成長株」の株価下落が止まりません。代表格であるエムスリー<2413>は、高値から50%近くも下落しています。成長株というと、将来が期待されて買いが入りやすいものですが、なぜ直近でこれほどまでに下がっているのでしょうか?その理由と、買った株が下がっている方はどのように対処するべきかもあわせて解説したいと思います。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

なぜエムスリーは高値から50%も株価が下がった?

「成長株」「新興株」と呼ばれる銘柄が大きく下落しています。

代表格であるエムスリー<2413>は直近6ヶ月で34%、高値からすると50%も下落しています。

エムスリー<2413> 日足(SBI証券提供)

マザーズ指数 日足(SBI証券提供)

東証マザーズ指数も直近で大きく下がっています。

これに合わせて成長株といわれる株は下がっている状況です。

エムスリーは元々ものすごい成長企業で、医療関係のデジタルトランスフォーメーション(DX)を担っており、コロナの影響でさらに重要度が増し、大きく成長しました。

業績はなんら問題の無い会社です。

マクロ的な金融経済の背景を見ると、この下落には確かな理由があります。

アメリカ連邦理事会(FRB)の議事録が公開され、それによると、金融引き締めの方向に舵を切り始めているということが明らかになりつつあるのです。

これまでは、コロナショックで経済が厳しいので金融緩和政策が行われてきました。

それが2022年末頃まで続くと見られていましたが、議事録が公開されると、利上げの時期が早まり、2022年3月頃には利上げが行われるということが同意事項となりつつあります。

また、保有資産を縮小し、市場にばらまいたお金を回収しようという動きも見られ、更にはこの保有資産の縮小は前回の正常時よりも速いスピードで行われるとも言われています。

金融緩和が終了ということになると、どうしても株価が下がりやすくなります。

金利が低い時はお金を借りてでも投資をしようという動きが出ますが、金利が上がるとなると、今のうちに儲かった分を売ってお金を返そうという動きになるからです。

その中で、特に成長株が下がる理由を解説します。

Next: なぜ金融引き締めが必要なのか?買った株が下がったときの対処法



なぜ金融引き締めが必要なのか?

まず、そもそもなぜ金融引き締めを行わなければならないのでしょうか。

金融緩和の最大の副作用はインフレです。

これはアメリカの消費者物価指数の推移ですが、元々1.4%ほどだったものが直近で6.8%というかなり高い数値となっています。

これだと、毎年10%近くずつ物価が上がっていくということになっています。

そうなると困るのが貧困層や年金などで暮らすお年寄りです。

インフレが起こる要因の1つは供給が需要に追い付いていないということがあります。

そして、石油や石炭などのコモディティーは、需給の問題もありますが、お金が余っているから少しでも儲かるところに手を伸ばそうという投機的な動きも生まれ、価格を引き上げてしまうことになります。

これを止める1つの手段が、金融引き締めです。極端なインフレで生活を困窮させないために必要となってきます。

なぜ金利が上昇すると、成長株の株価が下がるのか?

では、なぜ金利が上昇すると特に成長株の株価が下がるのでしょうか。

論理的にはこの計算式で説明できます。

成長率が高いということは、分母が小さくなる、つまり、許容されるPERが大きくなるということになります。

しかし、成長率だけが重要なわけではなく、金利も重要となってきます。

例えば金利が7%から10%に上がったとすると、許容されるPERが50倍から20倍に下がることとなり、株価は60%下落することになります。

つまり、成長率が高いほど金利に対する感応度が高くなるということです。

Next: エムスリーの株価下落が顕著なワケ



エムスリーの株価下落が顕著なワケ

エムスリーの例で言うと、PERは一時80倍や100倍にもなっていました。

年率30%というものすごい成長率で、事業基盤も盤石だったのですが、やはり株価が上がりすぎていた側面があります。

企業が成長していたのも確かですが、金利がいつまでも低いわけではなく、また、短期的な投資家が上がるところにくっついてきて無駄に株価を引き上げてしまい、バブル的な株価になってしまっていたところがあります。

このことから、PER100倍とか、そういう企業に投資するのはなかなか難しいと私は常々言っているのです。

「エムスリーの株価が下がってきたので、いま買うべきですか?」という質問をよく受けるのですが、下がったとはいえ、まだPER50倍ありますから、これから金利が上がるという局面ではPERが高い銘柄ほど株価が下がりやすいので、PER50倍が許容できる範囲かというと疑問符が付きます。

狙い目企業の見つけ方~PEGレシオとは?

割高すぎる企業に手を出してはいけませんが、一方で、巻き込まれただけの企業もあります。

成長企業がずるずると下がっている局面で、それにつられて下がっているだけということです。PERもそれほど高くなく、業績としてはしっかり成長している企業というのも珍しくありません。

この3年の東証マザーズ指数を見ると、コロナ・ショックで一時大きく下がり、その後に2倍くらいまで上がったのですが、そこからずるずると下がり、今ではコロナ前の水準に戻ってしまっているという状況です。

しかし、株価というものは基本的に業績に比例するものです。

株価が戻った一方で業績が以前より上がっていてこれからも上がっていくなら、当時は割安ではなかったものが、今では成長性を考えると十分に割安といえる企業がゴロゴロしていると思います。

ここで有用な考え方が『PEGレシオ』というものです。

PEGレシオが1を下回ると割安、0.5を下回ったなら相当割安とされています。

実際に数字を当てはめてみます。

PER30倍で年率30%の成長が3年続く企業があったとすると、PEGレシオは1でまずまず割安といえます。これが3年間毎年30%成長するとなると、複利計算で3年後には利益が2.2倍になっている計算になります。3年後のPERは13.6倍となり、これ自体は平均的な数字ですが、年率30%も成長する高成長企業がPER13.6倍で放っておかれるはずは無く、株価は今よりも上がっている可能性が高いです。

Next: 買った株が下がって不安になったら…株価ではなく業績を見よ



株価を追ってもしょうがない。業績を見よ!

そういった企業を探すときに有用なものが、マネックス証券の銘柄スカウターです。

銘柄スカウターでのスクリーニングのやり方はYouTube動画内で説明しているのでぜひご覧ください。

株価やPERというものは、かなりふわっとしていて、投資家の心理などによって簡単に大きく動きます。

コロナショック後の大きく上昇した時には利益確定の売りに押されやすい状況でしたし、日本市場には腰を据えた投資家がまだ少なく、個人投資家の新興市場では利益が出たら売ってしまうという動きも出やすいです。

そんな中で、本当に良い企業が安くなっているとしたら、やがて業績がついてくれば株価も業績に追い付いて伸びてくる展開が期待できます。

今、成長企業の株価が下がっているとしたら、チャンスであると言えます。

私が言いたいことは『株価ではなく業績を見よ』ということです。

業績が伸びていればそれに従って株価も伸びてくる可能性が高いです。よほど割高だったら別ですが、PER20倍の企業が年率30%で成長しているなら、数年後に株価が伸びていないということはほぼあり得ないわけです。

そういう観点で見ると、今、株価が下がって不安に苛まれている方も安心して持ち続けられるかと思います。


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image by:Lightman4289 / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2022年1月8日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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